あなたは大丈夫?過労のサインに注意!

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2015年12月に電通社員の高橋まつりさんが過労自殺した事件は記憶に新しいと思います。
この事件がメディアに取り上げられられることで、広く過労死問題に関心が集まり、企業体質ともいえる同社の過重労働問題も再度見直されるきっかけとなりました。
ところが、同社の事件を大きく報じたNHKでも2013年に当時31歳の女性記者、佐戸未和さんが過労死していたことがこのたび明らかになりました。
携帯を握りしめながらベッドに倒れ死亡している状況から、突発的な体調不良に襲われ亡くなったことが伺えます。

過労が人の体に与える影響とは?

佐戸さんの死因は「うっ血性心不全」とされ、心臓のポンプ機能が弱ることで全身に血液を送る事に障害が生じる症状だそうです。
一般的に過労により発症しやすいのは「心疾患」「脳血管系疾患」とされています。
「心疾患」とは心筋梗塞、心不全や狭心症などの症状のことで、「脳血管系疾患」は脳梗塞やくも膜下出血を指すそうです。

どんな症状が出たら要注意?

とはいえ、体力や体質には個人差があり、どの程度まで無理をするとそのような不調が起こるのか一概にわからないのが怖いところです。
過労に加え、目安として以下の症状が出たら要注意!早めに受診しましょう。

心不全の前兆
(1) 尿量が減る、体重が増える
(2) むくみ
(3) 息切れ呼吸がしにくい
(4) 消化器症状

 

脳卒中の前兆
(1) 片方の手足・顔半分の麻痺・しびれが起こる
(2) 呂律が回らない、言葉がでない、他人の言うことが理解できない
(3) 力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラする
(4) 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
(5) 経験したことのない激しい頭痛がする

その段階で気づき対策を取れれば良いのですが、もし労働災害が発生してしまった際に、労働と過労死の因果関係を判定する上で、日本では「過労死ライン」が定められています。

過労死ラインとは

「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達)は以下のような記載があります。

(1) 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
(2) 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる

前述したNHK記者の佐戸さんも、亡くなるひと月前は159時間、その前の月も146時間の残業をしており、このラインを大きく越えて仕事をしていたことがわかります。
分かりやすくいえば、1日8時間で月に20日働いている人の拘束時間は月160時間。
残業が月80時間なら、毎日4時間の残業をしているのと同等。
残業が100時間ともなれば、1か月休みなく8.6時間拘束で働くような状況です。
仮に土日休んだとしても、1日8時間勤務の方であれば9時~22時まで働くということになり、心身共に疲労が蓄積するのも想像に難くありません。

労働者の安全確保は企業の責務……安全配慮義務

そもそも、平成20年3月に施行された労働契約法第5条では以下のように定めが置かれています。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする

危険作業や有害物質への対策のみならず、メンタルヘルス対策も雇用者の安全配慮義務に含まれると解釈されています。
労働契約法には罰則がないものの、安全配慮義務を怠った場合は、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠として、使用者に数千万から億単位の損害賠償を命じる判例は多数存在します。
つまり企業には、労働者が心身ともに健全な状態で職務を行える環境を整える義務があり、さもなければ罰せられるということです。
実際に職場で過労死が起きた場合に、責任の所在がどのように問われるのか、また損害賠償額などについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。


ストレスチェックの実施や政府主体の働き方改革などの機運もあり、長時間労働が是正される動きは高まっているように思えますが、働き方が見直される過渡期である現在、働くすべての人がそれを享受するまでにはまだ時間がかかるかもしれません。

「自分がやらなきゃ誰“か”がやる」逃げ道も必要

2017年の初め、『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』という書籍が発売され、ある程度元気なうちでないと、正常な判断ができなくなることや、「自分がやらなきゃ誰“か”がやる」という考え方が紹介され話題を呼びました。
この本の著者は、過労により「うっかり自殺しかけた」経験をした直後に転職活動をし、現在に至るとのこと。
日本では一般的に「石の上にも三年」など努力や辛抱を美化する考え方が根強いと思います。
また職務に野心があり、激務が常態化しているからこそ、限界なのかどうか見極めが難しい場合もあるでしょう。
ただ、体力や精神面でのキャパシティは人それぞれ。手遅れになる前に、異変に気付いて行動し、キャリアや人生をリスタートできる社会でありたいものです。

<参考>
国立循環器病研究センター「心不全」
国立循環器病研究センター「心筋梗塞、狭心症」
国立循環器病研究センター「脳卒中」
東京都労働相談情報センター

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白石 早希株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

新卒で航空会社地上職員として勤務。同僚の休職や配置転換などを目にする中で、心身のケアの必要性を実感。結婚後、家族がうつ病を発症したこともあり、「健康に働く人を増やす」というドクタートラストの理念に心から共感。また、1児の子育て中のため、時短勤務が可能なことが決め手となり入社。ワークライフバランスや持続可能性への関心が高い。
働く皆様のお役に立てるような記事作成に努めてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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