推奨される睡眠時間や生活習慣は?「健康づくりのための睡眠ガイド2023」策定

「休養を取れていますか?」と聞かれたらみなさんはなんて答えますか?
面談やカウンセリングでこのような質問をされること、よくありますよね。
厚生労働省の「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動)では、休養について以下のように述べられています。

「休養」は疲労やストレスと関連があり、2つの側面がある。1つは「休む」こと、つまり仕事や活動によって生じた心身の疲労を回復し、元の活力ある状態にもどすという側面であり、2つ目は「養う」こと、つまり明日に向かっての鋭気を養い、身体的、精神的、社会的な健康能力を高めるという側面である。
<出所>厚生労働省「健康日本21」

つまり、「休む」と「休なう」という2つの面を持つのが休養です。
趣味やリラックスなどで、「養う」ことも心身のリフレッシュにはとても重要ですよね。
今回は、休養のうち「休む」側面に着目します。

成人は「6時間以上睡眠」推奨~「健康づくりのための睡眠ガイド2023」策定~

2023年12月21日、厚生労働省が「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を取りまとめました。
日本では、これまで2013年に「健康づくりのための睡眠指針~快適な睡眠のための7箇条~」が、また2014年には「健康づくりのための睡眠指針2014」が策定されました。
そこからおよそ10年が経過した今、睡眠に関する新たな科学的知見が蓄積されてきています。
一方で、2022年10月に公表された「健康日本 21(第二次)最終評価」によると、「睡眠による休養を十分とれていない者の割合」について、2009年の18.4%を、2022年に15%まで低下させることを目標としていあmしたが、2018年の最終評価時は21.7%と、むしろ増加傾向となりました。評価としても悪化していると判断されることとなりました。
年齢階級別に分析すると、働き盛りの世代である特に中高年者(50歳代)において増加の度合いが大きかったこともわかっています。

こうした状況を踏まえて、最新の科学的知見に基づき「健康づくりのための睡眠指針2014」を見直し、最新のデータをもとに現代の生活様式や健康ニーズにこたえるため「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を策定することとなりました。

「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、すべての国民が取り組むべき重要課題として「適正な睡眠時間の確保」と「睡眠休養感の向上」をかかげ、それぞれのライフスタイルに応じて良質な睡眠の確保ができるよう、ツールとしての活用できるような構成となっています。
具体的には、高齢者、成人、子どもの世代ごとに、推奨される睡眠時間や推奨事項を以下のようにまとめています。

世代別の「睡眠の推奨事項」

高齢者・ 長い床上時間が健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する
・ 食生活や運動などの生活習慣や寝室の睡眠環境などを見直して、睡眠休養感を高める
・ 長い昼寝は夜間の良眠を妨げるため、日中は長時間の昼寝は避け、活動的に過ごす
成人・ 適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する
・ 食生活や運動などの生活習慣、寝室の睡眠環境などを見直して、睡眠休養感を高める
・ 睡眠の不調・睡眠休養感の低下がある場合は、生活習慣などの改善を図ることが重要であるが、病気が潜んでいる可能性にも注意する
子ども・ 小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間を参考に睡眠時間を確保する
・ 朝は太陽の光を浴びて、朝食をしっかり取り、日中は運動をして、夜ふかしの習慣化を避ける

出所:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)」をもとに作成

平日の睡眠不足を取り戻そうとして、休日に「寝だめ」をする方、多いのではないでしょうか?
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」のうち成人版では「寝だめ」についても問題点として言及、以下のように大きく取り上げています。

