ブラック企業で働いてしまうワケ~学習してしまう無力感~

みなさんこんにちは、精神保健福祉士の笹井です。
夏も真っ盛り、熱中症などでバテテいませんか?
外に出たくない、ズル休みでもしてやろうかしら……でも、休むと仕事が溜まっちゃうし……なんて思う今日この頃。
そんななか、一生懸命働かれている方にお送りする産業保健新聞。

今日のお題は「ブラック企業で働いてしまうワケ~学習してしまう無力感~」です。

日本は少子高齢化社会に起因する人口減少を迎え、将来的に労働力不足となります。
女性や高齢者、障碍者などを含め、さまざまな人がさまざまなライフスタイルに合わせて労働ができるようにと政府も働き方改革を叫んでいます。

働きやすい会社を目指すことで、生産性が上がり収益が出る、そんな夢が叶えられたら……。
しかし、労働者にとっての100点満点の企業はそんなにないでしょう。
社会には依然として至らぬ所満載の「ブラック企業」と呼ばれる会社があります。
過労死や労災事故のニュースを見て「そんな過酷な労働条件で働かなくてもいいのに……」なんて思ったことはありませんか?
「もっといい会社で働けばいいのに」「そこまで過酷なら辞めればよかったのに」そんな疑問が湧いてきますね。

さて、なぜ「うちの会社ブラックだよな」と言いながら人は働いてしまうのでしょうか?
今日はその「なぜ?」を心理学の観点から解説していきたいと思います。

人は自分の立場や地位を「中流」と認識する

平成26年国民生活基礎調査によると「日本の世帯平均所得金額は約530万円だが、全世帯の約60%がその平均を下回っている」との結果が出ました。
ここで着目したいのは、その調査で自分の収入は「中の中だ」「中の上だ」「中の下だ」と答えた人が約90%を超えていたことです。

これは、心理的に自尊心を保つため「自分は中だ!」と回答したと推測されます。
人間の心理は安定が保てなくなったり、欲望が果たせなかったりした時に、認識をゆがめて「自分は安全だ。自分は大丈夫だ」と思い込んでしまうことが多々あるのです。
たとえば、イソップ童話で有名な「酸っぱい葡萄」。
人は「手に入らなかったあのブドウは酸っぱいに違いない」と思い込でしまいます。

身近な人に、ニコチン依存によって、有害なタバコを摂取しても「吸わないとイライラして逆に不健康だ」なんて台詞を吐いてしまう人が居ませんか?
自分の行動が正当であると認識したいから認知を歪めているのです。

知らず知らずの内に人は「無力感」を学習している

メディアで取り上げられる「ブラック企業」は過酷な労働環境を強いています。
過酷な状況からなぜ労働者は逃れられなくなるのでしょう?
心理学者のセリグマンが提唱した概念なのですが「学習性無力感」という用語があります。
長期にわたりストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなる現象をいいます。
誘拐拉致された人が長期にわたり監禁されると、逃げられる環境になっても逃げないのはこのためだといわれています。

この現象の(着目すべき)怖いところは、他の第三者がストレスから回避できない状況になっているのを見ても、無力感を学習してしまうところです。
先輩や同僚が残業から帰れていない、そんな状況を見てしまうと、「自分も残業から帰れないのは当たり前なんだ、定時で帰ることを叫ぶなんて無意味だ」という認知となってしまうのです。
先述した自分への誤った評価と学習性無力感が手伝って「ブラック企業」から逃げられなくなるのです。

あなたの置かれている環境は本当に良い?

学習性無力感を打破する方法はなんでしょうか?

絶対的な値での認識

それは、まず第一に自分の境遇を絶対的な値で認識することです。
たとえば「休日の日数」や「定時で帰れる日数」などです。
平均的な数とくらべて、自分の値がどれくらい悪いのか、どれくらい良いのかを調べてみましょう。
ここでポイントなのは、相対的な値で自分の境遇を評価しないことです。
「あの人よりマシだから大丈夫」ではないのです。
見下げれば下には下が居るのが世間です。
それでは自分の境遇がいつでも「私は中だ」という認識しかできません。
自分が絶対的な値のなかでどんな境遇に置かれているか、きちんと認識をしてみましょう。
また、自分の置かれている境遇の良い点についても考慮しておくことが必要です。
残業は多いけれども、金銭的には不自由がないなどさまざまな利点欠点を考慮することが必要です。

達成できる目標を立てる

第二には、達成できる目標を立ててこなしていくことです。
「自分は何をしても叶えられない」状態から「自分が取り組むと変化がある」状態に変身していくことが必要なのです。
「残業はなくせなかったけれども、先月より30分早く帰れるようになった」「業務の種類を書き出して、業務量が多いことを上司に認識してもらった」など、小さい目標で構いません。
「自分が取り組むと変化がある」と認識すれば、自己効力感が高まり自尊心が育ってくるようになります。

さて、みなさんの企業は何色ですか?
ブルーカラーでもホワイトカラーでも、洗わなければ汚れてブラックになってしまいます。
心も体も健康に、明るく楽しく、自分を客観的に見て、働いていきましょう。

それではみなさん、さようなら。

<参考>
「平成26年国民生活基礎調査」(厚生労働省)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

笹井裕介産業保健部 看護師・精神保健福祉士

投稿者プロフィール

大学卒業後、精神保健福祉士として、精神科クリニックで心理相談、生活相談を担当。その後、看護師資格を取得し病院勤務となる。呼吸器内科・腎代謝科で従事し、ターミナル(終末期)や慢性期の患者さんと関わる。病院勤務を通して、予防医学に興味を持ち、株式会社ドクタートラストに入職。
現在は、電話相談窓口でのハラスメント・メンタル・健康相談対応、企業の人事担当者への提案やコンサルティングを行っている。
【保有資格】看護師、精神保健福祉士、公認心理師
【ドクタートラストのサービスへのお問い合わせはこちら】
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

この著者の最新の記事

関連記事

解説動画つき記事

  1. 【動画あり】2022年6月施行「改正公益通報者保護法」を専門家がわかりやすく解説!退職者や役員も保護対象になる⁉

一目置かれる健康知識

ページ上部へ戻る