今、上司に求められるメンタルヘルスケアの視点

今や職場でのメンタルヘルスケアへの取り組みは、どの会社でも必要に迫られていることでしょう。
メンタルヘルスケアはもはや人事や総務だけが取り組む課題ではありません。
むしろ、1対1で社員と向き合い、職場の状況を把握している直属の上司にこそ、職場でのメンタルヘルスケアのキーパーソンとしての役割が求められていると言えるでしょう。
とはいえ、日々どういうことから取り組んでいけばいいのか…。
そんなふうに思われている方はまず、「事例性」という視点をもつことから始めていただきたいと思います。

「事例性」という視点で職場を評価する

事例性とは、日々の生活、職場で実際に困っている・問題になっている「客観的事実」のことです。
職場での問題は何か、勤怠の乱れや作業効率、業務への支障、職場の周囲への影響に注目するのです。
例えば、下記のようなものがあります。

■業務面
「ミスが多い」
「社内外での人間関係でトラブルが増えた」
「仕事に集中できない」

■勤怠面
「遅刻が多い」
「週明けの休みが多い」

■態度
「ぼんやりしていることが多い」
「周囲と距離をとろうとする」
「服装が乱れている」
「整理整頓できない」

このように、いつもとなんだか様子が違い、実際に業務で支障をきたしていることに注目することが、上司としては必要です。
ここで大切なのは、病気の可能性や症状や病名(=疾病性)とは切り離した視点をもつということです。

疾病性の視点とは区別する

職場でメンタル不調の疑いがある従業員がいる場合、その従業員が病気なのかどうか、病気だとしたら病名はなんなのか?ということにフォーカスしがちです。
しかし、職場内でのメンタルヘルスケアにまず必要な視点としては、「疾病性」ではなく先に挙げた「事例性」です。
具体的に、本人もしくは周囲に何がどう影響して、どういう結果が引き起こされているのか…。
そのように現実を把握することが問題解決の鍵であり、「いつもと違う」という言葉ではなく
より具体的な事例性を挙げることが大切なのです。

疾病性への対処は「ケア・治療」の領域であり、医師の役割となります。
何か問題がある時は、事例性に注目し、本人と話す機会を設けるようにしましょう。
話の中で「よく眠れない」や「気分が落ち込み」等の自覚症状が見受けられた場合は、産業医等の専門家へ繋げる対応が必要となります。
本人と話す際の注意点としても、あくまで「事例性」の視点で話すということです。
職場で何らかの問題がある場合でも、本人に病識(自分が何かしらの病気であるという認識)がない場合や、問題の認識が甘い場合があります。
そのような際に、「疾病性」の視点で話をすると「私は病気ではありません!」と反感を買ったり、すれ違いが起こったりし、結果として産業医等の専門家につなぐことが難しくなります。
また、事例性がある=疾病性がある ではありません。
ミスが増えた、ぼんやりしているからといって、何かの病気とは限りません。

職場内で「疾病性」の視点が強まってしまうと、病気かどうかのレッテル貼りが加速する恐れがありますので注意が必要です。
部下のメンタルヘルスケアを行うことは、疾病性の視点をもち自分の知識で部下の対応をしなければいけないということではないのです。

個人と組織に対しての働きかけを

「事例性」の視点で職場を把握できるのは、上司や周囲の人たちだけです。
「事例性」という視点をもち、何か気になることがあれば産業医等専門家に相談する。
そうすることで「疾病性」についても理解を深めていくことができれば、よりよい部下のケアへとつながるでしょう。
事例性の視点は部下の業務管理だけでは備わらず、常日頃から部下に関心を持って接することが必要となります。

職場で問題となっていることは、その部下だけの問題だけに留まりません。
同僚や職場全体の問題に繋がることを意識し、日頃から上司の立場としてできるメンタルヘルスケアの対応を行っていくようにしましょう。

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山口紗英株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士

投稿者プロフィール

メンタルクリニックでのカウンセリング従事の後、「働く人」を理解すべく一般企業にて勤務。その後ドクタートラストに入社。
自然成長は望めない時代だからこそ、「個」と「組織」の両面に、健康という手段をもってアプローチすること大切だと思っています。知識ではなく、明日から職場で使える「スキル」を発信し、働くことが楽しいと思える社会の構築を各現場から作っていけたらと思います。
【保有資格】精神保健福祉、産業カウンセラー、第二種衛生管理者、健康経営アドバイザー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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