組織の生産性向上のために~マネジメントに求められる人間観~
- 2019/6/29
- メンタルヘルス
2020年までを「生産性革命・集中投資期間」と定めている日本。
国をあげての「生産性向上」の取り組みもますます加速することが予想されます。
組織の生産性向上に取り組むにあたって、組織を構成する人間をどう捉えるかはとても重要であり、生産性向上にあたっての第一歩ともいえます。
あなたの人間観はどのタイプ?
アメリカの組織心理学者、エドガー・H・シャインの示した人間モデルの変遷は次のようなものです。
① 経済人モデル(1910年代)
働く人のモチベーションとは、賃金という経済的報酬であるという考え方で、フレデリック.W.テイラーの科学的管理法に端を発するモデルです。
仕事のやり方、段取りなどを、時間・動作研究を通じて「ムリ、ムダ、ムラ」を省き、「科学的」に管理の標準を定める。
標準を上回って作業できたものに対しては割増賃金を払うという「出来高制」を導入。
② 社会人モデル(1930年代)
働く人のモチベーションは経済的報酬ではなく、社会的欲求である集団所属の安心感や仲間とともに働く喜びであるという考え方です、
①の科学的管理法に対して、人間関係論として位置づけられます。
働く人の感情や人間関係こそが、生産性に影響を与えるため、そういった側面へのサポートがマネジメントに必要。
③ 自己実現人モデル(1950年代)
お金や人間関係よりも、人は自分の可能性を伸ばすことや自分らしく生きることを仕事でも望むという考え方です。
仕事のやり甲斐や自分の能力開発を通した価値・意味が大切であり、達成感や成長等の内的報酬が得られることがマネジメントに必要。
①~③、あなたはどのモデルにあてはまるでしょうか。
複数あてはまり、一つに絞れない人もいるかもしれません。
また、昔と今では違うということもあるかもしれませんね。
実は、これら変遷を総括したシャイン自身が提唱した、第4のモデルがあります。
それが「複雑人」モデルです。
組織のマネジメント層に求められる人間観 ~複雑人モデル~
第4の「複雑人」モデル、これこそが現代の組織の生産性向上のためのマネジメントに必要な人間観だといわれています。
〇 複雑人モデル
人間とは本来複雑な存在であり、すべての人が同じ動機をもって働いているなどということはありえない、「十人十色」という人間観。
つまり、複雑人モデルは、経済人モデル、社会人モデル、自己実現モデルの基盤にあるメタモデルという位置づけです。
初めに①~③と変遷を見てきましたが、①はもう古い人間観だから今の時代にあてはまらない、というものではありません(そもそも①は、成果主義社会の発端ともいわれ、今の時代でも無視できないモデルです)。
また、今の時代としては③の自己実現モデルが一番合うってことでしょ、というものでもないのです。
確かに「自己実現のための仕事」「自分の価値観を大切にした働き方」こういった言葉自体珍しくもない時代になりましたが、かといって、全員が全員、自己実現のために働いているわけではありません。
金銭的なことが一番モチベーションが上がる、という人もいれば、給料そこそこでも、とにかく人間関係に問題ない職場がいい、仕事内容は拘らない、という人ももちろんいるのです。
あなたの組織を見れば、第4のモデルは単なる理論ではなく、現実に即した実践的なモデルといえると思います。
生産性向上にゴールはない
このように第4のモデルとして挙げられると「言われなくてもわかっている」と言いたくもなりそうではありますが、
とりわけ組織のマネジメント層については、この人間観を忘れてはならないということです。
管理職レベルにある人が、どれか一つの人間観に固執し、そこから仕事観はこうあるべきという考えが強いと、多種多様な人材をいかして組織力を発揮するということは難しくなります。
また同じ人でも、環境やライフステージによって、どの仕事観が表面化するかは変わってきます。
組織を構成する人は、可変的なものです。
まずは上記①~④のモデルをもとに、自分自身の仕事観について振り返り把握し、そして周囲の人の仕事観について理解を進める。
仕事観がわかると、その組織に「今」必要な体制や制度、またコミュニケーションの方法がわかってきます。
常に組織を構成する「人」を見つめていく。
そこから、組織の生産性向上のために必要な、その組織にとっての最適解を探すことができるでしょう。