定年後再雇用による賃下げは違法なのか-長澤運輸事件-

少子高齢化による働き手の不足から、定年制を廃止したり定年後再雇用の制度を作ったりしている会社も多いかと思います。
そんな会社にとって、他人事ではない裁判事例を今回はご紹介したいと思います。

平成26年10月、自動車運送会社において定年後再雇用の嘱託社員3名が、業務内容や責任が正社員時と変わらないのにもかかわらず、定年後賃金が約2割強引き下げられたのは労働契約法20条に違法しているとして会社を提訴しました。
平成30年6月1日に行われた最高裁判決では、一部手当について支払い命令は出たものの定年後賃下げ自体は違反ではないと判断され、原告である従業員は肩を落とす結果となりました。

労働契約法20条とは

労働契約法20条とは先日の記事「労契法20条で労働者の不合理な格差をなくす」でも紹介しましたが、正規社員と非正規社員の不合理な格差があってはならないと定めている法律です。

第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

今回は正社員時と①業務内容②職務・配置が変わらないため、「定年再雇用」が③その他の事情として考慮されるのかどうかが争点となります。
正規社員と非正規社員の格差が問題となって久しいですが、今回は労働契約法20条の解釈に関する日本初の最高裁判決ということで、労働格差はどこまで許されるのか、裁判の行方に注目が集まりました。

定年後再雇用時の賃下げが不合理と認められるのか?

1審判決では職務内容が同じであるのにも関わらず、定年後再雇用の賃下げを行うことは合理的な理由とはいえないとして会社側に支払い命令が下されました。
労働契約法20条に関する裁判はこれまでもありましたが、支払いを命じた判決は初めてのものとなります。

しかし2審判決では定年による賃下げは広く行われていることであり、他社平均から見ても約2割強の引き下げは、ただちに不合理とは認められないとしました。
また会社の経営状況や組合との協議を行っている点などを考慮して、20条違反ではないと判断しました。

そして最高裁判決では、「定年再雇用」は20条における③その他の事情として考慮されることとなる事情に当たるとし、2審と同じく賃下げ自体は直ちに不合理とは認められないとしたうえで、今回の事件のような場合、賃金総額の比較だけでなく各賃金項目の趣旨をふまえ個別に考慮すべきであると判断しました。
結果、精勤手当および超勤手当については支払いを命じましたが、その他能率給および職務給、住宅手当および家族手当、賞与等の手当については認められませんでした。

今後の社会的な影響

独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成27年度調査「60代の雇用・生活調査」によると、定年に際して賃金が減少したとする人は8割を超えており、その賃金減少率は2割超5割以下が半数を超えています。
今回の裁判で定年後再雇用における賃下げは第20条違反に直結しないと判断されましたが、このことから定年後再雇用による賃下げが安易に行われてしまえば、シニア人材活用を推進している日本にとっては逆風となります。

また企業側にとっては、各種手当について支給理由を明確にすることが必要となります。
働く人のモチベーションが下がらないよう、使用者・労働者が双方納得できる制度を整えることが重要であると思います。

<参考>
「60代の雇用・生活調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構平成27年度調査)

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須田 友梨佳株式会社ドクタートラスト 大阪支店

投稿者プロフィール

大学卒業後に入社した会社では「働き方改革」が足かせとなり、残業できず苦しむ社員や余計に仕事が増えてしまうような状態をみてきました。働く人達が、健康に前向きに働くことができる職場環境を目指して、勉強し発信していきたいと思います。
【保有資格】健康経営アドバイザー
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