大阪心療内科放火事件について、メンタルヘルスに関わる医療職として思うこと
- 2022/2/3
- メンタルヘルス
ニュース報道のあり方
2021年12月17日。大阪市の北新地にある雑居ビルに入っていた心療内科で放火事件が発生し、火災によりお亡くなりになった方が20数名にのぼりました。
被害にあわれた方には、謹んで、ご冥福をお祈りします。
概して、大きな事件や事故があった場合には、その中心人物の経歴や過去、属性などが取り沙汰され、なぜその事件が起こってしまったのか原因を論じられることが多いように思います。
人々の心の中にある「なぜこの事件が起きたのか」という興味や不安が、それを求めるからでしょう。
この事件の容疑者は、火災の際に負った障害によって亡くなってしまいましたので「なぜこの事件が起きたのか」真相の究明には至らないだろうと考えています。
それが故に、ニュースで世間の耳目を引いたのは、容疑者の詳細な情報です。
被害にあった心療内科の患者であったことや、以前家族と無理心中しようとして逮捕され、服役した経験があることなどが報道されました。
心療内科や精神科の患者、精神障害者……だから危険ではない
こういった事件があった際には、必ずといっていいほど容疑者と同じ属性(例、心療内科や精神科の患者、発達障害者、特殊性癖、マニアックな趣味など)がバッシングを受けることがあります。
もちろん事件があった後には、自分も被害にあうのではと不安に思う気持ちが出てくのは当然でしょう。
しかし、その不安に対抗するための理解が、あまりにも簡単にされすぎているので、それが問題であると私は感じています。
法務省の「令和2年版 犯罪白書」によると「令和元年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)による刑法犯は、検挙人員の内、1.0%であった」とあります。
つまり、99%の犯罪は、精神障害者等ではない人によって起こされているわけです。
また、内閣府「令和2年版 障害者白書」には「人口千人当たりの人数でみると、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は31人となる」とあります。
つまり、健常者と精神障害者の比率は、人口の3.1%程度であることがわかります。
精神障害者の人口比率より刑法犯比率が低いと考えると、健常者であることの方が、何らかの罪を犯すリスクがあるように考えれないでしょうか。
心療内科や精神科が本当に必要な方に届かなくなることが心配
人は印象で物事を判断しがちです。
メディアで流される情報は端的な情報のみであり、人の注目を集めるための情報に切り取られていることがほとんどです。
目にしたニュースでは「容疑者は心療内科通院者」と題したものもありました。
先述した、人口比率の話などなしにニュースを見れば、どのように人は感じるでしょうか。
心療内科や精神科は見えにくい病気を扱うため、偏見の目にさらされてきました。
現在でも、たとえ受診が必要になるような状況の不調者であったとしても、受診に拒否感を抱くことが少なくありません。
メンタルヘルスの相談対応をしていると「受診すると精神科の薬を飲んで人格的に荒廃してしまうのではないか、レッテルを貼られてしまい、健常者として生きていけないのではないか」など、さまざまな不安をお話になることがあります。
今回の事件に関しても、メンタルに悩みを抱える方だけでなく、その家族や友人、上司同僚などの方にまで影響が及び、心療内科や精神科への印象の悪化が起こりうるのではないか、受診すべき人が偏見によって受診できない・しないことが起こりえるのではないかと私は危惧します。
一人で悩むより、二人で悩もう、一緒に悩もう
コロナ禍における感染者数の増加や変異株の出現などの不安に伴って、有名人の自殺報道や通り魔、無差別殺傷事件の報道など、心を疲弊させるニュースが多くなっていると感じます。
人との接触が少なくなっている現状では、孤独を感じやすく、辛さのあるニュースばかり耳に入ってくるかもしれません。
もし自分が不調であると感じたら抱え込まずに相談をするようになさってください。周囲にいる頼れる方、家族や友人。親しい人に負担をかけたくない思いがあるのであれば、会社の相談窓口や公的な相談窓口をご利用になってください。
対処が難しくとも、誰かと一緒に悩むことで、今一人で悩むより良い方向へ物事を変化させることが可能です。また、誰かが悩んでいる際は一緒に悩んであげる、どこか専門家にお願いするなどしましょう。
それではみなさんお元気で。
みなさんの、お身体やお心が元気でありますように。
<参考>
・ 法務省「令和2年版 犯罪白書」
・ 内閣府「令和2年版 障害者白書」