「三日坊主」で終わる理由は意志の弱さじゃない|行動変容ステージで学ぶ習慣化のコツ

「痩せて健康診断の数値を改善しよう」

そう決意しても、三日坊主で終わってしまった経験はありませんか。

産業保健の現場で保健指導を行っていると、「わかってはいるけど、なかなか取り組めない」という声を本当によく耳にします。
多くの方は、続かない自分を「意志が弱いから」と責めがちですが、実際にはアプローチの仕方が今の自分の状態に合っていないだけ、ということもあります。

人が新しい行動を身につけるまでには、いくつかの「心の準備段階」があることが、健康行動科学の研究でわかっています。
その方がどの段階にいるかを知り、段階に合った関わり方をするだけで、驚くほどスムーズに行動が変わっていくことも少なくありません。
今回は、保健指導でも活用されている「行動変容ステージモデル」を使って、習慣化のコツをわかりやすくお伝えします。

まずは自分のステージを知ることから~行動変容ステージとは~

行動変容ステージモデルは、心理学者が提唱した理論で、人が行動を変えるプロセスを次の5段階に分類しています。

  1. 無関心期:行動を変えるつもりがない段階(6か月以内に始める気がない)
  2. 関心期:行動を変えたいと思っているが、まだ始めていない段階(6か月以内に始めようと考えている)
  3. 準備期:近いうちに始めようと具体的に考えている段階(1か月以内に始めようとしている)
  4. 実行期:行動を変えて6か月未満の段階
  5. 維持期:行動を変えて6か月以上続いている段階

このモデルのポイントは、進んだり戻ったりしながら段階を進んでいくという点です。
「また元に戻ってしまった」と落ち込む必要はなく、それも変化のプロセスの一部だと理解しておくことが大切です。
まずは、習慣化したい行動について、自分が今どの段階にいるのかを客観的に眺めてみましょう。

ステージ別の習慣化に向けた取り組み方

理論だけではイメージが湧きにくいものです。
ここでは、妻と小学生の子どもと暮らす42歳の会社員、田中さん(仮名)が「運動不足の解消」に取り組んでいく様子を、ステージごとにストーリーで追いながら、行動変容を後押しする「変化のプロセス」もあわせてご紹介します。

1. 無関心期

テレビ番組で知った運動不足のリスク

田中さんは、健康診断で「要経過観察」の判定を受けても「まだ若いし大丈夫だろう」とあまり気にしていませんでした。
ところがある日のテレビ番組で、運動不足が生活習慣病のリスクを高めるという内容を耳にします。

「知らなかった、意外とまずいのかも」

これが意識の高揚(気づき)です。
今まで見えていなかった情報や知識に触れることで、問題への気づきが芽生えます。

同僚の再検査にヒヤッとした瞬間

さらに追い打ちをかけるように、同期入社で自分と似た体型だった同僚が、階段を上っただけで息切れし、後日の健康診断で再検査になったという話を耳にしました。
「あいつと自分、そんなに変わらないのに」と、他人事だと思っていたことが急に自分の身に迫ってきて、田中さんは少しヒヤッとします。
この感情の揺さぶりが感情的経験です。
理屈だけでなく感情が動くことで、変化への重い腰が上がりやすくなります。

公園で気づいた、家族への影響

そんな折、休日に子どもたちと公園でボール遊びをしたとき、少し走っただけで息が上がり、子どもに「パパ、遅い」と笑われてしまいました。
田中さんは、自分の体力の衰えが、単に自分だけの問題ではなく、子どもと思い切り遊べるかどうかや、将来家族に心配や負担をかけてしまうかどうかにもつながっていることに気づきます。

「自分の不摂生は、自分だけの問題じゃないんだな」

これが環境の再評価(影響)です。
自分の行動が周囲の大切な人にどう影響するかを見つめ直すことで、変わる意味を実感できるようになります。

2. 関心期

鏡の前で見つめ直した、理想と現実のギャップ

意識が変わり始めた田中さんは、「このままではまずい」と思いつつも、「仕事も忙しいし、今さら運動なんて」という気持ちも残っていました。
そこである晩、お風呂上がりに鏡に映る自分の姿を見つめながら、「学生時代、部活で体を動かしていた頃の自分」と「今の、階段で息切れする自分」を比べてみました。

「本当はもっと身軽に動ける自分でいたい。子どもとも全力で遊べる父親でいたい」

理想の自分と今の自分とのギャップに向き合い、自分にとって本当に大切な生き方や価値観を見つめ直したのです。
これが自己の再評価です。
この作業を通じて、田中さんの中で「変わりたい」という気持ちが少しずつ強くなっていきました。

3. 準備期

家族の前での宣言

「変わりたい」という気持ちが固まってきた田中さんは、ある週末の夕食の席で、妻と子どもたちに向かって「来週から、帰りに一駅分歩いてみようと思う」と宣言しました。
誰かに言ってしまった手前、後に引けないという気持ちもありますが、それ以上に「自分ならできるはずだ」という前向きな決意が芽生えていました。
このように、自分自身の意志と選択によって「変わる」と決め、周囲に表明することを自己の解放(宣言)と呼びます。
人から言われて仕方なく始めるのではなく、「自分で決めた」という感覚を持てることが、その後の行動を大きく後押しします。

