信頼関係を構築できるコミュニケーションとは~思考パターンから考える~

テレワークが推奨される今の時代「コミュニケーションの重要性やその効果」についてはもう十分すぎるほど職場の一人ひとりに浸透してきているように思います。
意識的に声掛けを行ったり、接触頻度を増やしたり、雑談してみたり……皆さんも経験がありますよね。
そんな中で今日は、語っても語りつくせないコミュニケーションの「質」の部分について、ジェローム・ブルーナー (Jerome Bruner) の思考分類からヒントを得ていきます。

人間の思考の2パターン

ブルーナーは認知心理学の枠組みを作った一人であり、20世紀最大の心理学者ともいわれ、「心の理解」について研究した人です。
ブルーナーは人間の思考には以下の2つがあるとしています。

① 論理科学的思考様式
② ナラティブ的思考様式

①の「論理科学的思考様式」は真理を立証する思考様式で、「XはYである」というように、ある与えられた判断が真であることを妥当な論拠を挙げて結論を導きます。
ある事柄に対して一つの明確な意味しかもたない一義的なもので、それは客観的事実だけで構成されます。
一方、②の「ナラティブ」とは、直訳すると語りや物語ですが、単なる台本上のストーリ―としての語りではなく、一人ひとりの主観的事実・主体的な体験を含んだ語りを指し、一義的なものではなく、さまざまな想像も招く曖昧性を含むものです。
たとえば「マグカップ」という単語一つをとっても、その言葉でそれぞれが思い描くものは同一のものではありません。
ある人は、親しい人からもらった思い出を思い出すかもしれません。
ナラティブとは、主観的体験を含んだ個人が紡いでいくストーリーなのです。
つまり、論理科学的思考様式については主観的な要素は扱われないが、ナラティブ的思考様式においては、語る人が何を考え、どう感じ、何を見ているのかという主観的な意識の部分を大切にします。

客観的事実のみを正解とするモードから脱却できるか

論理科学的思考とナラティブ的思考様式はまったく異なるもののようですが、どちらか一方だけで人の思考が成り立つものではなく、あくまで相互補完的なものとされています。
しかしながら、こと「職場」という場面においては、どうしても論理科学的思考によるコミュニケーションが幅をきかせ、ナラティブ的思考様式が忘れられがち、ともすれば排除されがちではないでしょうか。
生産性という言葉に縛られて、目先の「効率」に捕らわれ、職場からは、個人の主体的世界観を受け入れる場所が奪われてきました。
語ることも許されないのは、窮屈な世界であり、動機付けの機会も失われていきます。
人は同じ出来事そのものを捉えるのではなく、そこに自身の認識や解釈を加えるものであり、それゆえに社会とは客観的なものではなく主観的なものとして捉えるという社会構成主義という視点があります。

実は人はそれぞれの世界を生きている。
「分かち合う」ための手段であるコミュニケーション。

そこに異なる意味・見え方が存在することを前提とし、互いの焦点を合わせていく「ナラティブモード」により信頼関係構築され、動機付けを高める手段となるのではないでしょうか。
それは、ナラティブモードは、語り手の存在自体を受容し得ることになるからだと思います。

最後に

ある企業管理職の方々とのワークセッション後に「今まで一貫して論理科学的思考様式の強化を求められてきた。そこに人材育成・成長というマネジメントにおいてナラティブ的思考様式がいかに大切かを最近痛感している」と感想をいただきました。
おそらく多くの組織管理職の方の仕事モードは、論理科学的思考様式で形成されているのではないでしょうか。
ナラティブ的思考様式に移行する「スイッチ」をもつ必要性、そしてそれらを意識的にONにすることができるか。
特にメンタル領域において、「不完全さへの寛容」が求められる場面というのは多いです。

言葉というのはもろ刃の剣。
言葉さえ発していればコミュニケーションになるというのは安易であり、言葉により命が救われることも、命を奪うこともあるということ。

言葉の力を改めて考えるとともに場所も経験も分断されがちな今、語り、その世界を分かち合うというコミュニケーションが今まで以上に必要、そう感じる今日この頃です。

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山口紗英株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士

投稿者プロフィール

メンタルクリニックでのカウンセリング従事の後、「働く人」を理解すべく一般企業にて勤務。その後ドクタートラストに入社。
自然成長は望めない時代だからこそ、「個」と「組織」の両面に、健康という手段をもってアプローチすること大切だと思っています。知識ではなく、明日から職場で使える「スキル」を発信し、働くことが楽しいと思える社会の構築を各現場から作っていけたらと思います。
【保有資格】精神保健福祉、産業カウンセラー、第二種衛生管理者、健康経営アドバイザー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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