乳がんの早期発見を呼びかけるピンクリボン運動は1990年代に始められ、現在では世界30ヵ国で行われています。
日本人女性に急増している乳がんですが、治療法が進み、早期に見つけて適切に治療すれば9割以上のケースで治癒が期待できます。
早期発見のためには定期的な乳がん検診が大切です。
しかし、乳がん検診の40~69歳の受診率は44.9%(※1)と低いうえに、コロナ禍でさらに受診率が下がっている状況です。
そこで、今回は乳がん検診の概要や検査の痛みを軽くする方法、新しい潮流「ブレスト・アウェアネス」について説明します。
乳がん検診とは?
厚生労働省では、がん検診の効果について、評価を行い、科学的根拠に基づいて効果があるがん検診をお勧めしています。
また、こうしたがん検診が市町村の事業として行われるよう、指針を示しています。
乳がん検診の対象者は40歳以上で、受診間隔は2年1回です。
マンモグラフィ検査とは?
マンモグラフィ検査とは、乳房専用のX線検査です。
しこりになる前の石灰化した小さな乳がんを発見するための検査です。
乳房を2枚の板で挟み、乳房全体を撮影します。
病変が見つかりやすいX線画像を撮影するために、乳房をできるだけ平たくする必要があります。
マンモグラフィによる放射線被ばくの可能性は?
マンモグラフィによる放射線被ばくは主に乳房だけで、白血病の発生などに関わる骨髄への影響はほとんどありません。
1回の撮影で乳房が受ける放射線の量は約0.05ミリシーベルトであり、マンモグラフィによる健康影響は、ほとんどないと考えてよいとされます。(1年間に受ける日本人の平均被ばく線量は5.98ミリシーベルトであり、そのうち2.1ミリシーベルトが自然放射線からの被ばくであると推定されています※2)。
超音波検査ではいけないの?
超音波による検査にもメリットがあります。
被ばくがない、妊娠中でも受けられる、痛みが少ないなどです。
一方で、現在のところ乳がんの死亡率減少効果について根拠となる報告はなされておらず、厚生労働省指定研究が進行中です。
生理終了直後の乳房は半熟目玉焼きの白身の柔らかさに
マンモグラフィは約12キログラムの力を一か所にかけて圧迫しています。
単純に考えると2リットルのペットボトル6本で胸をつぶされる感じです。
なぜそのような大きな力が必要かというと、圧迫して乳腺の組織を押し出すことによってレントゲンの透過性が高まり、画像が非常に見やすくなるのです。
女性は生理周期によって胸の弾力が変化します。
それを利用して検査時期を調整することで、検査時の痛みを最小限にすることができます。
検査を受けるのに適している時期は、いちばん胸が柔らかい生理終了直後で、一般的に半熟目玉焼きの白身程度の柔らかさ(平均4.4キロパスカル)になります。
一方、生理開始直後は木綿豆腐程度の弾力(平均6.2キロパスカル)で、生理終了直後の約1.4倍の弾力になります。
そのため、生理終了直後は生理開始直後より、圧迫する力が3割ほど少なくてすみます。
ぜひこのサイクルを利用して検診の予定を立ててみてください。
乳がん対策は日常レベルに落とし込む時代へ!~乳房を意識する生活習慣「ブレスト・アウェアネス」とは
乳房に変化を感じた場合には、すぐに医療機関を受診することが大切です。
しかし、普段の自分の乳房の状態を知らなければ、変化があったときにすぐに気づくことができません。
乳がんをみつけようという意識ではなくて、自分の乳房の感じや月経周期による変化を知っておく「ブレスト・アウェアネス」が重要です。
ブレスト・アウェアネスには4つのポイントがあります。
<ブレスト・アウェアネス4つのポイント>
1. 自分の乳房の状態を知る:入浴の時や着替えの時といったちょっとした機会に自分の乳房を見て、触って、感じてみましょう。
2. 乳房の変化に気を付ける:しこりを探すという行為や意識は必要ありません。「いつもと変わりがないか?」という気持ちで取り組めば大丈夫です。
3. 変化に気づいたらすぐ医師に相談する:変化に気づいたら、次の検診時期を待たずに受診しましょう。安易な自己判断は禁物です。元プロレスラーの北斗晶さんも、胸の違和感をきっかけに受診したことで、乳がん発見につながったそうです。
4. 40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける:現在厚生労働省が推奨している乳がん検診(マンモグラフィ) は「死亡率を減少させることが科学的に証明された」有効な検診です。40歳以上の 女性は、2年に1回、定期的に検診を受けましょう。
ブレスト・アウェアネスは、「生活習慣」です。
日常生活で継続することで日頃から自分の乳房を意識し状態を知り、変化に気が付くことができるものです。
「自己触診」にハードルの高さを感じていらした方にもぜひ取り組んでいただきたい習慣です。
※1 日本医師会「日本のがん検診データ|知っておきたいがん検診」
※2 環境省「年間当たりの被ばく線量の比較」
<参考>
・ 日本対がん協会「がん征圧を目指して」
・ 乳がん検診の適切な情報提供に関する研究「ブレスト・アウェアネス」
・ 東京都福祉保健局「乳がんを早期発見するためのブレスト・アウェアネス|とうきょう健康ステーション」
・ 厚生労働省第32回がん検診のあり方に関する検討会「資料2-3 乳がん検診の適切な情報提供に関する研究(笠原参考人提出資料)」
・ 片岡郁美、山本佳世乃、德富智明、福島明宗「一般女性における乳房セルフチェックの実施頻度と頻度に影響を与える要因の分析」(「岩手医学雑誌」2021年2号)