2019年11月15日、札幌国際大学と北海道大学の合同研究チームは、食後の血糖値調節に対する咀嚼の効果は朝と夜で異なること発表しました。
本研究では、「朝食」を良く噛むことで、血糖値をより下げやすくするということが解明されています。
血糖値の調節に重要な「インスリン」のはたらき
インスリンは、私たちの血糖値を下げる働きをしています。
食事で摂取した炭水化物は、体内で分解され、ブドウ糖となります。
このブドウ糖は血液に溶け込み、体中に送られ、細胞内でエネルギーとして利用されます。
この時、血液中にあるブドウ糖を細胞に取り込む働きをするがインスリンです。
インスリンの量が少なかったり、分泌されても上手に働くことができなくなると、血糖が一定の値を超えて高い状態が続きます(高血糖)。
この状態が糖尿病なのです。
実験により、「朝」に良く噛むことでインスリン分泌量が増加することが判明
本研究では以下のような実験を行いました。
【実験内容】
研究では、健康な成人男性9名を対象に実験を実施。
9名それぞれに以下の3種類の試験を実施しました。
・ 75gグルコース溶液(75gのブドウ糖が入った溶液)を用いた経口糖負荷試験
・ 試験食(白米200g)を1口あたり10回咀嚼する試験
・ 試験食(白米200g)を1口あたり40回咀嚼する試験
各試験は、1週間の間隔をおいて実施しています。
また、咀嚼回数の違いを調べる実験は、ランダムに実験順序を決定しました。
経口糖負荷試験、試験食の摂取実験は1日朝晩の2回(朝8時と夜20時)実施しました。
血糖値、iAUC血糖値※1、インスリン濃度、Insulinogenic Index※2を測定し、咀嚼によるインスリン分泌が朝晩で異なるかを比較しています。
【結果】
◎75g 経口糖負荷試験
・ 血糖値:溶液を摂取した60分後以降、朝より夜の試験で高い値の血糖値が検出された
・ 血漿インスリン濃度:朝の30分後の値が夜の試験時にくらべて増加
◎咀嚼回数の比較
出所:北海道大学、札幌大学「咀嚼による血糖値の調節効果は朝と夜で異なることを発見 ~肥満や2型糖尿病の予防と改善を目的とした食事指導への応用に期待~」
・ 血糖値(A):朝に 40 回咀嚼した場合10回咀嚼の場合より低い値が検出
・ iAUC血糖値(B):朝40回咀嚼した場合最も低い値が検出
・ インスリン濃度(C):朝40分咀嚼した場合最も分泌
・ Insulinogenic Index(D):朝40回咀嚼した場合最も高い値が検出
今回の研究では糖分摂取後、朝方の咀嚼運動の強化によって,インスリンの初期分泌能が上昇し、食後の血糖値を速やかに低下させると結論づけられました。
今後の実験の応用
肥満者や2型糖尿病患者(糖尿病予備軍含)では,インスリンの初期分泌が低下、または遅延することが知られています。
今回の研究で明らかとなった朝食時の咀嚼回数を増やすことは、食後の糖代謝の機能を改善させることにつながるため、肥満や2型糖尿病の発症・症状の改善を目的とした栄養食事指導法への応用が期待されます。
また、健康診断での血糖値が気になった方も、朝ごはんを食べる際は40回噛むことを意識してみましょう。
<脚注>
※1 上昇曲線下面積(iAUC):糖負荷後の時間経過にともなう血糖値やインスリンの増加量の面積。血糖値やインスリンの上昇を比較する指標として用いられる。
※2 Insulinogenic Index:糖負荷後30分の血中インスリン増加量を血糖値の増加量で除した値。食後のインスリン追加分泌の初期分泌能の指標となる。この初期分泌が不良な患者は糖尿病に進展しやすいといわれている。
<参考>
北海道大学、札幌大学「咀嚼による血糖値の調節効果は朝と夜で異なることを発見 ~肥満や2型糖尿病の予防と改善を目的とした食事指導への応用に期待~」