地方公務員のメンタルヘルス対策の現状 ~この機会に一般企業も対策の見直しを~
- 2022/5/16
- メンタルヘルス
「産業保健新聞」をご覧の皆さまの企業のメンタルヘルス対策はいかがでしょうか?
ここ数年、ニュースなどで「過労による自殺」「パワーハラスメントによるメンタル不調」が報道されるようになり、日本の「働き方」の問題点が浮き彫りになってきました。
また、「働き方改革」に関連する法改正もあり、各企業はここ数年でさまざまな対策を講じてきたことと思います。
そんな中、総務省は一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会と連携し「総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会」を開催し、地方公務員のメンタルヘルスに関して調査・研究を行い、その調査結果が、令和4年3月29日に「令和3年度総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会報告書(以下、本報告書)」として総務省から発表されました。
今回は、その調査結果の内容について簡潔にまとめます。
一般企業とも共通する部分もあるかと思いますので、地方公務員ではない方もぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
メンタルヘルス不調で休職する地方公務員が増えている
一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会の「地方公務員健康状況等の現状 調査結果」によると、メンタルヘルス不調で1か月以上休職する人はどんどん増加しています。
下記グラフのように、他の身体的疾患での休職者がほぼ変化なしであることとくらべると、増加率が高いことがわかりますね。
地方公務員に関わらず、ここ数年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でメンタルヘルス不調、特にうつが増えているという調査結果もあります。
この調査結果に関しては、下記記事をご覧ください。
逆に、テレワークを導入し、それが働き方として環境・状況に合う方もいて、メンタルヘルス不調が減ったという企業もありますが、地方公務員に関してはテレワークの導入もなかなか難しいと考えられます。
新型コロナウイルス拡大の悪い影響だけを受けてしまっている……といった状況なのだと推察します。
また、休職者が増える要因としては、主に以下が挙げられています。
・ 業務が複雑化している傾向にあるため
・ 若手社員の休職者が増えたため
・ 職場内で気軽に相談しづらい環境になったため
・ 適切なメンタルヘルス対策ができていないため
あくまで筆者の想像ですが、新型コロナウイルスの影響で密は避けないといけない、だけど各種コロナへの対応で仕事は増える一方……1人あたりの業務が増加かつ複雑化して、皆自分の仕事で精いっぱい…といった状況でしょうか。
対策・取り組みの方向性
本報告書では、これからメンタルヘルス対策をするにあたっての方向性が5つ明記されています。
1. トップのリーダーシップ
トップがしっかりと「メンタルヘルス対策は重要課題なのでしっかり取り組んでいく」と認識することが必要だという方針です。
メンタルヘルス対策はどうしても一般の労働者だけではできることが限られてくるため、地方公務員だけではなく一般企業労働者にも当てはまるでしょう。
2. メンタルヘルス対策における段階に応じた4つのケアと連携
4つのケアとは、以下を指します。
① 各職員が取り組む「セルフケア」
② 管理職が取り組む「ラインケア」
③ 職場の産業医や保健スタッフが取り組む「職場内の保健スタッフ等によるケア」
④ 職場外の専門医等による「職場外資源等によるケア」
それぞれがきちんと機能し、なおかつ相互に連携して取り組むことが重要と記されています。
3. ハラスメントの防止
地方公務員に限らず、職場の対人関係からメンタルヘルス不調を発症するケースはあるのですが、上記で少し紹介した休職が増える要因には「ハラスメントが増えたため」というのもあります。
メンタルヘルス不調を防ぐだけではなく、そもそもの職場環境の改善のためにも、改正労働施策総合推進法などに基づき、パワハラ・セクハラ・マタハラなどの防止措置を講じる必要があるでしょう。
改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)については下記記事もご覧ください。
4. 働き方改革との連動
地方公務員の働き方改革は進んでいるとはあまり言えません。
今のメンタルヘルス不調者は増える一方、組織の活力が低下したままの状況では良い人材の採用にも影響がでてしまいます。
そのため以下の4つを主に、これまでの働き方をゼロベースで見直すことを積極的に進める必要があると明記されました。
① 時間外労働の縮減
② テレワークの活用
③ 年次有給休暇の取得促進
④ 多様な早出・遅出勤務等の活用
5. 関係部局間の連携による総合的な対策
メンタルヘルス不調を予防するためにも以下が方針として記されています。
・ 業務・組織の見直し
・ 異動直後の職員への配慮
ここで重要なのは「すべての職員を対象にメンタルヘルス対策を講じること」でしょう。
地方公務員と一口で言っても、雇用形態や任期の有無などさまざまな方がいますが、メンタルヘルス不調は雇用形態に関わらず誰にでも起こりうるものです。
また、今メンタルヘルス不調者がいないからと言って、今後も発生しないとは限りません。
地方公共団体全体でメンタルヘルス対策に取り組むことが重要だとされています。
メンタルヘルス不調を予防・早期発見するためには
これは地方公共団体にも、一般企業にも言えることですが、メンタルヘルス不調者を発生させないためには、予防と早期発見、正しい対応が大切です。
どうすれば予防・早期発見できるのか、再確認しましょう
1. 相談しやすい雰囲気と周囲の配慮
前述の休職者が増える要因として「職場内で気軽に相談しづらい環境になったため」というのがありました。
「上司が忙しそうで相談したいけど話しかけづらい」
「調子が悪いといったら何か不利益なことになりそう」
不調を抱えたまま我慢していては、いつかメンタルヘルス不調になります。
まずは、相談をしても不調者にあらゆる面で不利益はないことをしっかり周知するとともに、相談しやすい雰囲気を作るように心がけましょう。
話しやすい雰囲気の醸成には「雑談」が有効です。ぜひこちらの記事も参考にご覧ください。
2. 相談機会の確保
もし自分が何か相談したいとなったとき、相談方法の選択肢はいくつありますか?
たとえば社内の相談窓口として「人事課の●●さん」がいたとしますが、相談の内容や状況によっては、その人に相談しづらい場合がありますよね。
仮にその人しか相談窓口がなかった場合、もう相談するところがありません。
このような状況にしないためにも、多様な相談体制を構築することが必要になってきます。
たとえば以下が考えられます。
・ 管理職と定期的に面談をする(相談の機会を増やす)
・ 産業医など実務では関わらない人との面談の機会をつくる
・ 上司や会社の人に相談しにくい場合のために外部の窓口を設置する
また、上記で紹介した1、2のほかにも、以下なども有効であると記されています。
・ 管理職の役割強化
・ メンタルヘルス不調の原因に応じた対応
・ 研修機会の確保
本調査では主に地方公務員に関しての発表でしたが、一般企業で働く人の状況にも共通する部分があります。
今回の発表は「もうとっくに対策しているよ」という一般企業が基本に立ち返るいい機会だと思っています。
メンタルヘルス不調への対策は万全ですか?
新型コロナウイルス感染拡大前と同じ対策をずっと続けていませんか?
社会情勢や会社の状況によって、随時対策は見直していく必要があるでしょう。
<参考>
・ 総務省「令和3年度総合的なメンタルヘルス対策に関する研究会報告書」
・ 総務省「地公公務員のメンタルヘルス対策の現状 ー令和2年度メンタルヘルス対策に係るアンケート調査の概要ー」
・ 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会「地方公務員健康状況等の現状 調査結果」