2019年4月の働き方改革法施行により、時間外労働についてより厳しい上限規制が置かれたのは周知のことです。
具体的には、時間外労働の上限は月45時間・年360時間となりました。
特別の事情がなければ、超えてはいけないこととされ、違反の場合は、懲役または罰金が科される可能性があります。
施行からすでに3ヶ月以上が経過しており、最初は戸惑いのあった企業でも、そろそろ馴染んでくるころではないでしょうか。
働き方改革の2軸がはらむ矛盾
時間外労働の上限規制は、「働き方改革」の範疇に含まれているものです。
この「働き方改革」について、大きくわけると2つの軸があると私は思っています。
1つは、前述の時間外労働の上限規制に代表される「心身の健康への取り組み強化」。
そしてもう1つが、副業・兼業解禁で話題を集める「多様な働き方」です。
この両者、それぞれだけに目を向けていると、とても素晴らしいものに思えてきますが、両者を両立させるのは非常に困難であり、ともすれば大きな矛盾をはらんでいることにお気づきでしょうか。
“従来型労働へのアプローチ“と“未来型労働の促進”は両立できるのか
冒頭で触れた、時間外労働の上限規制を企業内の実務に落とし込んで考えると、企業がそこで働く従業員の間で決まりごとを作るようなものです。
一方で、多様な働き方で推奨されているのは、「1つの企業以外でも働く」ということ。
企業が複数の従業員を雇用しているのとは逆に、従業員が複数の企業で労働するということになります。
時間外労働の上限規制に「1人の人間の勤め先は1社」という前提があるのであれば、なんら問題はないでしょう。
しかし、現在進行形で推奨されている「1つの企業以外でも働く」という前提では、なかなかうまく機能しません。
仮にひとつの会社が当該従業員の労働時間に規制をかけたとしても、それによって浮いた時間、空いている週末を当該従業員が別の企業での労働にあてていたら、まったくなんの意味もなさないからです。
企業の困惑、国の二の足
このような課題を解消するために、副業・兼業を解禁している企業では、従業員に対して「通算の労働時間を報告するように」と呼び掛けています。
また、使用者には本業と兼業の通算労働時間の把握が労働基準法上は義務づけられています。
しかし現状は残念ながらうまく機能しておらず、担当者が困惑しているようです。
2019年6月6日に政府の規制改革推進会議が公表した「規制改革推進に関する第5次答申~平成から令和へ~多様化が切り拓く未来~」では、この点について、厚生労働省内に設置されている「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」において、制度自体の見直しも含めて議論するように提案していますが、実際に法制度として整備されるまでの道のりは険しく、しばらくはこの矛盾をはらんだまま、企業は「働き方改革」に取り組むことになりそうです。