一度悪くなるともとに戻らない?身体のろ過装置「腎臓」のことを知ろう

皆さん、「肝心(腎)要」という言葉があるのをご存じかと思います。
この言葉の語源となっているのは、肝臓・心臓・腎臓です。
もちろん他の臓器にも大切な役割がありますが、特に人体にとって重要な部位であることから、「非常に大切なこと」を意味します。

以前、私が執筆した記事では、肝臓が500種類以上の重要な役割を担っているとお伝えしました。

今回はもう一つの重要な臓器、腎臓についてです。
腎臓は特定保健指導でもスポットがあまり当たらず、意外と影が薄いように私は感じています。
しかし、腎機能の低下は生命の危機に直結します。
また、症状が出てからの対処では手遅れになることも少なくありません。

この機会にぜひ知ってほしい、私たちの生命維持装置である腎臓について詳しく解説します。

腎臓の働きって?

腎臓は、そら豆のような形をした握りこぶしくらいの大きさの臓器で、背中側の腰より上あたり、左右対称の位置に2つあります。
主な腎臓の働きとしては以下のものがあります。

● 老廃物を除去し、尿をつくる

腎臓はネフロンと呼ばれる毛細血管の特殊な構造が100万個集まってできています。
そのネフロンが血液をろ過し、体内の老廃物や余分な塩分などが含まれた尿を生成します。
血液ろ過量は1日150リットルと言われており、そこから最終的に1日1.5リットル程度が尿として排出されています。

● 体内環境のバランスを保つ

身体の水分量とナトリウム、カリウムなどのイオンバランスを調整しています。
腎臓は、必要なものを取り込み不要なものを排泄する作用をもち、血液を弱アルカリ性に保っています。

● 血圧を調整する

塩分と水分排泄量をコントロールして血圧を調整します。
血圧が高い場合は塩分や水分の排泄量を増やして血圧を下げ、低い場合は排泄量を減少させて血圧を上げます。
また、腎臓のろ過機能を保つには血液の流れが一定である必要があるため、流れが悪くなると血圧を維持するホルモンを分泌させます。

腎臓と血圧は非常に密接に関係しています。
腎機能低下は高血圧を招く可能性があり、また高血圧は腎臓に負担をかけて腎機能低下を引き起こします。

● 血液をつくる

骨髄の造血幹細胞に働きかけるホルモンを分泌し、赤血球の数を調整します。
腎機能が低下するとこのホルモンの分泌量も低下するため、貧血になります。

● ビタミンDの活性化

ビタミンDは肝臓で蓄積され、腎臓に移動すると活性型ビタミンDとなりさまざまな働きをします。
活性型ビタミンDはカルシウムを体内に吸収させる働きをもっているので、丈夫な骨作りのために非常に重要です。
腎機能が低下すると活性型ビタミンDが減るため、カルシウムの吸収が悪化し、骨粗しょう症の原因になります。

進行するともとに戻らない……腎臓病について

腎臓病と呼ばれるものにはいくつか種類がありますが、ここでは生活習慣と関係が深い慢性腎臓病(CKD)について説明します。
慢性的に腎機能が低下するさまざまな腎臓病をまとめてCKDと呼びます。
日本での患者数は1,330万人と推測されており、成人の8人に1人はCKD患者と言われている新たな国民病です。

食生活の乱れや運動不足、喫煙などにより、糖尿病や脂質異常症、高尿酸血症、心疾患・脳血管疾患などの生活習慣病を引き起こす可能性が高まります。
これらはCKDに関わっていると言われており、特に糖尿病と高血圧は腎機能低下に直結する代表的な病です。
CKDの初期ではほぼ症状がありませんが、腎機能が低下し病状が進行すると、下記の症状が出現します。

・ 夜間尿
・ 倦怠感
・ 身体がむくむ
・ 貧血になる
・ 血圧上昇
・ 息切れ など

上記の症状を自覚している場合は、思った以上に病気が進行している可能性が高いです。
こうした症状を放置するとどんどん病気が悪化し、老廃物を尿として体外に出すことができず体内に溜めてしまうため、透析療法や腎臓移植を行わなければ生きていけなくなる可能性もあります。
実際の面談や指導のなかで、健診結果で所見が出始めているにもかかわらず「元気だから大丈夫」「特に症状もないし困っていない」というフレーズをよく聞きますが、特に腎臓に関しては取り返しがつかなくなることも少なくありません。

腎臓を守ろう!

