会社から業務に必要な資格取得や、自己啓発のための学習を指示され、就業後や休日に学習を行っている人は少なくありません。
このような就業時間外での学習時間は、労基上どのように取り扱われているのでしょうか。
労働時間の考え方
そもそも労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示また黙示の指示により、労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとされています。
具体的には以下の通りです。
ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(作業着・制服への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(日報の記録・清掃等)を事業場内において行った時間
イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
よって、結論としては、会社命令による就業時間外での学習にかかる時間は、法律上労働時間とみなされ、賃金発生の対象になり得ます。
暗黙の強制も労働時間とみなされる
こう述べると、会社はあくまで選択肢を提示しているだけにすぎず、実際に学習を行うか否かについては本人の自主性に委ねているとの反論が出てくるかもしれません。
ですが、厚労省の指針には以下のようにあります。
労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。
また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。
要約すると、使用者から直接的な命令がなくとも、暗に強制されているような事態、たとえば試験の合格要件が査定に影響を与えたり、合格するまで何度も追試を行うといったペナルティが課せられている場合は、事実上、使用者の指示下と捉えられるということです。
ただし、これらはあくまでガイドラインであり、厚労省の指針は指針に過ぎないため法的な拘束力はありません。
しかし、トラブルになった際、この指針が労基署などの指導方針になることを使用者側は忘れてはなりません。
資格取得、自己啓発を推奨することは、従業員本人にとっても良いことに違いはありませんが、あくまで本人の選択に委ねること、また、学習を拒否した場合に不利益をもたらすルールの設定は避けたほうが望ましいといえるでしょう。