現状に合わせた産業保健の見直しを~「あり方検討会」が始まりました~

現状に合わせた産業保健の見直しを~「あり方検討会」が始まりました~

2022年10月7日、厚生労働省で「産業保健のあり方に関する検討会」第1回が行われました。
本検討会は、働く人の健康保持増進に関する課題が以下のように多様化していることから、より効果的に産業保健活動が推進されるよう、そのあり方を見直すために設置されたものです。

①職場における健康課題の多様化と深刻化
②法令が想定する産業保健活動と実態のかい離
③健康経営の広がりと経営者の意識の変化
④健康管理を支援するIT技術の拡大

今回は、本検討会を踏まえて、現在の産業保健における課題をわかりやすく解説します。

①職場における健康課題の多様化と深刻化

労働安全衛生法は、1972年に制定した法律で、その目的は1条に定められているように「労働者の安全と健康の確保」「快適な職場環境の形成」にあります。
また、この目的を達成する手段としては、「労働災害の防止のための危険防止基準の確立」「責任体制の明確化」「自主的活動の促進の措置」など総合的、計画的な安全衛生対策を推進するとしています。

第1条 この法律は、労働基準法(昭和22年法律第49号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
出所:労働安全衛生法

また、産業保健体制においては、あくまで「業務起因の疾病」または「業務により増悪する疾病」への対策を目的としてきていましたが、現在の産業保健では、以下のように課題が多岐にわたっており、それぞれ取り組むべき課題の洗い出しが求められています。

・ 増加するメンタルヘルス不調を予防するためのストレスチェック制度をはじめとする有効策
・ 疾病による離職を防ぐための治療と仕事の両立を推進するための方策
・ アブセンティーズムの防止のみならず、生産性向上やプレゼンティーズム防止のために産業保健において進めるべき疾病予防、疾病管理、重症化予防の取組
・ 高年齢労働者が増加する中での加齢による身体機能の低下に対する対策
・ 女性の健康問題への対応
・ 化学物質の自律的な管理における健康管理対策
・ テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策

②法令が想定する産業保健活動と実態のかい離

現行の法令においては、産業保健体制で担うべき業務の多くが産業医、衛生管理者に限定されています。

<産業医の職務>
・ 健康診断の実施、結果に基づく措置
・ 長時間労働者の面接指導、措置
・ ストレスチェックの実施、高ストレス者面談
・ 作業環境の維持管理
・ 作業の管理
・ 健康教育、健康相談、衛生教育
・ 労働者の健康障害の原因の調査
・ 月1回以上の職場巡視、衛生委員会への出席

<衛生管理者の職務>
・ 労働者の危険、健康障害を防止するための措置
・ 衛生教育
・ 健康診断の実施
・ 労働災害の原因の調査、再発防止対策
・ 週1回以上の職場巡視
・ 月1回以上の衛生委員会への出席

産業医、衛生管理者は従業員数50名以上の事業場で選任が義務づけられているものの、実際の産業保健の分野では、両者に加えて保健師、看護師が重要な役割を担うようになっています。
加えて健康管理支援サービスを提供する民間事業者も増えており、現在は、産業保健体制の担い手もまた多岐にわたっています。

こうした観点から、さまざまな現場で活躍している各有資格者の位置づけをあらためて検討すること、また、事業場内のリソースでの産業保健活動が想定されている現在の仕組みにおいて、健康管理支援サービスを提供する民間事業者などをどのように体制に取り組むかを考えていく必要があるとしています。

③健康経営の広がりと経営者の意識の変化、④健康管理を支援するIT技術の拡大

健康経営優良法人認定制度にエントリーする法人が8年で500社から1.6万社に拡大するなど、「健康経営」が経営者のなかでも根付きつつある一方で、依然として「法令違反にならなければよい」と認識している経営者も存在し、「健康経営」に対する意識の二極化が進んでいます。
特に後者に対しては、健康経営が生産性向上に資する視点であることの啓発活動が必要であるとしています。
加えて、AIシステムやウェアラブル端末など、健康管理に活用可能な技術開発が進むとともに、テレワークの拡大により、産業保健活動のオンライン化ニーズが高まっています。

このように産業保健活動においては、ITの技術やオンライン化により業務の効率化や健康管理の充実化が見込まれることから、どのように取り入れていくべきかが検討すべき課題とされています。

「産業保健のあり方に関する検討会」については今後、複数回の実施を経て、取りまとめが出るものと考えられます。
産業保健体制は、事業場内、あるいは産業医、衛生管理者といった特定のフィールド、リソースだけではもはや完結できないほどにまで、取扱い領域が広がっています。
法令や制度が実態に即したものになるよう、動向を見守ってまいります。

<参考>
厚生労働省「産業保健のあり方に関する検討会」

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蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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