・ 実際には眠りを「ためる」ことはできない
・ 国際的には週末の眠りの取り戻し(Weekendcatch-up sleep)と呼ばれ、毎週末(休日)に時差地域への旅⾏を繰り返すことに類似していることから、社会的時差ボケ(SocialJetlag)とも呼ばれる
・ 社会的時差ボケは、慢性的な睡眠不足による健康への悪影響と、頻回に体内時計のずれが生じることによる健康への悪影響の両側⾯を有しており、肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症リスク、脳血管障害や心血管系疾患の発症リスク、うつ病の発症リスクとなる可能性
・ 休日の寝だめでは、平日の日中の眠気は完全には解消できず、メリットは極めて限定的
・ 休日に長時間の睡眠が必要な場合は、平日の睡眠時間が不足しているサイン
・ 寝だめのために休日の起床時刻が大きく遅れると、体内時計が混乱し、時差地域への海外旅⾏と同様の時差ボケが生じる結果、健康を損なう危険性が生じると考えられる

出所:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)」をもとに作成

睡眠時間とともに大切な「休養感」とは

「休む」といえば、皆さんは何を思い浮かべますか?
忙しいとき、やりたいことがあるとき、時間が足りない!と感じるとき、睡眠時間を削っていませんか?
「寝る間を惜しんで〇〇をする」なんて表現もありますよね。
休む方法にも種類はあると思いますが、すべての年代の方にとって共通して不可欠な休養活動は睡眠です。
他の活動を優先して、睡眠時間を削るという考え方から、自分自身のために積極的に睡眠をとるという姿勢にシフトしていきましょう。
厚生労働省が2020年10月に公表した「令和元年国民健康・栄養調査結果」によると、1日の平均睡眠時間は「6時間以上7時間未満」の割合が最も高く、男性32.7%、女性36.2%でした。
6時間未満の者の割合は、男性37.5%、女性40.6%であり、性・年齢階級別にみると、男性の30~50歳代、女性の40~50歳代では4割を超えています。
また、睡眠の質の状況については、男女ともに20~50歳代では「日中、眠気を感じた」と回答した者の割合が最も高く、睡眠の確保の妨げとなる点について、男女ともに20歳代では「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」、30~40歳代男性では「仕事」、30歳代女性では「育児」と回答した者の割合が最も高い結果となりました。
十分な睡眠時間の確保が重要なのはもちろんですが、睡眠により休養感が得られることも同じくらい大切です。
休養感を低下させる要因としては、睡眠不足、日中のストレス、就寝直前の夕食や夜食、朝食抜きなどの食習慣の乱れ、運動不足、歩⾏速度の遅さなどの運動習慣の不良、糖尿病、高血圧、がん、うつ病などの慢性疾患などが報告されています。
睡眠環境、生活習慣、嗜好品の摂り方などを見直し、可能な範囲で改善するとともに、慢性疾患の早期発見・早期治療に努め、睡眠による休養感を高められるように積極的に働きかけましょう。

労働時間と睡眠時間は関連あり!企業としてできること

プライベートの問題ととらえがちな睡眠ですが、睡眠による影響は、集中力の低下につながることが報告されています。
生産性に影響するともなれば、プライべートな問題としては片づけられないですよね。
就業時間外の睡眠時間については、実態の把握や介入がなかなか難しいものであると思います。
労働者が適正な睡眠時間を確保するうえで重要なのは、労働時間との関係です。
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、労働時間が長いほど睡眠時間が短くなるリスクがあること、勤務間インターバルで睡眠時間を確保すること、および睡眠を取る時刻が日によってずれないようにする重要性などにも触れています

また、会社では昼休みに少し眠れるような環境を整える、午後の昼寝の時間帯を確保するなど、取り組めることはいろいろあります。
衛生委員会の議題にあげてみるなど、できることから始めてみてはいかがでしょうか?

<参考>
・ 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)」
・ 厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」
・ 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果」

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中山 真樹株式会社ドクタートラスト 産業保健師

投稿者プロフィール

看護師として病棟勤務を経て、現在は企業様を対象に保健師業務を行っております。企業の健康管理室に出向していた経験、また、現在訪問企業で実施している業務からヒントを得て、皆様が知りたいことをお届けしたいと思います。
【保有資格】看護師、保健師、第一種衛生管理者、養護教諭一種
【ドクタートラストの保健師サービスへのお問い合わせはこちら】
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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