若年女性のやせすぎは糖尿病につながる?次世代にも影響する?目指したいのは「エネルギー高回転型」

やせ願望やダイエット志向を持った若い女性は少なくありませんが、実はその多くは「やせる必要がない」といわれています。
偏った食生活を送ったり、無理なダイエットを行うことによって、自身の健康問題のリスクを高めるだけではなく「次世代の子ども」の生活習慣病のリスクを高めることが危惧されています。
2024年3月には、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」を行う団体として「マイウェルボディ協議会」が発足。
「すべての女の子に、ずっと健康なからだを」をテーマに、若年女性の不健康なやせの問題から取り組みを始めていきます。
今回は、現在注目されている「若年女性のやせ課題」についてお話をしていきます。

我が国における若年女性のやせの現状~なぜ「やせ願望」を抱くのか~

2019年の「国民健康・栄養調査」によると、やせ(BMI<18.5kg/㎡)の女性の割合は11.5%であり、過去10年で見ると有意な増減はみられていないものの、世界的には比較的高い割合となっています。
そのうち20代女性のやせの割合は20.7%。
「女性の5人に1人はやせすぎ」という現状があります。
背景には、適切な体形についての認識不足や、SNSの普及により欧米のファッションモデルのような体形が美しいと認識されることによって、若年女性が「やせ願望」を持つようになったことがあるとされています。
しかし、「若い女性のやせによる健康問題」としてリスクがさまざま挙げられており、国民健康づくり運動である「健康日本21」では、20代の女性の「やせの割合」を10年間で15%以下に低下させることが盛り込まれています。
現在は目標値に達してはいないものの、改善傾向にあります。

若年女性のやせによる健康問題~本人にとどまらない~

(1)やせ女性本人の健康問題

やせ女性本人の健康問題としては、エネルギー不足だけではなく、貧血や月経異常などがあり、また、骨粗しょう症や2型糖尿病の発症リスクの増加も上昇します。
ダイエットによる食事制限や偏食によって栄養バランスが乱れた結果、鉄不足や鉄分の吸収悪化を引き起こして貧血になる人が多くみられます。
鉄分が不足するとヘモグロビンの量も減ってしまい、全身に酸素が送り込めなくなり、酸欠状態を救うために肺や心臓がフル回転となって、立ちくらみやめまいが起こりやすくなります。
また、食事制限や過度なダイエットにより、身体に必要な栄養が不足すると、筋肉量の低下などとともに、月経異常や無月経が起こることもあります。
月経が止まるということは、卵巣から女性ホルモンが正常に分泌されなくなり、閉経後と同じような状況といえます。
骨量が低下して骨粗しょう症になったり、卵巣が正常に機能しなくなると不妊にもつながります。
また、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの研究によれば、やせた若年女性で、血糖値が正常値より高い状態にある「耐糖能異常」の割合を調査したところ、13.3%でした。
この数値は標準体重の若年女性にくらべて約7.4倍も高く、アメリカの肥満者の10.6%も上回っており、やせ型の女性の方が糖尿病になりやすいということがわかりました。

(2)次世代の子どもにおける健康問題

若年女性のやせは、妊娠・出産を通じて次世代の子どもの健康にも影響を及ぼします。
具体的には、早産児(在胎37週未満)や低出生体重児など、児のリスクが高くなることが挙げられます。
また、妊娠前のやせや妊娠中の体重増加不良は、子宮内での栄養状態の悪化につながり、胎児は少ない栄養を取り込もうとするため、成人期に肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などのメタボリックシンドロームを介して、心血管疾患を発症しやすくなると考えられています。
そのため、妊娠前からの適切な食生活は、自身の健康のため、また将来生まれてくる子どもの健康にとって大切です。

女性らしく健康な身体になるには~目指せエネルギー高回転型~

以下では、健康な体を目指す方策を紹介します。

(1)正しい知識を習得する

標準体型であったとしても「痩身願望」が強い女性が多く、「やせすぎ」による健康リスクを知らない人も多いです。
そこで、女性本人の身長から標準体重やBMIを実際に自分で計算してもらい、「自分は肥満ではない」ことに客観的に気づいてもらうことが有効だと考えられます。

(2)たんぱく質を摂取する

筋肉を増やして、健康的に活動できる身体を作ることを目指していきます。
カロリーを増やすことも大切ですが、いつもの食事にプラス1品(肉、魚、大豆製品、乳製品)し、量ではプラス20gを目安にたんぱく質を追加してみましょう。

(3)朝食を摂取する

ダイエットをしている人の中には、朝食を食べないという方も多いのですが、実は朝食を食べた方が午前中から代謝が上がり、脂肪燃焼しやすいと言われています。
また、朝食はたんぱく質が不足しがちなので、乳製品や大豆製品などで積極的に摂取しましょう。

(4)運動習慣をつける

やせすぎを解消し、健康的に筋肉量を増やすには、運動をする必要もあります。
いきなり負荷の高い運動をするのではなく、まずは日常の中で簡単にできる運動(1駅分歩く、階段の利用等)を行ったり、1日8,000歩を目指して歩きましょう。
加えて週2回程度の軽いジョギングやスポーツも行うとさらに良いです。
また、スクワットや腕立て伏せなどの筋トレも、日常生活動作の合間に取り入れてみましょう。

若年女性のやせの増加は、本人たち健康問題だけではなく、次世代の成人期における生活習慣病の発症にも寄与すると考えられています。
生活習慣病予防の観点からも、肥満者のみならず、やせの女性に対しても、適切な体重の維持に向けて働きかけていくことが必要です。
また、少食で運動不足だと筋肉量の減少や耐糖能異常により血糖値が高くなる「エネルギー低回転型」になってしまいます。
しっかり食べてしっかり動く、「エネルギー高回転型」を目指して、さらに健康になりましょう。

<参考>
・ 厚生労働省e-ヘルスネット「若い女性の『やせ』や無理なダイエットが引き起こす栄養問題」
・ 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」
・ 長島由佳「日本における若年女性のやせに関する諸問題 : 生活習慣病を中心に」(「慶應保健研究産」2023年、41(1)071-076)
・ 佐藤元律、田村好史、中潟崇、染谷由希、加賀英義、山﨑望、木屋舞、門脇聡、杉本大介、佐藤博亮、河盛隆造、綿田裕孝「日本人低体重若年女性の耐糖能障害(IGT)の割合と特徴」(「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」オンライン版(2021年1月29日付))
・ 女性の健康推進室ヘルスケアラボ「貧血」

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楠原 綾香株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

大学時代から公衆衛生看護学に興味を持ち、保健師を志していました。大阪の病院で消化器外科・内科、回復期リハビリテーション病棟に勤務し、患者さまと関わっていくなかで、予防医学への関心も高まったことから、産業保健師として活動すべくドクタートラストへ入社。
看護以外に、新人教育や対面での学習会の開催もしてきました。これらの経験を活かし、保健師として情報を発信していきます。
【保有資格】看護師、保健師、第一種衛生管理者
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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