新年度への備えは万全ですか? 3月に見直すべき労働安全衛生体制と衛生管理者の責務
- 2026/3/9
- 労働安全衛生法

3月は多くの企業にとって年度末にあたり、組織改編や人事異動、新卒採用の準備などで非常に多忙な時期です。
しかし、この時期こそ、人事労務担当者や衛生管理者が最も気を引き締めなければならないタイミングでもあります。
なぜなら、4月からの新年度を円滑にスタートさせるためには、労働安全衛生法に基づいた体制の再点検が不可欠だからです。
労働安全衛生法において、労働者が50名以上の事業場では「衛生管理者」の選任や「衛生委員会」の設置が義務付けられています。これらは単なる形式的な手続きではなく、働く人の健康と安全を守るための法的基盤です。
本稿では、3月に取り組むべき安全衛生管理のポイントを4つの視点から解説します。
衛生管理者の選任状況と「週1回の巡視」の徹底
まず確認すべきは、自社の衛生管理体制が法的に正しく維持されているかという点です。
労働安全衛生法第12条では、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、その規模に応じた人数の衛生管理者を選任することが定められています。
(衛生管理者)
第12条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第10条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。
出所:労働安全衛生法
3月の異動時期には、衛生管理者が転勤したり退職したりするケースが散見されます。
もし選任されている者が離職する場合、欠員が生じた日から14日以内に新たな衛生管理者を選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に「選任報告書」を提出しなければなりません。
これは、後回しにされがちな事務手続きですが、法律で定められた厳格な義務です。
また、衛生管理者の最も重要な職務の一つに「少なくとも毎週1回、作業場等を巡視すること」があります。年度末の繁忙期には、ついついこの巡視がおろそかになりがちです。
しかし、3月は業務過多による疲労蓄積や、大掃除、什器の移動などによる労働災害のリスクが高まる時期でもあります。衛生管理者は、整理整頓(5S)の状態だけでなく、労働者の顔色や作業環境に変化がないかを改めて厳しくチェックする必要があります。
形骸化を防ぐ! 衛生委員会の適切な運営と議事録の保管
次に、衛生委員会の運用についてです。労働安全衛生法第18条により、50人以上の事業場では毎月1回以上の衛生委員会の開催が義務付けられています。
(衛生委員会)
第18条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
出所:労働安全衛生法
3月は年度末の会議が重なり、「今月は忙しいから」と開催を見送ったり、書面開催だけで済ませようとしたりする動きが出るかもしれません。
しかし、法的には対面またはオンライン等での実質的な審議が求められており、安易な中止は認められません。
3月の委員会で特に議題にすべきは、次年度の「年間安全衛生計画」の策定です。
前年度の健康診断の結果やストレスチェックの集団分析結果を振り返り、どのような対策を重点的に行うかを話し合います。
たとえば、「長時間の時間外労働が見られた部署への対策」や「メンタルヘルス不調者の発生抑制」など、具体的な目標を立てることが重要です。
また、委員会の議事録は3年間の保存義務があります。
年度の切り替わり時期に、過去1年分の議事録が正しく作成・保管されているか、また労働者に周知されているかを点検してください。
イントラネットへの掲載や掲示板への掲示など、すべての労働者が内容を確認できる状態にすることが、法遵守(コンプライアンス)の第一歩です。
健康診断後の事後措置と新入社員への安全衛生教育
3月は、4月の新入社員受け入れに向けた準備の最終段階でもあります。
労働安全衛生法第59条に基づき、雇入れ時の安全衛生教育は必須です。
(安全衛生教育)
第59条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
出所:労働安全衛生法
これには、従事する業務に関する危険性や有害性の周知だけでなく、社内の衛生ルールや相談窓口の周知も含まれます。
特に、新卒採用や中途採用が多い企業では、教育内容のプログラムを3月中に完成させておく必要があります。
昨今は「カスタマーハラスメント」や「パワーハラスメント」の防止対策も労働施策総合推進法(パワハラ防止法)等で義務化されているため、これらも含めた包括的な教育体系を構築することが望ましいでしょう。
さらに、前年秋から冬にかけて実施した定期健康診断の「事後措置」が完了しているかも確認してください。
異常所見があった労働者に対し、医師の意見聴取を行い、必要に応じて就業場所の変更や作業の転換などの措置を講じることは事業者の義務です。
医療職(産業医等)と連携しつつ、人事労務側が「法的な手続き」としての進捗を管理することが求められます。
ストレスチェック制度の年間サイクルと次年度の予算確保
最後に、ストレスチェック制度の運用状況の確認です。
常時50人以上の事業場では年に1回以上の実施が義務づけられていますが、実施して終わりになっていないでしょうか。
3月は、実施結果を受けて実施した「集団分析」の内容を、次年度の職場環境改善にどう活かすかを決定する時期です。
また、3月は、次年度予算の最終調整が行われる時期でもあります。
衛生管理者は、必要に応じて、メンタルヘルス研修の実施や、外部EAP(従業員支援プログラム)の導入、あるいは作業環境を改善するための設備投資など、安全衛生に関する予算が確保されているかを確認しなければなりません。
労働安全衛生法は、単に罰則を避けるためのものではなく、労働者の健康を維持することで企業の生産性を高めるためのガイドラインです。
3月という節目の時期に、これまでの体制を棚卸しし、不備があれば速やかに修正する。
その積み重ねが、労働者から信頼される健康的な職場づくりへとつながります。
新年度を最高の状態で迎えるために、今一度、貴社の労働安全衛生体制をチェックしてみてください。
<参考>
・ 労働安全衛生法
・ 労働安全衛生規則
















