読者のなかには、育児休業後の職場復帰を経験された方も多いのではないでしょうか。
今回は育児休業明けの昇給についてわかりやすく解説します。
Q 育児休業取得者の昇給がないのは違法になる?
A 育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)10条の定めから違法になる可能性が高いです。
(不利益取扱いの禁止)
第10条 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
出所:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
ほとんどの企業では就業規則で、昇給は出社率8割を満たすなど、何かしらの要件を定めているでしょう。
しかし、就業規則に規定があっても規定自体違法とされた判例があります。
育児休業明けの昇給にまつわる判例
以下では、育児休業明けの昇給にまつわる判例を2つ紹介します。
医療法人稲門会(いわくら病院)事件(2014年)
3か月の育児休業を取得した男性看護師を育児休業後、昇給させなかったことは違法された判例です。
<判決理由>
・ 3か月の育児休業により、他の9か月の就労状況を考慮せず、一律に昇給させないという内容は合理的ではないということ
・ 同じ不就労でも、遅刻、早退、労働災害による休業・通院等については審査に考慮されず、育児休業取得による不就労だけを昇給審査の対象として不利益に取り扱っていること
医療法人側に給与の差額分と給与に連動して決まる賞与や退職金などの本来受け取るべき金額の差額分、およそ24万円を当該労働者に損害賠償することを命じました。
このことから遅刻、早退、年次有給休暇、労働災害による休業・通院等による不就労については昇給の審査の対象とせず、介護・育児休業だけが昇給を見送ることと規定している場合、違法になる可能性が高いといえます。
就業規則等で取り決めをしていても違法とされる場合もあるため、規定を作成するときは法律を十分に理解し慎重に行う必要があるでしょう。
近畿大学事件(2019年)
大学講師が育休取得で定期昇給させず、違法とされた判例です。
男性講師は2015年に9か月間の育児休業を取得、就業規則に定められた「前年度に12か月間勤務」という条件を満たしていないとして復職後昇給しませんでした。
<判決理由>
大学の定期昇給は在籍年数に応じて一律に実施されていることから、年功賃金的であるとし、育児休業を取得した講師を昇給させないのはこの趣旨に反している
上記から、大学側はおよそ50万円の支払いを命じられました。
このように年功序列的に昇給を行っている企業は、育児休業による休業を理由に昇給させなかった場合、違法となる可能性が高いです。
その他の不利益な取り扱いとは?
不利益な取扱いは、昇給させないほかにも解雇や雇止め、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更や自宅待機命令、仕事をさせない、雑務ばかり頼むなども該当します。
「妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止」について厚生労働省が解説しているので、参考にしてください。
厚生労働省「「妊娠したから解雇」は違法です」