労災認定の基準に「カスハラ」が新規追加の見通し

2023年7月7日、厚生労働省は「『精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会』報告書」を発表しました。
精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会では、労働災害の認定基準の策定から10年が経過したことを受け、近年の社会情勢の変化などを踏まえた神経障害の労災認定基準の見直しが行われました。
今回追加が検討された項目とその背景について解説します。

新たな労災認定基準に「カスハラ」「感染症リスク」を追加

今回の見直しのポイントは大きく2つあります。

《ポイント》
① 具体的出来事「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)を追加
② 具体的出来事「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加
引用:厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表します」

今回注目されるのは、カスタマー(お客さん)から著しい迷惑行為を受けた「カスタマーハラスメント」、通称カスハラが追加されたことです。
過去にも、セクハラ・パワハラに関する評価基準の追加はありましたが、社外の人間によってもたらされるカスハラの追加は今回が初めてです。
②の感染症リスクについても、最近流行している感染症による影響を考慮したものでしょう。

見直しの背景と必要性は?

今回の見直しの背景に、年々増加する精神障害・自殺事案などが挙げられます。
「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」によると、「精神及び行動の障害」の推計患者数は1979年には30万人程度であったのに対し、1990年には45万人を超え、その後2005年以降は50万台を推移しています。

また、厚労省の労働者調査ではカスハラを繰り返し経験した労働者において、「眠れなくなった」、「通院したり服薬をした」の回答も見られ、精神障害における労災認定の条件にカスハラは見逃せないものと判断されました。
増加する精神障害とカスハラの深刻な影響、さらに最近改正されたパワハラ防止法も後押しとなり、労災認定基準の見直しが必要であると考えられました。

感染リスクの対応の追加は、新型コロナウィルスの流行が影響しているでしょう。
警察庁「令和4年中における自殺の状況による自殺者数の年次推移」では、自殺者総数は2009年から減少していたが、新型コロナウィルスの流行が本格化した2020年から増加を続けています。
感染症による社会的な影響は多大なもので、失業の増加や行動範囲の制限などが設けられました。

自殺者の増加については、感染症リスクに加えその他の総合的な要因も起因していると考えられますが、こうした社会情勢の影響により今回の見直しが検討されたと考えられます。

今後企業に求められる対応策

今後労災の予防の観点から、企業は「パワハラ・セクハラ」に加えて「カスハラ」への対策も検討が必要となるでしょう。厚労省では「カスタマーハラスメント対策マニュアル」を公表し、カスハラ対策の必要性や対策について述べています。

≪カスハラの予防策(一部抜粋)≫
①事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
②従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
③社内対応ルールの従業員等への教育・研修
引用:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

特にカスハラ対策で重要なのは、会社・事業主側が「カスハラに向き合う」という姿勢をみせることです。極端な例ですが、「お客様は神様」という理念を持ってサービスを行っている企業の場合、カスハラが発生しても「これはカスハラとして対処してよいのか?」「カスハラとして会社(上司)に受け入れてもらえるのか?」という不安から、カスハラが発生しても対処しない・報告しない可能性があります。

また、従業員がそもそもカスハラを知らない場合や、カスハラをクレームとして対応してしまうことも予想できるため、「カスハラ」とは何かという点についても教育が必要です。
特に若手の従業員の場合、これは「カスハラ」と受け取ってよいのか判断が難しい場合も多いと思います。できるだけ具体的な事例を用意し、それに対する対応をマニュアル化できると良いでしょう。
厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策マニュアル」内では、9つのハラスメント行為とその対応例が記載されています。
もし事例が用意できない場合は、「カスタマーハラスメント対策マニュアル」の対応例が記載されたページを従業員に配布・周知するのもおススメです。
労働災害認定基準は社会情勢などを考慮し、何度も改正が行われてきました。
今回改正が検討された条件に加え、社会情勢や労働者の状況に合わせ柔軟に対応していくことが今後も企業側に求められるでしょう。

<参考>
・ 厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表します」
・ 警察庁「令和4年中における自殺の状況」
・ 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

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信定祐希株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

大学卒業後、飲食業界に入社し、従業員満足度と顧客満足度のつながりが強さを実感してきました。お客さまを幸せにするためには、従業員自身の幸福度が高くないと実現ができません。しかしそれはどの業種においても言えることだと思っています。
ワークライフバランスを整え、活き活きとやりがいのある仕事ができる社会を目指して発信していきたいと思います。
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