ストレスの恐ろしい話……痴漢の原因は日常のありふれたストレスだった!
- 2018/11/19
- メンタルヘルス
痴漢とは「女性にモテない性欲の権化」か?
「痴漢」というと、みなさんはどんな人を想像するでしょうか?
見るからに女性と縁のなさそうな人や、性欲のモンスターのような変人を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、それは偏見であると、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)という本は教えてくれます。
著者は、日本で初めて痴漢の再犯防止プログラムを立ち上げた「大森榎本クリニック」の精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏。
12年間に900人の痴漢と接してきた著者によれば、彼らから受ける印象は、「どこにでもいる、ごく普通の男性」だそうです。
データとしては、プログラム受講者のうち、大卒がほぼ半数、会社員や公務員等の勤め人もほぼ半数、既婚者もほぼ半数だといい、「四大卒で会社勤めをしている、働き盛りの既婚男性」が痴漢の典型的なプロフィールといいます。
痴漢が痴漢をする本当の理由
彼らがなぜ痴漢をするようになったのか?
それは、彼らにとっては、痴漢行為が「ストレスへの対処法」だから、というのが著者の見解です。
仕事上のストレスや、人間関係のストレスなど、ストレスは誰にでもあります。
けれども、多くの人はその対処法を心得ています。
おいしいものを食べる、ひたすら眠る、親しい人に愚痴を言うなど、自分なりの対処法を何かしら持っているものです。
これらのストレスに対する対処法のことを、専門的には「コーピング」といいます。
痴漢行為をはたらく人たちの問題は、彼らが痴漢をコーピングとしてしまっていることなのです。
著者は、痴漢行為をした受講者から次のような本音を聞き出しています。
「日ごろから仕事に対して強いストレスを感じていて、会社の決算期など忙しさがピークに達する時期に決まって痴漢行為に及んでしまう」
「上司から叱責された日は決まって、帰りのターゲットを見つけて痴漢をする」
「家庭内ではよき夫でありよき父だが、妻のほうが立場が強いことにストレスを感じていて、通勤電車のなかで痴漢行為をくり返す」
トリガーは「営業成績」「決算」「上司」…
また、痴漢行為をするきっかけとなるものを「トリガー(引き金)」と呼びますが、彼らのトリガーを聞くと、「営業成績」「決算」「上司」「同僚」などが多いといいます。
さらに、痴漢をしているときの気分は、「ヤケになっていた」「もうどうにでもなれと思った」「さみしかった」「自分の存在を認めてほしかった」などの答えが多いといいます。
ごく普通の人が、ストレスのコーピングとして痴漢行為を選んでしまっているという状況が伝わってきます。
しかしながら、同じような状況になれば誰もが痴漢行為をはたらくわけではありません。
痴漢や性犯罪者の特徴は、自己肯定感が低くて人間関係の苦手な人が多く、そのようなベースの上に、強烈なストレスや不安を感じたときにそこから逃げ出すようなかたちで痴漢行為に走るということなのです。
自分のストレスを軽視すると、思わぬしっぺ返しも
著者のクリニックが行っている痴漢の再犯防止プログラムでは、必ずコーピングを学習するといいます。
自分のストレスにどう対処していくか、その方法をさまざまな角度からていねいに学んでいくのです。
その結果、新しい趣味や生きがいを見つけたり、通勤電車の中で気を紛らわせる方法を見つけて、ほとんどの人が痴漢を脱していくそうです。
以上のような痴漢の実態を知ってしまうと、決して他人事ではないと思ってしまいます。
ストレスを蔑ろにすることの恐ろしさを私はこの本から強く感じました。
自分の心の状態に無関心でいると、いつのまにか痴漢をしてしまっている自分がいるかもしれない。
それもあり得ないことではないと、思わずにはいられないのです。