4. 実行期・維持期

「楽をする行動」を「体を動かす行動」に置き換える

宣言通り、田中さんは翌週から一駅手前で降りて歩き始めました。最初のうちは「面倒だな」と感じる日もありましたが、エレベーターではなく階段を使う、飲み物は自販機ではなく少し遠いコンビニまで歩いて買いに行くなど、これまでの「楽をする行動」を「体を動かす行動」に少しずつ置き換えていきました。
これが行動置換です。
「やめる」のではなく「置き換える」と考えることで、無理なく継続しやすくなります。

家族や同僚の協力を得る

また、田中さんは家族にも協力を仰ぎました。
妻には「歩いてきたよ」と報告し、子どもたちには週末に一緒に散歩へ行こうと誘うことで、家族ぐるみで応援してもらえる関係を作りました。
同僚にも「最近歩くようにしてるんだ」と話したところ、思いのほか好意的な反応があり、ときには一緒に歩いて帰る仲間もできました。
こうした周囲の理解や支えを積極的に得ることを援助関係といいます。
一人で頑張るよりも、応援してくれる人がいる方が、続ける力は何倍にもなります。

自分へのご褒美でやる気を保つ

継続のために、田中さんはスマホの歩数アプリで記録をつけ、目標を達成した週には、少し良い珈琲豆を買うというご褒美を自分に用意しました。
子どもたちからも「パパ、今週も頑張ったね」と声をかけてもらえるのが、地味に嬉しい励みになっています。
このように、続けられたことに対して自分や周囲からポジティブな報酬を用意する工夫を強化マネジメントといいます。

誘惑を避ける仕組みをつくる

一方で、飲み会が続く週や、疲れて帰りが遅くなる日には、つい歩くのをサボりたくなることもありました。
そこで田中さんは、「歩く日を火曜と木曜に固定し、その日はスニーカーを鞄に入れて出社する」、「歩かない誘惑になりやすい駅前の椅子には座らずまっすぐ改札へ向かう」など、環境を先回りして整えるようにしました。
このように、行動のきっかけとなる環境や合図を意図的にコントロールすることを刺激の統制といいます。
誘惑や妨げになる場面をあらかじめ避ける仕組みを作ることで、意志の力に頼りすぎずに済むようになります。

半年が経った今も、田中さんの「歩く習慣」は続いています。
繁忙期には歩けない日もありますが、「ゼロか百か」ではなく「今週は2回歩けた」という視点で自分を評価できるようになったことも、大きな変化のひとつです。

次のステージに進むときのよくある障壁と乗り越え方

段階が進む過程では、いくつかの「つまずきポイント」があります。

無関心期から関心期への壁

そもそも自分ごととして捉えられず、他人事のように感じてしまうことが多く見られます。
周囲の体験談など、身近な情報に触れる機会を意識的に増やすことで、少しずつ「自分にも関係がある」という実感が湧いてきます。

関心期から準備期への壁

「完璧な計画」を求めすぎて、なかなか一歩を踏み出せないケースが多く見られます。
完璧を目指さず、まずは小さく始めることを意識しましょう。「60点で合格」くらいの気持ちが、行動への第一歩を後押しします。

準備期から実行期への壁

張り切りすぎて高すぎる目標を立て、早々に挫折してしまうことがあります。
最初は「今の生活に無理なく組み込める」レベルまでハードルを下げることが継続のコツです。

実行期から維持期への壁

「もう大丈夫」と気を緩めた瞬間に、元の生活に戻ってしまうことがよくあります。
習慣化には一般的に数か月単位の時間がかかると言われているため、焦らず、6か月以上は意識的に継続する姿勢を持ちましょう。


逆戻りしてしまうことは、誰にでも起こりうることです。
大切なのは「なぜ戻ったのか」を責めるのではなく振り返り、次に活かすことです。
進んだり戻ったりしながらでも、長い目で見れば着実に前進していると捉えてみてください。

自分の行動変容ステージを知ることは、自分に合った作戦を立てるための第一歩です。
同じ悩みでも、必要な一手はステージによってまったく異なります。
「続かない自分」を責めるのではなく、「今、自分はどの段階にいるか」を見つめ直すことで、習慣化はきっとうまくいきます。
今日からできる小さな一歩を、ぜひ自分のペースで踏み出してみてください。

<参考>
・ Prochaska JO、Velicer WF「The Transtheoretical Model of Health Behavior Change」(『American Journal of Health Promotion』1997; 12(1): 38-48)
・ 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット~「行動変容ステージモデル」
・ 厚生労働省 健康・生活衛生局「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」
・ 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 健康支援プロジェクト研究「行動理論を特定保健指導に」

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前川 アイ株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

地域で潜在的に困っている方の助けになりたいという想いから保健師を志し、大学で看護師資格を取得後、大学院にて保健師資格を取得しました。学びを深めるなかで、人生で最も長い働く世代の健康を考えられる産業保健に興味を持ち、ドクタートラストに入社いたしました。
健康に関する発信をしていくことで、一人でも多くの方が生きがいを持って笑顔で働けるお手伝いをさせていただければと思っております。
【保有資格】修士(公衆衛生看護学)、保健師、看護師
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