近年、バスや運送業における自動車事故が多くニュースに取り上げられ、非常に大きな問題となっていることは周知のところかと思います。
国土交通省の集計によると、平成28年に発生した事故は5,240件の報告があり、前年に比べて140件の増加となっています。
事業の種類で見るとバスで2,988件(前年より204件増加)、ハイ・タクで609件(前年より58件減少)、トラックが1,823件(前年より6件減少)となります。
また、事故原因のうち乗務員に起因するものは1,838件で前年より5件増加と緩やかながら上昇となっています。
このような背景と働き方改革の側面から、国土交通省は乗務員の睡眠不足に起因する事故の防止を一層強化するため、法規則の改正を行います。
旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部改正
今回改正されるのは、旅客自動車運送業の適正な運営を確保するための規則と、貨物自動車運送事業の輸送安全を確保するための規則で、施行日は平成30年6月1日となります。
対象となるのは、バスやタクシーなど自動車を使用し、需要に応じて有償で旅客を運送する旅客自動車運送事業者と、自動車を使用して需要に応じて有償で貨物を運送する貨物自動車運送事業者となります。
具体的な改正内容は下記のとおりです。
[1] 旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部改正
- 事業者が乗務員を乗務させてはならない事由等として、睡眠不足を追加します。
- 事業者が乗務員の乗務前等に行う点呼において、報告を求め、確認を行う事項として、睡眠不足により安全な運転をすることができないおそれの有無を追加します。
- 運転者が遵守すべき事項として、睡眠不足により安全な運転をすることができない等のおそれがあるときは、その旨を事業者に申し出ることを追加します。
[2] 「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」及び「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」の一部改正
点呼時の記録事項として、睡眠不足の状況を追加します。<出所>「睡眠不足に起因する事故の防止対策を強化します!!」(国土交通省)
営業車を使用する会社もご注意を
今回の改正について、焦点はトラックやタクシー、バス等の乗務員となっていますが、その他の企業でも営業車など、車の運転をする方は多数いるかと思います。
睡眠不足のなかで車の運転をすると、重大な事故につながるおそれがあることは改めて説明するまでもありません。
改正でフォーカスされている運送業や旅客業以外でも、衛生委員会等で睡眠についての議題を扱い、質の良い睡眠をとる方法について話し合う必要があるでしょう。
睡眠不足と企業の安全配慮義務
過去の判決では、睡眠不足が疲労の蓄積をもたらす要因として深く関わっているとし、企業の安全配慮義務違反を認める判決理由に影響を与えたこともあります。
※ 福岡2007年10月24日裁判 ハヤシ(くも膜下出血死)事件
また、長時間労働をすることで睡眠時間が削られる、睡眠の質が低下し、ひいては生産性の低下を招く可能性もあります。
睡眠不足により生産性が低下し、生産性が低下するから長時間労働が増える。
そしてまた睡眠不足が続き……精神面に不調をきたしてしまう。
あくまで想定の一つではありますが、十分に考えられるシナリオです。
社内に睡眠不足の人がいたら、単に生活上の問題だけだと捉えず、業務量や健康面などにも気を配ることが必要と考えましょう。