「うつ」の適切な治療のために
- 2017/8/9
- メンタルヘルス
職場の人間関係に悩んでいて、気分が落ち込む。
ひどく叱られて、もう会社にも行きたくない。
そんなこと考えていると眠ることもできない……。
こうなった場合、あなたは何の病気を疑うでしょうか。
うつ病とうつ状態は別物です
うつ病は「心の風邪」といわれ、誰もがかかりうる病気として広く一般に認知されてきました。
心療内科・精神科への敷居も低くなり、通うこと自体珍しくもなくなってきていると思います。
そんな中で、「うつ」についても、職場内でもすでにいろんな人が知識を持っているでしょう。
しかしながら、相談を受ける中で「うつ状態」と「うつ病」を一緒にしてしまっているような場面がとても多いように感じます。
「うつ状態」と「うつ病」を「うつ」として同じものとして扱ってしまっていることが、職場におけるメンタル不調対応の混乱の一要因でもあると言えるのではないでしょうか。
そもそもうつ病は病名であり、うつ状態はあくまで状態を表現しているだけで、病名ではありません。
つまり、うつ病は明確な診断基準が定められていますが、うつ状態に診断基準はないのです(診断基準:DSM-IV ICD-10)。
「うつ状態」という診断書を提出された企業側が、対応に困るのも最もなことでしょう。
また、うつ病の場合、うつ状態であることはもちろんなのですが、うつ状態だからといってうつ病とは限りません。
たとえば、別の病気(双極性障害や適応障害、パーソナリティ障害・認知症・脳梗塞等)によって引き起こされているうつ状態ということも多いのです。
あるストレスによって引き起こされているものは、うつ病ではなくうつ状態であることのほうが多いということもいわれています。
うつ状態とうつ病をきちんと分けて診てくれるところに
とはいえ、うつ病の診断基準として用いられるDSMは、該当項目をカウントすることにより判断するものです。
これにより、ある特定の理論に偏ることなく理論的に中立で、客観的な診断が可能になりました。
しかしながら、反面、症状や病気ついての理解が治療時に疎かになる恐れがあるということが指摘されています。
診断基準が整備されることで、いわゆる質的な診断(医師の経験に基づく、従来からの患者の変化、本人からの申告以外の他覚的観察による判断)というものから、一線を画して「うつ病」と診断されるようになったことも、近年のうつ病患者の増加の要因という声もあがっているです。
うつ病は、脳内の神経伝達物質のバランス異常が原因とされていますが、うつ状態はそうではありません。
うつ病の場合は、神経伝達物質の働きを高めるために抗うつ薬による薬物治療が選択されます(重症度により異なります)。
しかしながらそうではないうつ状態の場合に、うつ病と同じ薬物治療だけを行っても効果はなく、副作用だけが出ることもあり、不適切な治療ということになります。
特にストレスとの因果関係がはっきりとしていることが多いうつ状態では、薬物ではなく、休養や生活改善等の環境調整や、精神療法等を用いてストレス対処法を重点的に行っていく方が効果的とされているのです。
適切な治療のために
とはいえ、日々変わっていく精神状態を正確に見極めるのは、実際ベテランの医師であっても難しいのが現状です。
実際の診断・問診時は、当然ながら本人からの申告によって行われます。
冒頭で例に挙げた内容で、「うつ病」と自分で思って受診すると、医師に伝わる内容も「うつ病」と判断される内容で申告してしまうおそれが多分にあります。
可能であれば家族等に付き添っていただき、客観的な意見があれば、より適切な診断になるでしょう。
うつ状態はもちろん程度はありますが、生きていれば誰しもが経験する状態であるともいえます。
うつ状態すべてを医師の見立てなしに「うつ病」と思いこまないようにしましょう。
また職場でも、「うつ状態」と「うつ病」は違うという認識を持つことが、適切な支援の第一歩となります。
この2つを区別せず「うつ」として認識することは、不必要な治療や、間違った対応につながるおそれがあります。
うつ病もうつ状態も、適切な治療で治るものです。
ただ、その適切な治療というは、当然ながら適切な診断があって初めて成り立つものだということを知っておいていただきたいと思います。