就労世代で歯科検診受診率が低下~「U.E.N.O.Plan」で変わる企業の健康管理義務~

2026年7月23日、厚生労働省は、「攻めの予防医療」を掲げる新たな政策パッケージ「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表しました。
「U.E.N.O.」は、Understand、Exercise、Nourish and Optimize for Better Healthの頭文字で、「理解し、運動し、栄養を整え、より良い健康のために最適化する」という考え方を表しています。

政策の背景には、「健康日本21」やがん対策・循環器病対策の基本計画などを通じてこの20年間で脳血管疾患による死亡割合が12.5%から6.4%に減少し、健康寿命が世界最高水準に達したという成果があります。
一方で、がんや循環器病をはじめとした生活習慣病は、依然として死因の約5割、医療費の約3割を占めており、老衰による死亡割合の増加とあわせて、認知症対策やリハビリテーションの重要性も高まっています。
こうした状況を踏まえ、これまでの「国民の自主的な行動変容を支援する」取組から一歩踏み込み、行政や保険者による能動的な介入を強化する方針が示されました。
栄養・食生活、がん・循環器病、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケアの6領域が重点領域として位置づけられています。
企業の健康経営や産業保健の実務にも関わる内容が多く含まれているため、今回は特に押さえておきたいポイントを3つに整理してご紹介します。

健康保持増進指針の改正:「2次予防」と歯科保健がカギに

本政策パッケージでもっとも大きな変化は、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の改正です。
これまで指針の中心は生活習慣病予防などの1次予防でしたが、今回の改正案では、がん検診などによる早期発見・早期治療、いわゆる2次予防が明確に位置づけられます。

対象となる疾病には、がんのほか、女性特有の健康課題(月経不順、月経困難症、過多月経、月経前症候群、更年期障害など)、歯科疾患、骨粗しょう症、眼科疾患が含まれる見込みです。
あわせて、健康経営など労働生産性向上の観点も指針の中に明確に位置づけられるほか、就業形態にかかわらずすべての労働者が対象であることや、治療と仕事の両立支援についても明記される方向です。

このうち、企業にとって特に見過ごせないのが歯科保健です。
厚生労働省が2025年6月に公表した「令和6年歯科疾患実態調査」によると、過去1年間に歯科検診を受診していない人は約4割にのぼります。
学校歯科健診の対象から外れる20歳以降で受診率が下がり、特に20歳から60歳の就労世代で低くなっている点が課題として挙げられています。
これを受け、2027年度からは、自治体・医療保険者の双方で、簡易検査ツールを活用した「簡易歯科健診」が制度として位置づけられる予定です。

2026年度にはまずパイロット事業として、コストや時間の負担を抑えた簡易な口腔スクリーニングを組み込んだ歯科健診が試行されます。
さらに、予防の取組実績に応じて医療保険者の負担金を加算・減算する制度に、2027年度から簡易歯科健診が追加される予定です。
歯周病は糖尿病など全身の健康とも関わりが深いとされており、口腔の健康を軸にした職域施策の重要性は今後さらに高まると考えられます。

がん・循環器病:職場健診とコラボヘルスの強化

厚生労働省が2023年7月に発表した「国民生活基礎調査(令和4年)」によると、がん検診の受診率は43~53%にとどまっており、第4期がん対策推進基本計画で掲げられている目標(受診率60%、精密検査受診率90%)には届いていません。

さらに、詳細な分析からは、大企業従事者、中企業従事者、小企業従事者、パート勤務者、その他の就業者、無職の順に受診率が高い傾向があることや、乳がん・子宮頸がん以外のがん種では女性の受診率が男性より低い傾向があることも明らかになっています。
こうした状況を踏まえ、本政策パッケージでは、職場におけるがん検診の受診勧奨や、検診結果に基づく医療機関への受診勧奨を強化する方向で、大臣指針の改正が予定されています。
あわせて、事業主と保険者が連携して予防・健康づくりに取り組む「コラボヘルス」の推進も重視されています。
循環器病についても、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)などの危険因子が基準を満たす人が、適切に医療機関を受診できるよう、職場健診の機会を活用した受診勧奨リーフレットの開発が進められる見込みです。

 

女性の健康課題:職場健診の問診票が変わる

性差に由来するヘルスケアの分野では、職場健診の標準的な問診票に、女性特有の健康課題に関する質問がすでに追加されています。
今後は、事業者や健診実施機関に対してこの問診の実施を働きかけるとともに、その結果を受けた職場環境の整備についても周知・支援が行われる予定です。

厚生労働省が2022年7月に公表した「『更年期症状・障害に関する意識調査』基本集計結果」によると、更年期症状を自覚してから3か月以内に医療機関を受診した人の割合は、40歳代・50歳代の女性で約1割にとどまっています。
こうした状況を受け、今後は、更年期世代の女性の健康課題に対応できる医療機関を検索できる仕組みの整備も進められる予定で、企業の産業保健スタッフが従業員に案内する際の情報源としても活用が期待されます。
あわせて、心身の不調を記録し円滑な受診につなげるためのツールの開発も進められる方針です。


「U.E.N.O.Plan」は、多くの施策が2026年度から2027年度にかけて順次動き出す見込みです。
特に歯科保健や2次予防に関する指針改正の動向は、企業の健康経営の取組にも直結する内容ですので、今後の詳細な制度設計についても注視していきたいところです。

<参考>
・厚生労働省「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」
・厚生労働省「令和6年歯科疾患実態調査」
・厚生労働省「国民生活基礎調査(令和4年)」
・厚生労働省「がん対策推進基本計画」
・厚生労働省「『更年期症状・障害に関する意識調査』基本集計結果」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

この著者の最新の記事

関連記事

解説動画つき記事

  1. 【動画あり】2022年6月施行「改正公益通報者保護法」を専門家がわかりやすく解説!退職者や役員も保護対象になる⁉

一目置かれる健康知識

ページ上部へ戻る