親切な人ほど注意したい「心の距離感」

目の前にいる人が困っていたらどうしますか?
「何とかしてあげたい」「助けてあげたい」、そう思うのが自然ではないでしょうか。

共感性が高い人、感受性が強い人は、このような気持ちになることが人よりも多く、いつでも他人のことを優先して、自分のことは後まわしになってしまうことが多いと思います。
でもそれは、親切心だけとはいい切れない場合もあります。

「救けてあげたい」という気持ちは本当か?

困っている人がいたら「助けてあげたい」「力になりたい」と思うのがごく自然なことですが、その思いや感情は、相手のためのものではないことが往々にしてあります。

自分のしたアドバイスに、相手が素直に応じなかった時に生じる怒りや不満は、自分の思い通りに相手を動かそうとする慢心から生じているといえるでしょう。
それは、助けるふりをした「自分の支配欲」であることも少なくありません。

「助けたい」のではなく、助けを必要としている人を探し出して、自分が満足したいだけの「押し付け」になっていないでしょうか。

以前「うまく取りたい適度な距離感」という記事では、物理的な人との距離についてお話をさせていただきました。
今回は、相手との関係性における「心理的な距離感」についてお話をしようと思います。

医療現場の距離感

医療者は人のために役立つことに生きがいや喜びを見出す人が多く、一般の人よりもそのような感情に常に揺さぶられる場面に多く遭遇します。
しかし、私情を挟んだり、必要以上の肩入れは、適切な治療関係が保てなくなるため、医療者は患者さんとの「適度な距離感」を大切にしています。

患者さんを、一人の患者(治療対象者)として見られなくなると、冷静な判断や、客観性を欠いた治療を行うことが難しくなるためです。

これは、社会の中でも必要なことといえるでしょう。

適度な距離感を保つということ

援助者と援助を受ける側というのは、往々にして力関係が働きます。

これは上司と部下、同僚間においても同じことがいえるでしょう。
深く関わりすぎると、この関係が強く継続することになり、対等な人間関係を保つことが難しくなります。

産業保健の現場であれば、衛生管理者の方が、メンタル疾患を抱える社員の方に振り回され、疲弊してしまう事例も多く見受けられます。
特に、対象となる社員の方の相談を親身になって受け、「なんとかしてあげたい」と奔走する方ほど疲れてしまい、衛生管理者自身がメンタル疾患を抱えてしまうことがあります。
これも、相手との心理的な距離感が近づきすぎてしまうために起こります。

助けを必要としている人に適度に支援をすることは必要でしょう。

しかし、その時の距離感は「少し離れて見守る」くらいがちょうどよいといえます。

最初に述べたように、相手への親切心が自己満足から出ている場合は、相手の言動から悲しみ・怒り・失望など多くの感情が引き起こされます。
すると、自分では意識していないうちに、精神的に強い疲労を感じてしまうのです。

自分は特定の人に肩入れしていないか、おせっかいを焼きすぎていないか、対等な一人の人間として相手を尊重しているか……。
よくも悪くも巻き込まれないために、相手との距離感が近づきすぎないか、感情が巻き込まれていないかを考えてみる必要があるでしょう。

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