日本は、地震や台風・火山噴火など、世界に類をみない災害大国です。
内閣府の調べによると、日本の国土面積は世界の0.25%しかないにもかかわらず、災害発生割合は、マグニチュード6以上の地震回数20.8%、活火山数7.0%、死者数0.4%、災害被害額18.3%など、非常に高くなっているとのことです。
今月11日で、未曾有の大災害であった東日本大震災から8年が経ちます。
当時は首都圏の企業でも、災害発生から数日間は休業を余儀なくされたケースが多かったのではないでしょうか。
ここで今一度、災害に見舞われた際の労働関連法の扱いを確認してみたいと思います。
会社を休業する場合の賃金の支払い
(1)会社自体が被災してしまい、営業できないとき
【労働基準法第26条】
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者は、休業期間中の休業手当(100分の60以上)を支払わなければならない
この法のポイントは、災害が「使用者の責に帰すべき事由にあたるのか」という点にあると思いますが、当然ながら自然災害等は不可抗力ですから、使用者の責に帰すべき事由には該当せず、労働者に対しての賃金の支払義務はありません。
ただし、この不可抗力というのは、以下の2つの条件を満たす必要がありますので、雇用主は押さえておく必要があります。
① 休業の原因が事業の外部より発生した事故であること
② 事業主が最大の注意を尽くしてもなお避けられない事故であること
(2)会社自体は被災していないが、外部要因により営業できないとき
幸いなことに会社自体に被害がなくても、取引先が被災したり、鉄道や道路が寸断されたり、自社以外の要因によって休業を余儀なくされるケースもあります。
そういった場合は、労働者に賃金を支払う義務はあるのでしょうか?
厚生労働省のQ&Aでは、以下のように見解が示されていました。
事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。(中略)具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。
出所:厚生労働省「地震に伴う休業に関する取扱いについて」
「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうか、厚生労働省の見解では、「総合的に勘案し…」とありますが、あくまで例外としてですので、雇用主としては、原則的に支払義務が生じるものと捉えておいたほうがよいと思います。
なお、東日本大震災の際には計画停電が行われましたが、このとき電力が供給されない時間帯を休業とすることについては、「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないと判断され、賃金の支払は不要とされていました。
災害を理由に労働者を解雇できるか
読者のみなさんは、自然災害等を理由に労働者を解雇できると思いますか?
法では以下のように定められています。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする
解雇・雇止めは、労働者にとって大変重要な問題ですので、解雇理由もよっぽど重大なものでない限り、無効と判断される場合があります。
また、たとえ解雇・雇止めの理由が災害であったとしても、無条件に認められるものではなく、雇用主にはできる限り雇用の安定性に配慮することが望まれます。
そのため災害の場合であっても、通常の手続どおり、30日前には解雇することを予告するか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払わなければなりません。
ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合は、労働基準監督署長の認定を受けられれば、解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要とされています。
雇用保険による支援
(1)雇用保険の特別措置
災害により会社に直接の被害があり、休業を余儀なくされた場合、賃金を受け取ることができない労働者も出てきます。
その場合は、実際に離職していなくても雇用保険の基本手当(失業給付)を受給することが可能です。
なおこの場合、災害により一時的に離職を余儀なくされている労働者で、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、手当を受給することができます。
また通常この受給手続きは、居住地を管轄するハローワークで受給手続きを行いますが、交通の断絶や遠方へ避難している場合は、管轄外のハローワークでも手続きをすることができますので、覚えておいていただきたいと思います。
(2)雇用調整助成金
自然災害等により、経済上の理由で事業活動を縮小する会社が労働者に休業手当を支払う場合、この雇用調整助成金を利用することができます。
【雇用調整助成金の概要】
景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成されます。
出所:厚生労働省「雇用調整助成金」
災害発生の際には、労働者の生活の安定が図れるよう、支給要件が緩和される場合があります。
有事の際には事業所を管轄する労働基準監督署やハローワークなどでの確認をおすすめします。
<参考>
・ 内閣府「防災情報のページ」
・ 厚生労働省「地震に伴う休業に関する取扱いについて」
・ 厚生労働省「雇用調整助成金」