自分の腎機能がどれくらいかご存じでしょうか?
私たちが年に1度受けている健康診断の採血(血清クレアチニン値、eGFR)と尿検査(尿白、潜血)で腎機能がわかります。
確定診断は病院を受診しなければなりませんが、健診結果で腎機能を経時的にみることは可能なので、ぜひ着目してみましょう。

腎臓は早期発見・治療がとても重要です。
健診結果で再検査や要精密検査、要治療の判定になっている場合は、速やかに受診しましょう。

● 生活習慣改善に取り組む

②で記載したとおり、食生活の乱れや運動不足、喫煙などがある方は改善する必要があります。
食事については、塩分のとりすぎに注意しましょう。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人1日あたり塩分摂取は男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満と設定されています。
しかし、厚生労働省「国民健康・栄養調査(2018年)」の調査では、1日あたり男性11グラム、女性9.3グラムの塩分を摂取しており、男女ともに1日の基準を超えていると言われています。

また、高血圧やCKDの重症化予防のための塩分量は、男女とも1日あたり6グラム未満と提言されていて非常に厳しい基準です。
塩分摂取量を厳格に管理するのは難しいですが、「追加の調味料を使う頻度を減らす」「ラーメンの汁は飲まない」などできることから取り組みましょう。

どんな病気の予防にも「バランスの良い適量の食事」がカギですが、CKDが進行している場合は、病院を受診し適切な食事指導を受ける必要があります。

● 透析治療を回避、遅らせることが期待できる薬について

少し前にNHKの「きょうの健康」という番組を何気なく見ていると、CKDの治療で新たに認可された薬があると紹介されていました。
2021年9月に慢性腎臓病の薬として健康保険適用となった薬(SGLT2阻害薬)です。
この薬は、もともと糖尿病治療薬として使用されていたので新薬ではありません。
SGLT2阻害薬は慢性腎不全患者に対する治験にて「心不全などの合併症の発症を平均して3、4割下げた」「糖尿病の有無に関わらず腎臓を保護する働きがある」などの効果が示されました。

しかし、すでに透析治療中の方には使えないため、早期から使い始めることが重要だそうです。
完全に進行を止めることはできませんが、透析治療を回避できる、または開始時期を遅らせる効果が期待できると言われているので、私自身も画期的だと感じました。
注意点として、「どんな方でも飲める、合う」というわけではないことです。
また、薬には必ず副作用があるので、主治医との相談が必要です。

もちろん薬を飲む前に自分自身の生活習慣を振り返って対処することが最も重要ですが、治療が必要な状態にならないように、できる限り早い段階から生活習慣をコントロールしましょう。

<参考>
・ 厚生労働省「国民健康・栄養調査(2018年)」
・ 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

保健師 大島かよ

投稿者プロフィール

病棟・クリニックでの患者さんとの関わりの中で、「もっと早く治療開始できていれば」、「病気になる前に何かできないか?」と考えるように。その思いから次第に予防に興味を持ち、「働く世代」に対するアプローチがしたい!と、産業保健の世界へ飛び込みました。
現在産業保健師として数社訪問、健保で特定保健指導を担うフリーランスの保健師です。
自分の経験なども盛り込みながら、産業保健に関連する情報を発信していきます。
【取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

この著者の最新の記事

関連記事

解説動画つき記事

  1. 【動画あり】休職者、在宅勤務者をサポート「アンリケアサービス」~その魅力と導入の流れ~

一目置かれる健康知識

ページ上部へ戻る