就業時間外に災害が発生~従業員の安否確認の要否とポイント~

このたび能登半島を震源とする大規模地震により犠牲となられた方々に心よりお悔み申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

企業においては、地震をはじめとした自然災害や大火災、さらには感染症といった非常事態が発生した際のリスク管理として、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の事前策定が欠かせません。

今回は、BCPのうち「初動対応」の一つ、「安否確認」について解説します。

日本におけるBCPの普及や動向

まずは、BCPの歴史をおさらいしましょう。
日本では、2001年にアメリカで起きた同時多発テロによって多くの金融企業が甚大な被害を受けたなか、BCM(事業継続マネジメント、BCP内の各対策計画を実行、機能するように定める運用計画)を実施していた企業が早急な事業復旧を果たしたことから、重要性の認識が広がり、政府もBCPの普及に着手し出しました。

新潟中越地震後のBCP策定状況

その後、2004年発生の新潟県中越地震では、復旧に時間を要したことで取引先を喪失させ経営問題に直結した例もあり、よりBCPへの注目が集まるようになったのです。
ただし内閣府「企業の事業継続及び防災に関する実態調査」(以下、同調査)では、2007年時点でBCP策定済みの企業は、大企業で18.9%、中堅企業で12.4%にとどまっていました。

東日本大震災後のBCP策定状況

2011年に発生した東日本大震災では、多くの工場で部品や原料などの生産がストップした影響が、サプライチェーンを通じて日本全国のみならず世界にも波及、BCPの認知度、および重要性がより一層高まりました。
東日本大震災以降の2011年に行われた同調査では、BCP策定済みの企業が大企業では45.8%、中堅企業では20.8%にまで増加しています。

現在のBCP策定状況

では、現在のBCP策定状況はどうなっているのでしょうか。
2021年に行われた同調査では、BCP策定済みの企業が大企業では70.8%、中堅企業では40.2%と、BCP策定が広がっていることがわかります。

 

BCPの初動対応、安否確認

前述のとおり、従業員の安否確認はBCPの初動対応に定められています。
実際、内閣府発行「事業継続ガイドライン」において、初動段階で対策本部(本社および各拠点)が実施すべき事項の例として「従業員の安否確認を実施、結果を集約」が盛り込まれています。
さらに、各従業員が実施すべき事項の例として「定められる方法に基づき、自身及び家族の安否の報告」が挙げられています。
家族に万が一のことがあれば出社が難しくなることが想定されますので、安否確認では、従業員だけでなくその家族の状況も把握できるようにしておきましょう。

また、企業側には安全配慮義務が課せられています。
BCPは、「事業継続」とともに、従業員を守ることも目的としています。BCPを策定し、従業員の安否確認体制を整えることで、非常時の安全配慮体制が整備できるといえるでしょう。

従業員の安否確認方法は「メールやSNS」が主流

従業員の安否確認を行うには、どういった方法が望ましいでしょうか。
以下では、2023年に東京商工会議所が、会員企業におけるBCP策定状況や、帰宅困難者対策、行政に望む災害・リスク対策施策等を把握するために実施した「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート」の結果をご紹介します。

まず、「従業員の安否確認手段」として最も多かったのは、「メールやSNS」で全体の56.2%、次いで「有料の安否確認システム」が32.3%、「無料の安否確認ツール」が18.6%でした(複数回答可)。
一方で「特に用意していない」企業も13.1%ありました。
また、「(企業が周知している)従業員と家族の安否確認手段」で最も多かったのは「メールやSNS」で全体の44.6%、次いで「無料の安否確認ツール」が19.3%、「有料の安否確認システム」が19.0%でした(複数回答可)。
一方で、「特に周知していない」企業が32.8%を占めました。

安否確認の方法

上記のように安否確認の方法としてはメールやSNS、さらに有料または無料の安否確認システム・ツールが一般化しています。

メール

安否確認をメールで行う場合、担当者が手動で行う方法のほかに、震度5以上の地震が発生など条件付けを行って自動送信する方法、またメーリングリスト形式で複数の宛先をあらかじめ登録しておき、一斉送信する方法などがあります。
ただし、災害時はメールの送受信数が増えがちであることから、サーバーの処理が追い付かず、送受信にタイムラグが生じる可能性もあります。

メールのタイトルは「【重要】安否確認」など、安否確認の連絡であることを明瞭にし、本文も簡潔な内容にしましょう。

<メールに盛り込む事項>
① 本人の被災状況
② 家族・自宅の被災状況
③ 現在の場所
④ 出社の可否
⑤ その他連絡事項

文章形式の回答は、負担になる可能性があるため、選択肢形式で回答できるようにしておきましょう。
また、回答を急かさないようにすることも重要です。
なお、従業員側の状況によっては受け取ったメールに気づかない、担当者側にとりまとめの負担が生じるなどのデメリットがあります。

SNS

SNSによる従業員の安否確認も、メールに準じた方法で行います。
最近は、チャットツールの利用も一般化してきていることから、SNS同様に利用可能性も高まっています。
SNSやチャットツールがメールにくらべて優れているのは「既読かどうか」がすぐにわかる点、またリアクションボタンにより、簡単に反応できる点が挙げられるでしょう。
ただし、メール同様に担当者側にはとりまとめの負担がかかります。

有料の安否確認システム

安否確認システムは、災害発生時などに従業員の安否確認をスムーズに行うシステムです。
メールやSNSが幅広な連絡ツールであるのに対し、こちらは「安否確認」だけに特化したシステムであり、その分機能が充実しています。

<安否確認システムの機能例>
従業員への一斉メール送信
安否状況の一元管理
災害状況の確認
従業員の家族の安否確認 など

また、専用システムであるために、プッシュ通知やメール、電話など複数の手段で通知できる点は、他の安否確認方法と異なります。
なお、有料サービスの場合は、月額料金がかかります。

安否確認の留意事項

安否確認は、正社員だけでなく臨時職員や派遣社員も含めて行うことが重要です。
また、BCPでは、安否確認の発動基準(震度〇以上が発生したら安否確認を行うなど)など具体事項もBCPに記載しましょう。

さいごに

今回は、BCPのなかでも「従業員の安否確認」について解説しました。
安否確認の方法は、社員数や従業員の状況、事業場の所在地などを踏まえて、定期的な見直しが必要です。
安否確認方法を含めBCP一般について未策定の企業、または策定後見直しを行っていない企業は、あらためてご確認するようにしましょう。

<参考>
・ 内閣府防災情報のページ「知る・計画する」
・ 内閣府「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)」
・ 内閣府「企業の事業継続及び防災に関する実態調査結果(令和4年3月)」
・ 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針~緊急事態を生き抜くために~」

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宮野 友里加株式会社ドクタートラスト 管理栄養士

投稿者プロフィール

年間100人以上の特定保健指導、ダイエットサポートを食事面、運動面から行う管理栄養士。
食事に関するアドバイスはもちろん、自分自身がデスクワークを始めてから悩まされている「肩こり・腰痛」「目の疲れ」の予防、改善方法についてもセミナーや執筆活動を通して積極的に情報提供している。
目標は「働く世代の方々にとってが管理栄養士が身近な存在になること」
【保有資格】管理栄養士
【ドクタートラストの特定保健指導サービス詳細はこちら】
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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