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脂肪の分解、認知症予防などの効果が期待できる「マイオカイン」とは
- 2023/11/28
- ドクタートラストニュース
今回は、筋肉が分泌する物質「マイオカイン」についてわかりやすく解説します。
筋肉が分泌する「マイオカイン」とは
マイオカインとは、筋肉から分泌される生理活性物質で、ホルモンのような働きをします。
筋肉が運動や活動によって、収縮するときに分泌されます。
また、マイオカインには善玉と悪玉があり、運動や筋力トレーニングをすると善玉が、運動不足が続くと悪玉が分泌されることがわかっています。
さらに、善玉のマイオカインが分泌されると、健康上さまざまな効果があることもわかっています。
以下では、善玉のマイオカインが健康に与える5つの効果を紹介します。
マイオカインが健康に与える影響
① 骨の形成
マイオカインは、骨を作ることに関係する「骨芽細胞」を活性化させ、骨量の減少を防ぐとされています。
また、過剰に増えると骨を破壊してしまう原因となる「破骨細胞」が作られるのを抑制してくれる働きがあることも研究からわかっています。
つまり、運動を積極的にすることで善玉のマイオカインが分泌され、骨がもろくなるのを防いでくれるのです。
② 認知症の予防
筋肉の衰えがアルツハイマー病の発症を早めるされています。
一方で、運動をすることでマイオカインが記憶に関係するタンパク質(BDNF)を増やし、記憶力や認知機能を向上させることがデータで判明しています。
そのため、運動をすることがアルツハイマー型認知症の予防につながります。
③ 脂肪の分解
脂肪には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があります。
白色脂肪細胞は皮下や内臓にあり、体の中の余分なエネルギーを脂肪として貯めてしまいます。
一方、褐色脂肪細胞は主に鎖骨付近や胸周りにあり、脂肪を燃焼し熱を産生する働きをしています。
そのため、脂肪を分解するためには褐色脂肪細胞を増やすことが必要です。
マイオカインは、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に近い働きに変化させるとされています。
つまり体を動かし、マイオカインを分泌することで痩せやすい体になるのです。
④ 動脈硬化の予防
血管の内側にある血管内皮細胞は様々な物質を作ったり、分泌したりする働きがあり、血管の収縮に関係する一酸化窒素の調整を行っています。
一酸化窒素が少なくなると、血管の弾力性が弱くなり、動脈硬化につながります。
マイオカインは一酸化窒素の産生に関係し、動脈硬化を防ぐ役割をすることが、研究からわかっています。
つまり、運動でマイオカインを分泌させると、動脈硬化の予防につながるのです。
⑤ がん細胞の抑制
免疫細胞の一種であるNK細胞はがん細胞を攻撃し、がんの進行を抑制したり、がんを小さくする働きがあります。
マイオカインはそのNK細胞の働きを高め、がん細胞抑制の一端を担っているという研究結果があります。
また、がん細胞をアポトーシス(細胞を自死させる働き)させるという働きがあることも研究でわかっています。
つまり、マイオカイン分泌により、がん細胞の増殖を予防できる可能性が示唆されています。
マイオカインを分泌させるには?
これらのようにマイオカインを分泌させることで様々なメリットがありますが、マイオカイン分泌のためには運動が重要です。
運動も筋力トレーニングのようなハードなものでなくても、軽いストレッチやウォーキングなどの有酸素運動でも分泌されます。
また、継続して運動を行うことで、同じ運動量でもマイオカイン分泌量が増加したという研究データもあります。
そのため、運動強度が低くても運動を継続することが重要です。
オススメの筋トレ部位は大腿四頭筋(前もも)や大殿筋(お尻)のような大きい筋肉です。
目安は20~30分程度の運動を週3回以上!
ぜひ継続を意識して、実施してみてください。
<参考>
・ 古市泰郎、藤井宣晴「マイオカインによるサテライト細胞の制御機構」(『基礎老化研究』2016年1月)
・ 藤井宣晴、眞鍋康子、古市泰郎「骨格筋から分泌されるマイオカインの探索」
・ 眞鍋康子「マイオカインは運動模倣薬になるか?」(『薬学雑誌』2018年10号)
・ 名古屋ハートセンター「骨格筋の役割」
・ 東浩太郎「骨粗鬆症発症のメカニズム」(『日本老年医学会雑誌』2019年2号)
・ 筑波大学大学院人間総合科学研究科生命システム医学専攻遺伝子制御学研究室「脂肪細胞の分化メカニズム」
・ 名古屋大学「運動による心臓病の改善メカニズムを解明!~骨格筋から産生される善玉ホルモンを発見~(PDF)」
・ 家光素行、真田樹義、浜岡隆文、橋本健志、藤田聡、佐藤幸治早野 俊哉「運動による骨格筋由来マイオカイン分泌を活用した動脈硬化改善のための運動療法の開発(PDF)」
・ 長瀬綸沙、東田千尋「骨格筋が萎縮すると分泌されるヘモペキシンはアルツハイマー病の認知機能障害発症を早める」(『Journal of Cachexia,sarcopenia and Muscle』2021年)
・ 青井渉ほか「A novel myokine, secreted protein acidic and rich in cysteine(SPARC), suppresses colon tumorigenesis via regular exercise」(『Gut』2012年6号)