
皆さんは「クォーターライフ・クライシス」という言葉を聞いたことがありますか。
私は、日々の産業保健の現場で、20代~30代前半の若い世代の方々が「将来への不安」「このままで良いのか」という悩みを抱えて相談に来られることが多いと感じています。
その背景に、この“クォーターライフ・クライシス”があるのではないかと感じ、今回このテーマを取り上げました。
クォーターライフ・クライシスとは?
「クォーターライフ・クライシス(Quarter Life Crisis)」とは、主に20代半ばから30代前半にかけて多くの若者が経験する、将来への不安や自己への疑問、社会的なプレッシャーに起因する心理的な危機を指します。
思春期に訪れる「思春期の危機(Adolescent Crisis)」や、中年期の「ミッドライフ・クライシス」と並び、人生の転機に生じる精神的葛藤の一つとされています。
20代は、学校を卒業し、社会に出て、親元を離れ、自立を意識し始める時期です。
あなたは今、どんなことに迷ったり、不安を感じたりしていますか?
「これからの人生をどう生きるのか」「この道で本当に合っているのか」「やりたいことがわからない」といった問いが、誰の心にも生まれやすい時期でもあります。
心理学的には、これらの迷いや不安は「正常な成長プロセスの一環」です。
しかし、他人や社会と比較するなかで自分を見失いやすく、無力感や焦燥感が続くと、うつ病や不安障害などに発展することもあります。
あなた自身は、こうしたプレッシャーをどのように受け止めていますか?
選択肢が多すぎる時代となった今
現代の若者は「自由」と「選択肢」に恵まれています。
SNSやインターネットを通じて多様な価値観や生き方に触れることができ、働き方の幅も広がりました。
しかし、その一方で「何を選ぶべきか」「自分に合った生き方は何か」といった悩みが増え、選択肢の多さがかえって決断の疲れを生み出しています。
就職か大学院進学か、フリーランスとして働くのか、都会でキャリアを積むのか、地元に戻るのか、結婚を選ぶのか、一人で生きるのか――。
どの選択にもメリット・デメリットがあり、「正解」が見えない中で多くの若者が立ち止まってしまうものです。
他人と比べないことの難しさ
同年代の人たちの結婚、転職、成功、充実した生活などがSNSに流れてくると、自分だけが取り残されているような気持ちになることがあります。
しかし、そこに映っているのはあくまで表面的な部分であり、その人の努力や悩みまでは見えません。
他人と比較することで自分の歩みを見失ってしまうことが、「クォーターライフ・クライシス」の大きな要因の一つでもあります。
この時期に大切なのは、誰かの「正解」を追い求めることではなく、自分なりの答えを少しずつ見つけていくことだと思います。
他人の基準ではなく、「自分にとって意味のある選択」とは何かを考える時間を持つことが、前に進む手がかりになります。
クォーターライフ・クライシスを乗り越えるためにできること
自分と向き合う時間をつくる
日々忙しい中で、自分の気持ちに気づかぬまま時間が過ぎてしまうことがあります。
少し立ち止まり、ノートに気持ちを書き出してみるだけでも、自分が本当に引っかかっていることが見えてくる場合があります。
無理に答えを出さなくても、「考える習慣」を持つだけで変化が生まれます。
小さな「やってみたい」を大切にする
大きな夢や明確なビジョンがなくても、「少し気になる」ことを試してみることが大切です。
本を一冊読んでみる、副業について調べてみる、短期間でも海外へ行ってみるなど、小さな行動が前向きな変化のきっかけになります。
誰かと話す時間を持つ
不安や焦りを一人で抱え込むと、ますます重くなります。
信頼できる人に話すだけで気持ちが整理され、「自分だけではない」と感じられることも多いです。
身近な友人や先輩に話すのも良いですし、必要に応じて専門家に相談することも有効です。
他人と比べすぎない
SNS上で同年代の人が輝いて見えることもありますが、それと自分を比較して落ち込むことは避けましょう。
今の自分に「できていること」「持っているもの」に目を向けることで、心が安定します。
完璧でなくても構いません。自分なりのペースを大切にしましょう。
焦らないと自分に言い聞かせる
20代は迷いの多い時期です。
前に進んでいるつもりでも、同じ場所で足踏みしているように感じることがあります。
しかし、遠回りに思えた経験が後になって意味を持つことも多いものです。
「今は準備の時間」と捉えるだけで、少し気持ちが軽くなります。
クォーターライフ・クライシスは、人生の失敗ではなく、自分の生き方に真剣に向き合う人ほど経験する自然な戸惑いです。
焦らず、自分のペースで一歩ずつ進んでいくことが大切です。
もし今、悩みの中にいる方がいたら、「これも自分の成長の途中なのだ」と優しく受け止めてみてください。



















