災害用では対応できない?感染症に特化したBCP策定が求められる理由
- 2022/3/22
- 労働環境
オミクロン株が猛威を振るうなか、ここに来て「社内に感染者が出た」「濃厚接触者になった」といった理由から出勤できない、自宅待機しなくてはいけないなどに陥り、事業そのものの基盤が揺らいでいる企業も少なくないのではないでしょうか。
そこで策定が急務とされているのが感染症に特化した「BCP」(事業継続計画)で、2022年1月24日には経済産業省から「コロナ禍における事業継続に向けた取組の強化について(要請)」が発出されています。
BCPとは、内閣府「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応(令和3年4月改定)」では、以下のとおり「突発的な経営環境の変化など不測の事態」において、事業を中断させない、中断しても早期に復旧させるための事業計画と定義されてはいるものの、従来はもっぱら、地震など自然災害への対策が主となっていました。
大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)と呼ぶ。
出所元:「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応(令和3年4月)」
『月刊総務』が2022年1月に実施した調査によると、地震や水害などの自然災害へのBCP対策は97.8%の企業が行っている一方、新型コロナを含むパンデミックへのBCP対策がなされている企業は70.0%にとどまっています。
感染症対策に特化したBCP策定が必要な理由~被害の対象が「モノ」ではなく「ヒト」だから
そもそも感染症対策に特化したBCPの策定が求められるのは、自然災害時の被害対象が施設や設備といった「モノ」であるのに対して、感染症では主として健康被害、すなわち「ヒト」に集約される点にあります。
また、自然災害は被害の範囲がある一定の地域に限定される一方で、感染症の場合は国内全域、ときには全世界にまで拡大します。
さらに、自然災害では事業復旧により業績の回復が期待できますが、感染症では仮に事業が継続できていても、社会情勢などによる業績悪化が懸念されます。
これらを整理すると以下のとおりです。
項目 | 自然災害 | 感染症 |
---|---|---|
事業継続の方針 | 主として、施設・設備など、社会インフラ | 主として、人 |
地理的な影響範囲 | 地域などがある程度限定される(別の地域の施設などで補完可能) | 国内全域、ときには全世界に及ぶ(代替施設などでの補完が難しい) |
被害の期間 | 過去の事例からある程度想定可能 | 不確実性が高く、予測が難しい |
災害発生と被害制御 | 突発的。被害量は事後に制御不可能 | 海外で発生した場合は、国内発生までに準備が可能。感染防止策次第で被害量が異なる |
事業への影響 | 事業復旧により業績回復が期待できる | 集客施設などでは、社会情勢などにより長期間利用減少などの懸念あり |
※厚生労働省「事業所・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」をもとに一部改変のうえ作成
また、時系列で考えると、自然災害発生時には、インフラの停止、さらには災害業務により一時的に平常業務がこなせなくなった後、優先度の高い業務から回復していきますが、感染症発生時は、感染者や濃厚接触者が発生して、人員不足に陥っても業務は継続していくことになります。
こうした両者の特徴の違いから、自然災害用のBCPとは別に、もしくはそこに追記するかたちで感染症用のBCPの策定が求められるのです。
感染症対策に特化したBCPの策定方法~感染防止対策や行動フローの整理を~
感染症対策用のBCPを策定するにあたっては、「何を盛り込むべきか」悩ましいところですが、地方自治体を中心にフォーマットを公開していますので、これらを参考にしましょう。
このうち岐阜県では、2022年2月3日付で、感染症が急拡大している時期に特化したBCPのひな形「新型コロナウイルス感染症対応BCP『簡易版 基本モデル(感染拡大期)』」を作成、公開し、策定項目を以下のように整理しています。
<実施体制>
・ 責任者
・ 事業継続担当
・ 情報連絡担当
・ 財務担当
・ 顧客対応担当
・ コロナガード(感染防止対策責任者)
・ そのほか
<実施すべき項目と対策>
【事業継続】
ヒト | モノ | カネ |
---|---|---|
出勤率などの数値目標 | 優先すべき業務や、製造・販売を続ける商品候補の絞り込み | 政府、自治体などによる支援策の確認 |
社内で感染者などが発生したときに備えたシフト勤務の継続 | 重要な取引先の確認 | 資金繰り対策 |
可能な範囲でのリモートワークに以降 | 感染収束に向けた段階的な対策レベル変更の検討 | 感染症に対応した損保加入の検討 |
信頼できる情報源からの情報入手と周知 | ||
リモートワーク、オンラインでの業務提供時のセキュリティ |
【感染防止対策】
ヒト | モノ | カネ |
---|---|---|
感染拡大地域への移動の制限 | マスクや消毒液など感染防止備品の配置 | |
日常生活における感染防止対策の徹底 | 3密対策の継続 | |
社内での感染防止対策の徹底 | ||
社内で感染者などが発生した時の行動フローと役割分担の整理 |
また、厚生労働省で主として介護施設を対象とした「新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」を作成、公開しています。
一般のオフィス系事業所にも大いに参考になりますので、あわせてご覧ください。
さいごに~BCPは策定したら公開する~
BCPは策定をして終わりではなく、取引先や金融機関などにもわかるように自社ウェブサイト上で公開しましょう。これにより、企業としての信頼性向上にもつながります。
また、経済産業省では「コロナ禍における事業継続に向けたBCPの策定状況調査」を実施しています。
登録することにより、経済産業省サイトにといて策定状況などが公開されます。
万が一のときにも落ち着いて事業を続けられるよう、ぜひ各企業においては感染症に特化したBCP策定を行ってください。
<参考>
・ 経済産業省「コロナ禍における事業継続に向けたBCP(事業継続計画)の公表・登録」
・ 内閣府「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応(令和3年4月)」
・ 株式会社月刊総務「BCP策定済みは約半数で2020年7月の調査から12.2ポイント増加。コロナ禍のBCP「見直す必要性を感じたが、まだ対応できていない」。テレワークの継続意向は「テレワークと出社のハイブリッド」が約半数」
・ 厚生労働省「事業所・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」
・ 岐阜県「事業継続計画(BCP)について」
・ 厚生労働省「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」