みなさんは「天気痛」という言葉をご存じでしょうか?
天気痛は「気象病」「気象関連痛」とも呼ばれ、天気や季節などの気象変化の影響を受けて悪化する痛みのことです。
気象変化の影響を受けやすい慢性痛には、偏頭痛、緊張型頭痛、肩こり、腰痛症、関節リウマチなどがあり、米国の人気歌手であるレディ・ガガさんが活動休止に至った原因の線維筋痛症もそのひとつです。
ある調査では、回答者の約6割が天気痛の自覚症状があり、そのうち5人に1人は生活に支障が生じるほどの痛みを感じている事実が明らかになっています。
そこで今回は、梅雨シーズンを迎え天気痛に苦しんでいる方々へ向けて、そのメカニズムと痛みの改善方法についてご説明いたします。
メカニズムはいまだ不明
多くの方が苦しんでいる天気痛ですが、実はその病態メカニズムは明らかになっていません。
しかし、長年の様々な研究で、気圧の変化を検出する「気圧センサー」が内耳に存在し、天気痛に影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
また、原因のひとつとして示唆されているのが、不安や恐怖、痛みからくる「痛みの悪循環」です。
運動器の慢性疼痛は、気象変化により筋肉や関節に痛みを生じます。
このときの「動かすと痛い」という不安や恐怖、痛みを伴った体験が、不必要な安静や抑うつ状態をもたらします。
結果的に血行不良を招き痛みが悪化、より不安や恐怖が強化されるという悪循環に陥ってしまうのです。
まずは自分の「くせ」を知ろう
メカニズムが定かでない天気痛による痛みの悪循環を断ち切るためには、痛みが生じやすい状況やタイミングなどの「くせ」を把握して、痛みへの不安や恐怖の解消につなげていくことが大切です。
自分の痛みのくせを知るには、「痛み日記」が有効です。
毎日の体調の変化や天気や気象要素(気圧・温度・湿度)の変化などを同時に記録することで、体調の変化や痛みがどのような気象変化のタイミングで生じるのか、あるいは改善するのかを知ることができます。
痛み日記には以下の項目を記載しましょう。
・天気
・気象要素(気圧・温度・湿度)
・体調の変化
・痛みの強さ
・運動
・睡眠
自分の痛みのくせを知ることが、その後の対策につながります。
痛み対策には天気情報を活用して早めの対策・耳マッサージ・運動
天気痛を防止する3つの対策方法をご紹介します。
【天気情報を活用してはやめの対策】
現在は多くの天気情報アプリがあり、さまざまな気象要素の予報データが提供されています。
痛み日記と天気情報アプリを活用し、体調の変化を事前に予想することで、薬を服用するタイミングなどを調整して痛みの予防が可能です。
また、痛みの発生タイミングを予測できるので、「痛みを自分でコントロールできている」という安心感も得られます。
【耳マッサージ】
「気圧センサー」があると考えられている内耳周辺の血流が悪いと、リンパ液も一緒に滞り、めまいや頭痛などの症状を引き起こしてしまいます。
耳の周りの血流を良くするためには、耳マッサージがおすすめです。
≪耳マッサージ≫
1. 耳を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつ引っ張る
2. そのまま軽く引っ張りながら、後ろに向かってゆっくり5回まわす
3. 耳を包むように折り曲げ5秒間キープする
4. 耳全体を掌で覆って、ゆっくり円を描くように後ろに向かって5回まわす
【運動】
運動は血流を良くして、活動制限による「痛みの悪循環」への改善アプローチにつながります。
関節を動かしたり筋肉を伸ばしたりすると、関節は柔軟になり筋肉もほぐれて血流が改善、筋肉への栄養素や酸素などの供給が向上し老廃物が減少します。
すると、老廃物による神経への刺激も減り、発痛物質が作られにくくなり、痛みが緩和するのです。
これまでの研究で、自主的な運動を自分に適した運動強度で行うことが痛みの抑制に有効と考えられています。痛みがない部位、痛みが出ない程度の運動から始めることが重要です。
毎日の暮らしの中で気象の変化は避けられないものです。
気象変化のたびに痛みを感じながら仕事をするのは、つらいだけでなく生産性も下がってしまいます。
いきいきとお仕事に励むためにも、ご自身オリジナルの予防法や対策法を獲得して梅雨シーズンを乗り切りましょう。
≪参考≫
・佐藤純、他「気象関連痛(天気痛)の疫学,臨床的特徴と発症予測情報サービス」(「PAIN RESEARCH」36巻(2021)2号)
・佐藤純「気象関連性疼痛のメカニズム」(「PAIN RESEARCH」34巻(2019)4号)
・櫻井博紀、他「気象関連性疼痛を訴える慢性疼痛患者の特徴と運動療法」(「PAIN RESEARCH」34巻(2019)4号)