国内初の「飲酒に関するガイドライン」案がまとまる!リスクを高めるアルコール量の目安は?

厚生労働省は2023年11月22日、国として初めて「飲酒に関するガイドライン」案をとりまとめました。
飲酒に関するガイドライン内では、その目的について以下のように示しています。

基礎疾患等がない 20 歳以上の成人を中心に、飲酒による身体等への影響について、年齢・性別・体質等による違いや、飲酒による疾病・行動に関するリスクなどを分かりやすく伝え、その上で、考慮すべき飲酒量(純アルコール量)や、飲酒の際に留意していただきたい事項(避けるべき飲酒等や配慮のある飲酒の仕方等)を示すことにより、飲酒や飲酒後の行動の判断等に資することを目指すものとします。
引用:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)」

この記事では、ガイドライン案の内容を、保健指導業務に従事している管理栄養士が解説していきます。

飲酒による身体への影響について

飲酒に関するガイドライン案では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量の目安を、「1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上」としています。
この「純アルコール量」ですが、聞き慣れない方も多いのではないでしょうか?
販売されているごく一部の商品に小さく記載されているものもありますが 、まだまだ一般的に広まってはいません。
今回のガイドライン案では、純アルコール量に着目しながら自分に合った飲酒量を決めることが大切とされており、今後は商品への記載が増えるのではないかと考えられます。

純アルコール量は以下の計算式で求めることができます。

・飲酒量(ml)×アルコール度数(%)÷100× 0.8
例:アルコール度数5%の500mLの缶ビールの場合
・500×0.05×0.8=20g

純アルコールの量を計算できるサイトもあるので参考にしてください。
健康おきなわ21「純アルコール計算」

一概に安全な飲酒量を示すことはできない

前述の計算式から、アルコール度数5%の500mlの缶ビール1本には、純アルコールが20g含まれていることがわかります。
つまり、男性なら1日2本、女性なら1日1本以内に飲酒量を止めておけば、ガイドライン案で示された純アルコール量を超えることはありません。
しかし、この目安量を守りさえすれば、生活習慣病のリスクを下げられる訳ではありません。

アルコールは、少量なら健康に良いという意見もありますが、本ガイドライン案では、たとえ少量の飲酒であっても高血圧や、男性では食道がん、女性では出血性脳卒中のリスクを上げる研究があることを示しています。
またWHO(世界保健機関)などでも、純アルコール量が少ないほど飲酒によるリスクが低くなると発表されています。
飲酒ガイドライン作成検討会の委員からも「この量は絶対飲んでも大丈夫」という考え方が普及しないように注意すべきという意見がありました。

その理由として、飲酒による影響には個人差がある点があげられます。

年齢による差

高齢者は、体内の水分量低下などが影響し、酔いやすくなる、認知症のリスクを高めるなどの危険性があるとされています。
また、10代はもちろん、20代の若年者は脳の発達段階であり、飲酒によって脳の機能が落ちる、生活習慣病のリスクが高まるなどの可能性があるとされます。

性別による差

女性は、男性と比べて体内の水分量が少ないことやホルモンによる影響で、アルコールの身体への影響が大きくあらわれやすいとされます。
そのため、純アルコール量による基準にも差があります。

体質による差

アルコールを分解する分解酵素のはたらきの強さによる個人差もあります。
アルコール度数5%の500mlの缶ビール1/2本(純アルコール量10g程度)で、顔が赤くなったり動悸や吐き気がしたりすることをフラッシング反応と呼びます。
こうした反応が起こる人は、分解酵素の働きが弱い可能性があり、飲酒によるがんの罹患リスクが高いと、多目的コホート研究によって明らかにされています。

健康に配慮したお酒との付き合い方に関して

飲酒に関するガイドラインでは、健康を守り、飲酒によるさまざまなリスクを回避するために以下のような対策を求めています。

・自らの飲酒状態を把握する

自分の状態に合わせた無理のない飲酒によって、さまざまなリスクを減らすことにつながります。

・あらかじめ飲む量を決めておく

自分であらかじめ飲酒量を決めておくことで、過度な飲酒を避けられます。

日常的に保健指導を行っている立場としては、「酔っている=飲み過ぎ」と飲酒量を決めるのではなく、ガイドライン案の純アルコール量の目安を参考にすることが望ましいと考えます。
飲む量を決めていても一度飲むと止まらないという方は、1日決められた量だけを冷蔵庫で冷やす方法がおすすめです。

・飲酒前または飲酒中に食事をする

飲酒前や飲酒中の食事は、血中アルコール濃度を上がりにくくする効果があります。

・飲酒の合間に水を飲む

お酒の合間のお水は、アルコールをゆっくり分解・吸収させる効果があります。

・休肝日をつくる

毎日の飲酒は、アルコール依存症につながる可能性を指摘されています。 定期的に飲酒をしない日を設けるよう、本人だけでなく周りの人も配慮しましょう。


飲酒に関するガイドライン」(案)をもとに飲酒によるリスクについて解説しましたが、「お酒の味を楽しめる」「ストレス解消になる」「コミュニケーションをスムーズにする」など、メリットも多くあります。
一方で、アルコールの摂取には無視できない危険があるため、健康・安全面のリスクに関して知ったうえで、節度を守って楽しむことが大切です。
年末年始にかけて忘年会や新年会でお酒を飲む機会が増えます。
お酒との付き合い方に関して、今一度振り返るきっかけとしていただけたらと思います。

<参考>
厚生労働省「第5回飲酒ガイドライン作成検討会資料」
国立研究開発法人国立がん研究センター「フラッシング反応別にみた飲酒とがん罹患リスクとの関連について」

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宮野 友里加株式会社ドクタートラスト 管理栄養士

投稿者プロフィール

年間100人以上の特定保健指導、ダイエットサポートを食事面、運動面から行う管理栄養士。
食事に関するアドバイスはもちろん、自分自身がデスクワークを始めてから悩まされている「肩こり・腰痛」「目の疲れ」の予防、改善方法についてもセミナーや執筆活動を通して積極的に情報提供している。
目標は「働く世代の方々にとってが管理栄養士が身近な存在になること」
【保有資格】管理栄養士
【ドクタートラストの特定保健指導サービス詳細はこちら】
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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