厚生労働省は26日、違法な長時間労働を行った企業に対する企業名公表制度を現行の月100時間超から、月80時間超に引き下げることを過労死等ゼロ緊急対策を議論した長時間労働削減推進本部で決定しました。
80時間超への引き下げは、平成29年より実施となります。
これまでは平成27年5月18日より、月100時間超の違法な長時間労働が1年間に3事業場認められた場合に公表するとしていましたが、実績は1件と乏しく、長時間労働による過労死や過労自殺が後を絶たないことが背景としてあるでしょう。
企業名公表制度の変更点
これまでの現行制度からの変更点は、上記に述べた引き下げ以外に、2つのポイントがあります。
①過労死等・過労自殺等で労災の支給が決定した場合も対象となります。
⇒今回の過労死防止対策で別途決定した内容に、複数の事業場で違法な長時間労働が認められた場合には全社的な立入調査を行うことが盛り込まれています。
このことに関連して、2事業場で上記労災支給が行われた場合には、企業本社への指導を実施し、是正されない場合に公表するとされています。
②月100時間超と過労死・過労自殺が2事業場に認められた場合にも企業名公表となります。
⇒「3事業場で発生した場合」とされていた現行よりも、ハードルが引き下げられることとなります。
厚生労働省としては、これまでより厳しい制度へと変更することで違法な長時間労働を削減し、過労死等の痛ましい事案が発生することを抑制しようと考えています。
上記制度は複数事業場を有する大企業を対象としたものですが、企業名公表制度以外にも過労死等を防止するための具体的な緊急対策が発表されています。
過労死等ゼロへ向けたその他の緊急対策
①新ガイドラインによる労働時間の適正把握
⇒労働時間の適正把握に関して、新たなガイドラインを策定して労働時間の実態と勤怠管理上の時間が大きく違う場合は、使用者が実態調査を行うこととなります。
また、使用者が明示もしくは黙示した指示による学習や研修は労働時間として取り扱わなければならないこととなります。
特に前者は企業へヒアリングを行っている中でも度々課題となって出てくるため、各企業への影響は大きいでしょう。
②36協定を未締結の企業に対する監督指導の徹底
③メンタルヘルス対策が不十分な事業場がある場合、本社へ指導を行う
⇒これまでは事業場単位で指導がなされていましたが、複数の精神障害の労災認定があった場合は、本社への指導が行われます。
さらに、パワハラ防止を含め指導がなされるため、広義的なメンタルヘルス対策が必要となります。
④ハイリスクな労働者を見逃さない取組み
⇒月100時間超の残業や休日労働をする労働者の労働時間など必要な情報を産業医に提供することが義務化されます。
また、過重労働等の問題がある事業場へは、医師による緊急の面接指導を行うよう労働局が指示できるようになります。
これら以外にも、事業主団体に向けての働きかけや、労働者に対する相談窓口の充実なども盛り込まれており、いかに政府が長時間労働削減に力を入れようとしているかが明確に伝わってくる内容となっています。
あらゆる企業の違法な長時間労働を削減
今回の企業名公表制度やメンタルヘルス対策については大企業が主な対象ですが、それ以外の企業が対象となる制度も多数決定されました。
特に、実労働時間の把握や面接指導の実施指示などは50名未満の企業にも大きな影響を及ぼすでしょう。
タイムカードを打刻した後のサービス残業や、営業社員の直行直帰など見えない労働時間への対策も必要となり、これまで以上に長時間残業に対する医師の面接指導や、全社を挙げた取り組みが課題となります。
≪参考URL≫
厚生労働省 「過労死等ゼロ」緊急対策 (アクセス日:2016年12月27日)