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働き方改革とシステム導入 その大きすぎる代償
- 2018/3/14
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昨今、働き方改革の一環で、AI導入やシステム運用により今まで人間が行っていた作業をコンピュータに代替することで、労働者の負担軽減や人員数の削減を目指すことが話題となっています。
しかし、実際にシステム導入をしたカナダ政府では、問題が発生し続け、なおかつ現在もその問題が解決していない事態となっています。
カナダ政府は問題解決のために約10億カナダドル(約820億円)を投入しなければいけないことになってしまいました。
本来はシステムを導入することにより業務の軽減が行えコスト削減できるはずが、逆に莫大なコストを支払わなければいけなくなったこの問題をみていきたいと思います。
カナダ政府で起きた問題とは
このシステム導入の目的は、さまざまな部門で給与計算を処理する1,200人の職員を解雇し、政府の給与の大部分を処理するための集中管理システムを約500人で運用することによるコスト削減でした。
2016年にシステムは稼働しましたが、最初から想定通りに動作しなかったようです。
給与の支払額が多くなった職員がいたり、逆に給与が限りなくゼロになってしまった職員がいたりなど、問題が頻発しました。
現在でも26万人以上の連邦公務員の給与が未払いになるという懸念は払拭しておらず、いくつかの主要な財務上の決定を延期せざるを得ない状況となっています。
職員たちも、さらに多くの問題が発生して給与が変化することを恐れて、昇進や退職を辞退しているそうです。
カナダ政府の会計監査部門の調査によると、この部門の新しく雇用された職員の多くが教育不足であり、しかも過労状態であることが判明しました。
なぜこのような問題が発生したのか
このシステムのプロジェクトの発端は、IBMがOracleのソフトウェアを使った給与計算システムのインストールと運営サポートをする契約をカナダ政府から受注したことです。
カナダ政府では、IBM以外の企業も検討したそうですが、システムが「複雑すぎる」と判断したために入札に至らず、最終的にIBMが落札したそうです。
IBMは発生した問題に関して「契約の義務は果たしており、ソフトウェアは意図した通りに機能している」との見解を明らかにし、「プロジェクトの問題を解決しようとする政権の取り組みに引き続き協力し、プロジェクト全体の成功に努めている」と述べています。
一方で、システムのソフトウェアメーカーであるOracleの代理人は、コメントを控えています。
カナダ政府職員を代表する主要組合の1人であるDebi Daviau氏は、その責任は準備が整っていない兆候が目立っていたにもかかわらず、プロジェクトを運営していた政府高官に大部分があると述べています。
そして、問題があることが明らかであるにもかかわらずIBMがプロジェクトを進めた理由と、同社が約束どおりに働かなかったプロジェクトから利益を得ていることに疑問を投げかけています。
カナダのBill Morneau財務大臣は、前政権がプロジェクトを実装するために必要な社員を解雇するという間違いを犯していたということも発表しています。
この問題から考えられること
AIやRPA(※)のシステム運用など、とかくコストをかけて導入したシステムが、さも労働者に取って代わるような論調を目にすることがあります。
しかし、コンピュータはあくまで設定された動作しか行えませんし、自分で問題解決もできません。
また、運用方法や設定が変わった場合には、それを人間が修正することが必要になります。
IBMやOracleといった世界的大企業がシステム開発をしても、正常に動作するシステムを導入することができないのです。
毎年何千ものプロジェクトを追跡している研究グループStandish Groupによると、民間部門や公共部門の大部分の技術革新プロジェクトは、失敗するか、大きな課題に直面していると述べています。
働き方改革の成果として、労働時間短縮や人員削減、生産性向上などの数値目標を決めて取り組むこともあるかと思います。
そのようなときに現場の状況確認や導入するシステムの精査を行わないで、机上でプロジェクトを進めてしまうと、後に大問題が発生するおそれがあります。
今回のカナダ政府のコスト損失は莫大ですが、日本の政府や企業においてもこのような事例を教訓に、システムの慎重な導入と確実な運用の確立を目指して、真の働き方改革が実現できることを切に望みます。
※RPA=ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation):認知技術(ルールエンジン・機械学習・人工知能等)を活用した、主にホワイトカラー業務の効率化・自動化の取組み
<参考>
「Canada to Scrap IBM Payroll Plan Gone Awry Costing C$1 Billion」(Bloomberg)