企業には、従業員の健康に関する情報が保管されています。
従業員数が50名を超えると、産業医を選任する義務が発生するため、健康に関する情報はさらに増えていくのが一般的です。
個人の健康に関する情報の管理は、人事部門が管理する情報の中でも、特別な注意が必要となります。
企業が保管する健康情報の種類
企業が保管する健康情報には、以下のようなものがあります。
1.健康診断結果(個人票)
2.健診事後措置の記録票
3.産業医の面談記録
4.保健指導の記録
5.療養給付に関する情報(受診記録・診断名等)
6.医療機関から提出された診断書等
これらの情報を適切に管理するには、どのような方法を取れば良いのでしょうか?
厚生労働省の見解
厚生労働省の検討会では、健康情報の管理について、以下のような議論・報告がなされています。
☑事業者は、健康情報を取り扱う者及びその権限を明確にした上で、その業務を行わせなければならない。
また、健康情報の取扱いについて権限を与えられる者及びその取り扱う健康情報の範囲は最小限度とすべきである。
具体的には、産業医・産業看護職や衛生管理者等の産業保健スタッフ、人事労務担当者・管理監督者等が、それぞれの責務を遂行するうえで必要な範囲の情報に限定して取り扱うことを原則とすべきである。
事業者は、このような取扱いについてのルールの策定において、あらかじめ労働者の意見を聞く必要がある。
☑「中間取りまとめ」で検討が必要とされた、労働者の健康情報の取扱いを産業医等が中心となって行うことについては、労働者の健康情報に関する秘密保持や適正な取扱いを徹底するため、健康診断の結果である生のデータは、産業医等の手許に集中され、労働者の就業上必要と判断する限りで、加工されたデータが事業場の中でその情報を必要とする者に伝えられる体制が望ましいということができる。
ただし、実際には月に1回職場を訪れる非常勤の産業医が多い中では、情報の伝達が滞る可能性があり、また、50人未満の産業医の選任義務がない事業場も多数存在することから様々な課題も指摘された。
☑健康情報に基づく診断、医学的な判断により事業者へ意見を述べることなどは、産業医等が行わなければならない。
しかしながら、健康情報が記載された文書の授受・整理・保管などを行う者は、必ずしも産業医等である必要はなく、事業場の常勤職が関与することにより実務を滞りなく処理することができると考えられる。
☑今後、事業場において健康情報を取り扱う際には、産業医等が中心となって実施するような体制を備えた事業場が増えるよう取り組んでいく必要がある。
☑このほか、健康情報の取扱いに関して、法定の健康診断など特別な場合を除いて、収集の段階で本人の同意が必要であり、また、収集された情報の利用停止や廃棄についても、本人の意思が最大限尊重されなければならない。
このような取扱いについても、事業者は、労働者と合意した上で、ルールや具体的で実効的な対応方法を取り決めておく必要がある。
(平成16年度厚生労働省「労働者の健康情報の保護に関する検討会報告書」より抜粋)
特に、疾病名や検査値などは「生データ」と呼ばれ、原則的に産業医・保健師など医療知識のあるものに限って取り扱うことが望ましいとされています。
企業によっては、上司が健診結果そのものを確認したり、入力・保管するケースも見られますが、人事部門に管理を統一するべきであると言えます。
※雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項について(平成27年11月30日通達)
健康情報保護・保管の方法
健康情報を安全に保管するために、以下のような方法が取られています。
1.健康診断結果は、衛生管理者へ直接提出する。(上司経由にはしない)
2.健診結果や面談結果などは、施錠のできるキャビネに保管し、鍵は衛生管理者が保管する。
3.共有サーバー上にデータを保管する場合は、アクセス制限により、特定の社員(衛生管理者など)以外が閲覧不可能な状態にする。
4.面接結果指導報告書など、人事や上司に共有される書面には、本人の了承を得た個人情報を除く情報のみを記載するよう留意する。
5.管理職研修の中で、部下の健康情報管理について知識を持ってもらう。
衛生管理者は、健康管理情報をデスク上に放置したまま、またはPC画面に表示したまま離席しないよう、十分に注意しましょう。
企業は、労働者が健康・安全に働くために、健康診断を始めとする健康情報の取得を避けることはできません。
同様に、労働者も、定期健康診断の受診拒否や、結果提出の拒否をすることはできません。
情報の管理方法をしっかりと定め、徹底していくことで、企業と従業員のトラブルを防ぐだけでなく、社員が安心して健診・産業医面談を受けることができます。