本当に効果ある?「次亜塩素酸水」が注目される3つのワケ

日本では1月下旬頃から軒並みマスクや消毒液などの衛生用品が品薄になり、一時期は本当にどこを探しても手に入らない、医療機関ですら入手できないというかつてない状況となりました。
最近ではようやくそれらの物品も少し目にするようになりましたが、まだまだ必要な時にいつでも手に入る状態には程遠いようです。
このような中、不織布マスクの代わりとして「布マスク」などの洗えるマスクが普及しました。
我が家でも、子ども達は手作り布マスクを愛用しています。
自宅で過ごすことが多い今、日常生活レベルでの飛沫の拡散防止には布マスクでも十分だと思っています。
また、マスクをつけるのを嫌がる小さな子どもも、お気に入りの柄なら付けてくれるなどメリットがありました。
さて、このようにマスクは「代わりのもの」が普及しましたが、困っているのは除菌・消毒類ではないでしょうか?
アルコール消毒はなかなか手に入らないうえに、たとえばスーパーや銀行の入り口に設置するなど、今まではなかった場所でのニーズが増大し、家庭やオフィス等でも頻繁に用いられるようになりました。
品薄となったアルコール消毒に代わってよく目にするようになったのが「次亜塩素酸水」です。
みなさんも一度は見たり聞いたりしたことがあるのではないでしょうか?
今回は「次亜塩素酸水」についてわかりやすく解説します。

間違えやすい「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」

COVID-19が流行する以前から「次亜塩素酸水」を消毒として普及しようという動向はありましたが、今回のアルコール類が手に入らない状況を受けて、非常に目にする機会が増えたと思います。
実際に、自宅近くのスーパーの入り口にも先日まではアルコール消毒が置いてあったのですが、今は次亜塩素酸水に変わっています。

次亜塩素酸水が注目される3つの理由

次亜塩素酸水が注目される理由は3つあります。
ひとつめは、アルコールに耐性が強い「ノロウイルス」にも効果があること。
ふたつめは、手荒れを起こしにくく安全であること。
最後は、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を電気分解することで生成されるため、電気分解する専用の装置があれば、「水と塩」さえあれば安価で大量に作ることができることが挙げられます。
次亜塩素酸水と間違えやすいのがハイターやミルトンの有効成分である「次亜塩素酸ナトリウム」です。
どちらも塩素に消毒作用があることは同じですが、まったく別の物質なので注意が必要です。

次亜塩素酸水は、なぜ消毒薬として普及していないの?

安価でノロウイルスにも効果があり、手荒れを起こしにくく安全性が高いのであれば、アルコールではなくもっと「次亜塩素酸水」を使えばいいのでは?と思う方も多いでしょう。
しかし、次亜塩素酸水が一般の消毒薬として普及していないのには理由があります。
まず、現時点で次亜塩素酸水は「食品添加物」としての位置づけで、調理の場で野菜や果物など食材の洗浄や、手指を洗うのに使われています。
具体例としてはカット済み野菜の洗浄などがあります。
次亜塩素酸水生成装置という機械から直接、次亜塩素酸水の流水が出てくるようになっていて、それを使ってじゃぶじゃぶ洗うイメージです。
簡単にいうと浄水器のような装置だと思ってください。
また、次亜塩素酸水はタンパク汚れが付着していると効果がなくなる性質があります。
医療の場では内視鏡の洗浄に使用することもありますが、その場合も必ず先に中性洗剤を使ってタンパク汚れを落としてから次亜塩素酸水の洗浄を行うことになっています(洗濯機のような機械を使い、流水で洗浄します)。
つまり、次亜塩素酸水で消毒効果を得ようと思うと、まず「タンパク汚れを落ととす=手指ならば手洗い」をしなくてはならず、それなら手洗いだけでもいいだろうということなのです。

次亜塩素酸水が消毒薬として認められるうえでの課題

次亜塩素酸水には他にも、安定性が悪いという大きな欠点があります。
先ほど、浄水器のような装置から直接出てくる流水で使用すると記述したように、本来その都度生成して使うものであって、保存に向かないのです。
たとえばアルコールやハイター、ミルトンなどはきちんと蓋をした状態で保管しておけばある程度保存がききますが、次亜塩素酸水は紫外線で効果がなくなるため、長期的に保存することができません。
熱帯魚を飼う時に、水道水を汲み置きしてカルキ抜きするのと同じで、紫外線に当てることで塩素が抜け、消毒効果がなくなります。
もし、次亜塩素酸水をスプレーボトルに入れて使用したいのであれば、きちんとした遮光の容器に入れ、冷暗所で保管し、長くても1週間程度で使い切るようにしてください。
遮光の容器がなければ容器にアルミホイルを巻くと多少持ちがよくなります。
透明や半透明のプラスチック容器に入っているものは、よほど生成してすぐの状態でなければ消毒効果は十分でない、もしくはほぼないと考えたほうがいいでしょう。
このように、次亜塩素酸水を使用するには、次の条件をクリアしなくてはならず、まだまだ消毒剤として安定した効果を発揮するためには課題が多いのが現状です。

① タンパク汚れを落とした状態で使用する
② 遮光の容器に入れて冷暗所に保管する
③ 生成して約1週間で使い切る

ただ、これらのデメリットが改善され、安定性の高いものが作られるようになれば、安全で効果の高い消毒剤になり得ると思うので、今後に期待していきたいですね。
このように物が不足する時は不安が募り、本当に正しいかどうか判断する前に購入したり使用したりしてしまうこともありますが、次亜塩素酸水に限らず、消毒を過信せず、こまめな手洗いうがいやマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保を徹底していきましょう。

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田中 祥子株式会社ドクタートラスト 産業保健部 保健師

投稿者プロフィール

企業の健康管理室で働いていた経験をさまざまなかたちで皆さまにお届けします。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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