令和2年6月、いわゆる「パワハラ防止法」が施行されました。
施行を前にして、厚生労働省に設置された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」では「業務による心理的負荷評価表」の見直しが行われ、5月15日付で「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」が公表されています。
この報告を受けた厚生労働省5月29日付で「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」を公表し、業務により精神障害を発病された方に対して、一層迅速適正な労災補償を行っていくとしています。
今回は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」の内容をわかりやすく説明します。
労災基準の見直し・検討が行われた背景
精神障害における労災認定は、これまで平成23年12月に策定された「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づき、行われていました。
精神障害に係る労災請求件数は、平成30年度には1,820件にのぼり、6年連続で過去最多を更新しており、今後も増加が見込まれる状況にあります。
また、認定基準の策定以降、働き方の多様化が進み、労働者を取り巻く職場環境は刻一刻と変化しています。
そんな中、令和元年5月の「労働施策総合推進法」の改正により、令和2年6月からパワーハラスメント防止対策が義務化されることを受け、「業務による心理的負荷評価表」の見直しが必要とされました。
そこで、厚生労働省に設置された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」にて、過労による自殺やうつ病などの精神疾患を労災と認定する際の基準についての検討が進められたのです。
今回の検討のポイント
今まで労災の認定基準では、「パワーハラスメント」の用語は用いられていませんでした。
しかし、パワーハラスメントに該当する事案については、これまで主に心理的負荷評価表の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の具体的出来事として評価されてきました。
したがって、今回の見直しは、新たな医学的知見に基づいたパワーハラスメントの新しい評価を示すものではありません。
あくまでも、パワーハラスメント防止対策の法制化に伴い、職場における「パワーハラスメント」の用語の定義が法律上規定されたことを踏まえて、同じ出来事を心理的負荷評価表に明記するとともに、これに伴って整理が必要とされる心理的負荷評価表の項目について、必要な改定を行うものとなっています。
報告書に示された改定内容は2つ
1.具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加
・「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加
・具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加
【強いストレスと評価される例】
・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・上司等による人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた場合
引用元:厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」
これまで「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の具体的出来事にあてはめていましたが、職場におけるパワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえ、追加することが適当であると示されました。
2.具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等を評価する項目として位置づける
【強いストレスと評価される例】
・同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた場合
・同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた場合
引用元:厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」
過去の事例から、優越的な関係に基づく上司などからのパワーハラスメントに該当するものを除いた場合、同僚等からの「暴行」によるものが支給決定事例として最も多いことがわかりました。
その次に、人格や人間性を否定するような「いじめ」が多いため、具体的出来事の名称は、「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」とすることが適当であるとされました。
さらに詳細を知りたい方は、厚生労働省の下記サイトをご参照ください
<参考>
・ 第5回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」
・ 「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表します
・ 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」