日本の人手不足って本当に深刻なの?「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」の結果からみる現状
- 2023/10/31
- ダイバーシティ
人手不足って結局どれくらい深刻なの……?
2023年9月28日に日本商工会議所ならびに東京商工会議所は、「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」の集計結果を公表しました。
この調査は、以下の4つの視点から中小企業の実態を把握し、意見・要望活動に活かす目的で行われています。
1. 人手不足の状況と対策
2. 女性のキャリアアップ支援
3. 仕事と育児の両立
4. 外国人材の受け入れ
人材が足りないと言われ続けている日本ですが、実際のところどれほど深刻なのかを考えたことはありますか?
今回は、この集計結果の数字から人手不足や、不足解消のための施策の現状を確認していきます。
調査目的4つの結果詳細
① 人手不足の状況と対策
まず、そもそも「どの業種」で「どれくらい人手不足」なのかをみていきます。
今回の調査では回答企業数3,120社のうち、68.0%もの企業が「(人手が)不足している」と回答しています。
これは2015年の調査実施以降、最も高い数値で、コロナ前の2019年調査結果よりも高い結果です。
2020~2021年のコロナ禍での調査では、人手不足感が多少落ち着いたようですが、これは在宅勤務の普及であったり、人々が自粛生活をしていたことが影響していると考えられ、根本的に人手不足が解消したわけでは決してありません。
また、「(人手が)不足している」と回答した68.0%の企業で、人手不足が「非常に深刻(人手不足を理由とした廃業等、今後の事業継続に不安がある)」「深刻(事業運営に支障が生じている)」と回答したのは64.1%でした。
つまり、全体の4割程度が「人手不足が深刻である」と回答しているのです。
業種でみると、最も「(人手が)不足している」と回答したのは、介護・看護業の86.0%で、その後は建設業の82.3%、宿泊・飲食業の79.4%と続きます。
ただ、一番数値の低い製造業でも58.8%と6割近い回答なので、業種問わず人手が不足していると言えるでしょう。
対策としては、「正社員の採用活動強化」が68.5%と多く、足りない分の人手を獲得する動きをする企業が多いようですが、超高齢社会で労働力人口の減少が危惧されている現状もあり、人材確保(採用拡大、離職防止)の取り組みとして、「賃上げの実施、募集賃金の引き上げ」(72.5%)や「ワークライフバランスの推進(残業時間の削減等)」(38.1%)を行う企業も増えてきているようです。
一方で、フレックスタイム制などの「多様で柔軟な時間設定による働き方の推進」、テレワークなどの「場所にとらわれない柔軟な働き方の推進」、「兼業・副業の許可」に関しては、まだまだ少なく、従業員それぞれのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方をできるように整備することが、今後の課題となりそうです。
② 女性のキャリアアップ支援
先述したように、日本は超高齢社会であり、労働力人口減少が課題です。
採用によるマンパワー増加も必要ですが、既に働いている従業員が辞めてしまわないように支援することも重要になってきます。
特に女性は妊娠出産などのライフイベントで職を離れてしまうケースが多いですよね。
このような状況からか、女性のキャリアアップ支援について「必要性を感じている」と回答した企業は84.3%と8割を超えました。
しかし、その内の6割弱が「十分に取り組めていない」としており、結局は根本課題である人手不足=マンパワー不足で、手が回らないという負のループのように感じます。
マンパワー不足以外の課題としては、「本人が現状以上の活躍を望まない」が53.0%で最多ですが、これは後に続く「育成のための仕組みやノウハウが不足している(研修等)」(40.0%)や「出産・育児などと両立できる体制・制度が不十分」(26.4%)などが影響していつ可能性があります。
2023年ノーベル経済学賞受賞のクラウディア・ゴールディン氏は、日本の労働市場について「女性を労働力として働かせるだけでは解決にならない」と指摘しました。
女性に対するキャリアアップ支援はもちろん必要なのですが、課題とされている両立支援についてもしっかり考えていくことが重要になるでしょう。
③ 仕事と育児の両立
では、その両立支援についても現状を確認していきましょう。
仕事と育児の両立推進の「必要性を感じている」と回答した企業は84.1%と8割を超えていますが、そのうちの半数が「十分取り組めていない」と回答しています。
状況は女性のキャリアアップ支援と非常に似ていますね。
十分に取り組めない原因・課題としては、「人手不足のため、子育て中の社員の仕事のカバーが難しい」(44.2%)といった、やはり根本的な人手不足問題や、「専門的・属人的な業務が多く、子育て中の社員の仕事のカバーが難しい」(37.5%)といったものが挙げられています。
④ 外国人材の受入れ
ここまでの結果から「とにかく人手が足りない」ことと「各支援や対策の必要性は感じているけど手が回らない」ということがわかります。
そこで外国人人材の受け入れについても調査されています。
「受入拡大すべき」「人手不足の業種・地域に限って受入拡大すべき」をあわせると、67.8%が外国人材の受け入れを拡大すべきと回答しています。
拡大すべき理由としては、「企業の人手不足解消のため」が圧倒的に多く86.6%である一方、「日本人の雇用機会の減少につながる」「生活習慣やビジネス習慣の異なる外国人の受入れは難しい」という懸念もあるようです。
ただ、受入れ状況について「ある(すでに受入れている)」と回答した企業は、昨年と比べ3.5%増加しており、「ある(今後受入れる予定)」「受入れるか検討中」もあわせると56.9%と、受入れに前向きな企業は5割を超えています。
外国人材のニーズは高まっていると考えてよいでしょう。
さいごに
ここまでご紹介した数値をみると、業種ごとに多少の差はあれど、どこも人手不足に悩まされていることがうかがえます。
人手不足を放置してしまうと、今現在働いている従業員へ大きな負担をかけることになり、結果として退職、また人が少なくなる……といったループになりかねません。
いまは充足しているという企業でも、今後を見据えて人材の確保や、従業員が長く働けるにはどんな支援や制度が必要なのかを見直してみましょう。
<参考>
・ 日本商工会議所「『人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査』の集計結果について ~中小企業の7割近くが人手不足、8割強が仕事と育児の両立推進が必要と感じていると回答~」
・毎日新聞「『日本は女性を働かせるだけではだめ」 ノーベル賞・ゴールディン氏」