発達や精神に何らかの困難を抱える方にお届けする「就労時に企業側が知りたい、伝えてほしこと」

発達や精神に何らかの困難を抱える方にお届けする「就労時に企業側が知りたい、伝えてほしこと」

8050問題からさかのぼってみえる就労支援の重要性

「地域包括支援センター」で高齢者の方のさまざまなご相談を受けていると、50歳台前後の子どもさん(いわゆる働き盛り世代)で、長らく引きこもり状態になっておられるケースが散見されるようになってきました。
そのなかで子どもさん世代に当たる方々(30歳台から60歳台手前の方)は、「(学校からの卒後)ずっと働いてこなかった方」よりも、むしろ「働いてきたが、就労期間の途中で何らかのトラブルがあり、中途離職をせざるを得なくなった方」が多いです。
そうしたご相談を伺いながら「中途離職に至るまで、つまり働き盛りの世代で、会社勤めをされている間に何らかの支援があれば、就労の継続ができたのではないか?」と思うことも多くあります。

そこで今回は、コミュニケーションの面などで何らかの困難があり就労できない、業務遂行に支障をきたすケースの対応方法を2パターンにわけてわかりやすく解説します。

就労して数年後にコミュニケーションの難しさを感じるようになった場合

最初に、就職して数年経過してから、就労者ご自身が対人関係の難しさを感じるようになった場合です。
具体的には、同僚や部下等と仕事上の話をしても、受けた指示内容がはっきりと理解できない、話に集中できない場面が増えてきた、ケアレスミスが増えてきたなどが想定されます。

まずは、そんなご自身の変化を同僚や上司、人事担当者などにお話ししてみてください。
感じている変化や気づきを言葉にすることで、自分の体調を認識することにもつながります。

また、自分の異変を周囲に話しておくことで、業務面でチームの方々にお力添えをいただけることにもつながります。

実際、厚生労働省「令和2年度労働安全衛生調査」でも、ストレスについての相談相手としては家族・友人が78.5%、上司・同僚が73.8%と続き、専門機関や医療職などに相談するよりも手前で、周囲の身近な方に相談する人が多ことがわかります。
職場の中で話せる方にご自身の体調変化について知らせてみましょう。

就労する年代になって、コミュニケーションの難しさを感じるようになった場合

2つ目は入社時点でコミュニケーションや業務遂行の難しさがある場合です。
これは前述の、途中から何らかの問題が生じて、本人の心身状態に影響を及ぼしている場合とは対応が異なってきます。

昨今では、1歳半検診、3歳半検診という、子どもの成長発達を早期から見ていくシステムが構築されていますが、現在の40~50歳台の世代の方が幼少期のころには、精神面での障害ではなく、身体面での発育の遅れを早めに発見することに力点が置かれていたことから、検診でスクリーニングする分野そのものが変わってきています。
そのため、思春期や青年期になっても精神面での難しさが見過ごされ、就労する年代になって初めて、対人面でのやりとりの難しさがわかる方もおられます。

また、元々その人の持つ力として、他者とのコミュニケーションが難しい「自閉症スペクトラム障害」という分野の診断がつく方もいらっしゃいます。
もちろんご本人がそのことを自覚できていらっしゃる場合、どのような方法であれば自分の意志を伝えたり、他者の意図をくみ取ったりができるか、つまり、ご自身がどんなところが得意で、どんな場面が苦手かをお伝えいただくとスムーズでしょう。
たとえば、あいまいな指示が苦手な方の工夫の1つとして、目で見てわかるように、仕事のプロセスを図示もしくは写真などで示していただくことが考えられます。
いわゆる業務マニュアルが職場であれば、それに図や写真などを張り付けながらやればできるとお伝えするのも良いですね。

それから細かく指示を出してもらうようにお伝えすることも考えられます。
たとえば、「見積もりのこの表の数字まで入れ込んで、担当のAさんに提出してください。Aさんから許可をもらったら、その用紙をB会社にメールで送信し、送信の確認の電話を入れてください」のように「具体的に業務としてやることを『見える化』してもらえるとミスなく業務遂行できます」とお伝えするのはいかがでしょう。

本格的に働く前に 就労体験をしてみませんか

もし仕事をするうえで、どういった工夫が必要かなどの助言がいる場合は、成人の方専門の「就労支援事業所」で、本格的な就労前に、働く経験を重ねておき、ご自身の強みや、「仕事をするうえでこんな工夫があればできた」と体験を重ねておくことも1つの方法です。
就労支援事業所では、さまざまな障害を持った方がその人の困難さに合わせて、やりやすい作業内容工夫して提供しています。
本格的に働く前の準備として、自分の中でのやり方を体得しておけば、企業などへの就職の際にも、ご自身の仕事の工夫の方法をお伝えできることになるでしょう。

業務1つひとつの成功体験は、ご自身の仕事での自信につながります。
ミスを防ぐ仕組みを作ることで、障害があっても働く環境を保証することができます。

また、わかりやすい仕事の仕方を組織として構築しておくことは、組織の中の誰かが何らかの障害を負った時にも仕事しやすい仕組みつくりになっているため、健康経営につながっていきます。
就労がうまく続くことでその人個人も元気に働くことができますし、企業にとっても優秀な人材を担保できることは有益ですね。

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IKAZAKI MIZUKA保健師

投稿者プロフィール

看護師として病院勤務後、人工肛門ケアの認定看護師資格取得のため、アメリカ・クリーブランドクリニックに留学。帰国後、専門外来、市町村の保健師として母子保健を担当したのち、介護離職を経験する。復職後は、子育てをしながら、産業保健師として働く世代の方へ保健指導を行う。また、介護と子育てのダブルケア経験を活かすため、在宅介護のスペシャリストである介護支援専門員の資格を取得。
現在は、「地域包括支援センター」で、介護予防のための健康づくり、ダブルケア、8050問題、認知症など地域で暮らす高齢者のあらゆる相談を受け付ける業務を保健師として担っている。

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