コロナウイルスのワクチン接種がはじまり、「アナフィラキシー」という言葉をよく耳にするようになりました。
アナフィラキシー自体は以前からあるもので、たとえば蜂にさされた後や何か食べ物を食べた時、薬を飲んだり注射した時に急激に起こる強いアレルギー反応のことを言います。
アナフィラキシーは「アレルギー症状が2臓器以上に出た状態」とされていて、さらに症状が深刻になり、血圧低下や意識消失などが起こると「アナフィラキシーショック」と呼ばれます。
通常のアレルギーが「蕁麻疹」など限局した症状に留まるのに対して、アナフィラキシーでは「蕁麻疹、粘膜浮腫、血圧低下、呼吸困難、下痢や嘔吐」など症状が複数にわたります。
今回は、このアナフィラキシーと新型コロナウイルスのワクチン接種についてお話します。
副反応は多い?
日本では2月17日にコロナウイルスのワクチン接種が始まりましたが、3月26日時点での厚生労働省の報告(2月17日~3月21日分)では、ワクチン接種後の副反応報告として死亡例2件、副反応疑いは181件、そのうちアナフィラキシーとして47件が挙げられました。(578,835回接種中)
それぞれ詳しく見てみると、死亡例2件に関してはどちらも死因がくも膜下出血とのことなので、たまたまワクチン接種に近い日付でくも膜下出血が起こったのか、ワクチン接種が何らかのかたちで関与しているのか、現時点では不明となっています。
これまでのワクチン接種におけるアナフィラキシーの発生頻度は0.008%になるので、10万接種あたりで考えると8件となります。
諸外国のアナフィラキシー発生頻度よりも多いという報道もありましたが、日本では他国が使用している国際的なアナフィラキシー分類とは違う基準で報告をしていたため、単純に諸外国と比較することはできず、今の時点では日本の方が多いとは断定できない状況です。
アナフィラキシーが起こるとどうなる?
アナフィラキシーの症状はさまざまですが、多くみられるのが急激に起こる「蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下」で、これらはワクチンを接種して30分以内に発症することがほとんどです。
そのため、日本のワクチン分科会では
「過去にアナフィラキシーや重いアレルギー症状を起こしたことのある人は30分、そのほかの人は15分間観察を行う事」
と対応を決めています。
他国でもほぼ同様の対応を行なっており、重いアレルギーを起こしたことがなければ、接種後15分程度体調の確認を行い帰宅する流れになります。
もちろん、帰宅後に副反応として、頭痛や発熱、倦怠感などの症状が出る可能性はありますが、これらの症状は一過性のものなので自然によくなると考えていいでしょう。
正しい知識を持って接種を
ちなみにコロナウイルスワクチンを除外した2019年の年間のアナフィラキシーによる死亡総数は62件でした。
内訳は蜂毒が11件、食物が1件、薬物が10件、詳細不明が40件となっています。
2019年は詳細不明が非常に多いのですが、他の年も見てみると「蜂毒」と「薬物」が多くなっています。
アナフィラキシーの話ばかりを耳にしていると、ワクチン接種が怖くなってしまう方もいると思います。
私はアレルギーの既往はありませんが、やはり初めて接種する注射なので心配ではあります。
ただ、覚えておいて欲しいのはコロナウイルスワクチン以外の原因でも、アナフィラキシーを起こすことがあるということです。
そして、現時点で、国外も含めワクチン接種後のアナフィラキシーによる死亡例はないことはぜひ知っておいてください。
どの接種会場でも、万が一に備えて初期救急の対応と救急搬送の準備がされています。
先ほど、アナフィラキシーによる死亡例を挙げましたが、たとえば山に入って蜂にさされた時、自宅での食事中、病院から帰宅して薬を内服した時、急にアナフィラキシーを起こしたとしても、迅速かつ適切に対応するのはかなり難しいことだと思います。
蜂に刺されてアナフィラキシーを起こして死ぬかもしれない、この食事を食べたらアナフィラキシーを起こすかもしれない、そう思いながら生活している人はごく少数です。
一方、ワクチン接種の際には、接種する側も受ける側も「アナフィラキシーを起こすかもしれない」と想定をした上でその場にいるので、山の中や自宅で発症するのとは対応の速度が全く違います。
アナフィラキシーは時間が経てば経つほど救命率が下がるので、想定外の状況で発症した場合死に至ることも少なくないのです。
ワクチンは全員が強制的に接種するものではなく、それぞれの体の状態を十分考慮した上で接種しなければなりませんが、アナフィラキシーや重いアレルギーの既往がない場合は、過度に恐れ過ぎず、正しい情報を得て接種を検討して欲しいと思います。