航空大手のANAホールディングスはコロナ禍の業務縮小を受け、4月時点で750名以上の社員をホテルやコールセンター、メーカーなど200以上の団体へ在籍型出向させています。
今注目されている「在籍型出向」とは、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、 労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、一定期間継続して勤務することをいいます。
在籍型出向は職業安定法第44条のなかで「業として行う」ことは禁止されています。
ですので今までは、グループ・関係会社間での雇用調整や、人材交流などの目的て実施されることがほとんどでした。
しかしコロナ禍において、労働者の雇用維持を図る目的としてであれば「業として行う」ことには該当せず、打撃を受けている航空業界・観光業界や飲食業界などから全くの異業種に出向する在籍型出向が増えてきています。
今回は、この在籍型出向、雇用シェアリングについて解説していきます。
在籍型出向を行う為に必要なこと
在籍型出向を行うには、以下4つのステップが必要となります。
① 労働者本人の同意
② 社内規程等の整備・労使の話し合い
③ 企業間での出向契約の締結
④ 労働条件等の明確化
出向労働者の給与に関する税務や社会保険・労働保険における取扱いは、個別の出向契約の内容によって異なります。
事前に決定を行い、双方の認識を合わせるようにしましょう。
在籍型出向を行う為に必要なこと
2021年1月以降、在籍型出向について新たに助成金が創設されています。
【産業雇用安定助成金】
▪対象
雇用調整を目的とする出向(新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向)が対象。
▪前提
雇用維持を図るための助成のため、出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことが前提。
▪助成の概要
・ 出向に関しての賃金や教育訓練にかかる経費などを最大12000円
・ 在籍型出向を行う為の整備や教育訓練等にかかった初期経費について10万円/人
雇用調整助成金も対象にはなり得ますが、いずれか一方のみ申請可能ですのでご注意ください。
詳細は厚生労働省HPをご確認ください。
ハードルの高さが課題
実際の取組状況についてみてみますと、2021年2月に行われたアンケートによると、「他社社員の出向での受入れを検討したい(検討している)」という企業は9.7%、「昨春の緊急事態宣言が発出された後に、他社社員を出向で受入れている」という企業は全体の0.9%でした。
実施・検討にあたっての課題について、一番回答が多かったのは「人件費等、出向の相手先企業との経費負担の取決め」、次いで「担当する業務に対する出向者の適性や能力・スキル」が多く、その他にも「出向の対象となる人材の選定」「出向の相手先企業との出会い、マッチング」など多岐にわたっています。
興味がある企業は多いものの、実際に行うにあたっては規程の整備や、相手企業との交渉などのハードルが高いように思います。
そういった課題を取り除くべく、マッチングや支援をおこなっている自治体や金融機関などもあります。
興味がある企業の方は、まず最寄りの産業雇用安定センターにご相談してみてはいかがでしょうか?
<参考>
・ 厚生労働省「在籍型出向支援」
・ 東京商工会議所「~コロナ禍で活用が進む~雇用シェア(在籍型出向)とは?」
・ 日本商工会議所「コロナ禍における雇用・就業面での対応等に関する調査」の集計結果について~コロナ禍での雇用シェア(在籍型出向)・業態転換の動向を初調査~」