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- 発達障害を抱える働き盛りの従業員の胸中~職場ができる配慮とは?~
「発達障害」を皆さんご存じでしょうか?
最近では、新聞やテレビ、SNSなどで取り上げられる機会も増えていますね。
私は産業保健師として産業保健の場で働いており、「仕事がうまくこなせない」、「周囲と関係が作れない」と感じ、「自分は発達障害かも?」と相談してくれる方の面談などを行っています。
ダイバーシティの取り組みを進める動きが活発になるなか、個々への対応が多種多様になり、複雑かつ難しいと日々の活動で実感しています。
今回は、私が関わった事例などをもとにしながら、発達障害の概要や、実際に発達障害の方がどのようなことで悩んでおられるか、そして職場はどのような配慮を行うとよいか、わかりやすく解説します。
発達障害とは?~症状の程度は人によってさまざま~
発達障害とは、生まれつき脳になんらかの不具合が生じて、成長・発育に偏りが出る状態のことで、子どもの時に診断される方もいれば、大人になってから医療機関を受診し、そこで初めて診断される方もいます。
発達障害を引き起こすメカニズムや原因ははっきりとわかっていません。
また、症状の程度は個人差が非常に大きく、治療や支援もさまざまです。
発達障害は大きく以下の3つに分類されます。
<発達障害の分類>
● 自閉症スペクトラム症(ASD)
コミュニケーションが困難、強いこだわり、優先順位を決められない、場の空気を読んだり、ルールを理解したりするのが難しい、音や光に敏感 など
● 注意欠陥・多動症(ADHD)
考える前に行動する、落ち着きがない・集中できない、多弁 など
● 学習障害(LD)
読み書きや計算が極端に苦手、話しにまとまりがない など
なかには複数の障害を抱えている方もいますが、企業内で実際に関わるのは、ASD・ADHDの方が多いでしょう。
また、失敗や周囲とのコミュニケーションがうまくいかなかった経験を重ねてきたがために自己肯定感が低い、精神的に辛い状況に追い込まれている方もおり、悪化すると、うつ病などの精神疾患を併発することもあります。
発達障害の診断を受けていない人でも、日常や社会生活の中で困りごとが増えると「自分は発達障害かも?」と疑問を抱き始める方も少なくありません。
解決策を見つけたいと思っている従業員との面談では、精神科・心療内科(発達障害の診断を行っている、治療をしている病院をおすすめします)の受診を検討します。
このとき産業医にも相談するとスムーズです。
なお、世間に発達障害に関する情報や知識が出回ることで、周囲から「この人は発達障害じゃないのか?」という意見が出たり、一緒に働く人が「あの人は発達障害かな」と感じたりすることも増えているようです。
しかし、本人にとって業務上困りごとがない場合、上司など第三者から受診を勧めることは難しく現実的ではありません。
人間関係の悩みから精神科受診へ~ASD・ADHDと診断された例~
以下では、実際に大人になってから発達障害と診断された方の事例をご紹介します。
【簡単な人物紹介】
Aさん
年齢:20歳代
仕事内容:部品組み立てなどの作業
診断名:ASD・ADHD
◎ 面談までの経緯
Aさんは入社当初から人間関係に悩み、仕事もうまくこなせず、周りからもよく怒られていました。
うまくできない自分を責め、次第に落ち込むことも多くなりました。
「自分は周囲と馴染むことができない、仕事もうまくいかないのはなぜか」と考え、自分なりに色々と調べた結果、「発達障害ではないか」と思うように。
精神的にも辛い状況が続いたので、保健師面談を希望されました。
◎ 面談から受診まで
初回面談時は、精神的にも落ち込んでいて、会話も苦手そうな印象を受けました。
勇気を出して面談を希望してくれたことがひしひしと伝わってきました。
お話を伺うと、気が散って集中できない、同年代以外の人と関係を築くのが難しい、一度にたくさんのことを説明されると混乱する、自分の気持ちを上手く表現できないなどの困りごとをあげてくれました。
学生時代は少し浮いていると思ったことはあったものの、友人も多く、大きな苦労をすることはなかったようです。
「学生時代は『個性』だと思っていたけど、社会人になってから、『病気』かもしれないと思うようになった。病気なら治療したい」
Aさんのこの言葉がとても印象に残っています。
環境や状況によって、「個性」だと思っていたのものが、急に違うものに変わるかもしれないことは、Aさんにとって苦しいことだったでしょう。
本人からは、この困難に対処したいという意思が確認できたので、産業医に相談のうえ、精神科を受診することになりました。
Aさんは、精神科で心理テストなどを受け、結果、「ASD・ADHD」と診断されました。
後日、Aさんはこのように語ってくれました。
「得意なこと、不得意なことがわかって良かった。こんな特徴があると言われ、自分にも当てはまることがいっぱいあった。薬だけじゃなくて、不得意なことを少しずつカバーできるようになろうねと主治医に言われたので頑張ろうと思う。上司には知ってほしい」
◎ 診断を受けてから
AさんがASD・ADHDと診断されたのちも定期的に面談し、継続的に状況を確認しました。
うまくいかないこともありますが、Aさんの仕事に対する姿勢や考え方は変わり、また部署の協力もあって良い方向へ変化しています。
Aさんが取り組んだこと
・ 毎日日記を書いて、自分の頭の中を整理する
・ できたことは素直に喜び、自分を褒める
・ できなかった時は自分なりに原因を考え、改善できるところは取り組む
・ 上司に報告、連絡、相談することを基本にする
・ 仕事の手順を細かくメモをしてオリジナルのマニュアルを作る など
部署が取り組んだこと
・ 特別扱いと周囲に捉えらないように、Aさんの同意のもと、関わりのある同僚に発達障害について必要最低限の情報共有する
・ 発達障害とは何かを学び、わからないことは医療職に聞く
・ Aさんに合った仕事に配置転換する
・ 説明はできるだけ具体的にする
・ 一度にたくさんの仕事を与えない
・ 相談しやすい環境をつくるため、日ごろから声かけをする など
本人の取り組み、また部署の協力によって現在では、「Aさんの仕事は非常に丁寧で間違いも少ない」という評価に変わりました。
なお、発達障害を持つすべての人に上記取り組みが合うわけではないので、個々に合わせた対応策をチーム単位で講じていくことが大切です。
職場としてできることって?
職場の規模、環境によって対応可能な範囲もさまざまですが、まずは発達障害を「レッテル」として捉えないように、正しい知識をもちましょう。
また、当事者側に「できない」ことより「できる」ことを探してもらうことが重要なので、その支援も必要になります。
そして、産業医や保健師に面談の実施や相談窓口となってもらいましょう。
小規模事業所であれば地域産業保健センターなどの外部サポート機関を活用することも可能です。
発達障害の特徴によっては、対応する側が疲弊してしまうことがあります。
どこまで情報を共有するか、本人の意向も当然配慮しなければなりませんが、できる限り個人で対応せず、チームで取り組み、一人ひとりが能力を発揮できる職場になるように協力しましょう。