人事担当者が押さえておくべき保健師採用のポイント!現役保健師へのアンケート結果もご紹介
- 2021/12/30
- 保健師
最近、人事担当者の方から「保健師を採用したいがどうしたらよいだろうか」という質問をいただきます。
産業保健師として活動してきた筆者としては、保健師の活用を検討する事業者が増えることに大変うれしい気持ちです。
そこで今回は、初めて産業保健師を採用したいと考えている人事担当者向けに、複数の事業者で勤務経験がある現役産業保健師が、保健師採用のポイントをまとめました。
<本記事を読むと、以下が理解できます>
・ 産業保健師を採用するメリット・デメリット
・ 自社にマッチする産業保健師を採用するための事業者側の準備
・ 産業保健師のアンケート調査でわかった「産業保健師が求人情報でみているポイント」
なお、筆者の経験による私見が多く含まれるため、この記事の内容が絶対ではありません。
少しでも保健師採用に役立ててもらえたら幸いです。
1. 産業保健師とは?
1)産業保健師とは
産業保健師とはいったいどんな人たちなのでしょうか。
シンプルに言えば、働く人の健康を支援する専門職です。
<産業看護の定義>
産業看護とは、事業者が労働者と協力して、産業保健の目的(注1)を自主的に達成できるように、事業者、労働者の双方に対して、看護の理念(注2)に基づいて組織的に行う個人・集団・組織への健康支援活動である。
(注1 産業保健の目的)
1. 職業に起因する健康障害を予防すること
2. 健康と労働の調和を図ること
3. 健康および労働能力の保持増進を図ること
4. 安全と健康に関して好ましい風土を醸成し、生産性を高めることになるような作業組織、労働文化を発展させること
(注2 看護の理念)
健康問題に対する対象者の反応を的確に診断し、その要因を明らかにして、問題解決への支援を行う。その支援に際しては、相手を全人的に捉え、その自助力に働きかけ、気持ちや生きがいを尊重することが求められる。
出所元:日本産業衛生学会産業看護部会「産業看護の定義」
2)事業者が産業保健師を採用するメリット
事業者が産業保健師を採用するメリットには、以下の3つがあります。
1. 自社の産業保健体制をより強化できる
2. 衛生管理者や人事担当者ではカバーしきれない労働者や組織の問題に専門的な立場で関わる人材を確保できる
3. 産業医の仕事もフォローできる
「安全管理や衛生管理の体制づくりをどうすればいいのかわからない」とお悩みの担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。
産業保健師は事業者、労働者双方にとってより良い体制づくりの助言や具体的な施策を提案、実行ができます。
また、産業医の限られた訪問時間では対応しきれないメンタル不調者のフォローや健康診断後の保健指導などもおこなえます。
3)事業者が産業保健師を採用するデメリット
一方、産業保健師を採用するデメリットは正直あまりないと考えています。
ただし、採用することで人件費が発生しますので、この費用をデメリットと考える事業場もあるでしょう。
費用をデメリットにしないためには、「自社で保健師をどう活用するか」といった自社の考え・方針を明確にし採用する必要があります。
2. 自社にマッチする産業保健師を採用するための事前準備
続いて、自社にマッチする産業保健師を採用するための事前準備についてお伝えします。
ポイントは以下の3つです。
1)自社の現在の「安全衛生体制」と「課題」はなにか
まずは現状を把握のため、安全衛生体制で「できていること」「できていないこと」を洗い出しましょう。
例1:健康診断の未受診者がいる、また、通年で受診できるようにしているが、受け忘れる人が多く毎年3月に受診者が偏っている
例2:(安全)衛生委員会の調査・審議が乏しく報告ばかりでマンネリ化している
例3:メンタル不調での休職者が増加傾向にある
現状を確認したうえで、課題を挙げます。
例1:健康診断の受診率を100%にしたい、なるべく年度のはじめに受診してもらえるような体制にしたい
例2:(安全)衛生委員会で毎月テーマを設けていろいろな話題を取り上げ、健康意識を高めたい
例3:メンタル不調者を減らすために事業場、労働者双方の取り組みを強化したい
こういった感じですね。
2)労働者の健康と事業者としての健康経営の目指す方向をはっきりさせる
現在の「安全衛生体制」と「課題」がある程度みえてきたら、労働者の健康と事業者としての健康経営の目指す方向をはっきりさせます。
事業者として「事業を継続」するため「より良い経営」のために、産業保健の観点で労働者にどうなってほしいのか、そして事業者としてどう考え行動していくのかを明確にしましょう。
3)事業者として産業保健師に何をしてほしいのか
産業保健師にどう関わってほしいかを具体的にイメージします。
1)、2)を踏まえて、「産業保健師をどう活用していくか」がはっきりすれば、どんな保健師を採用したいのかも自ずと明らかになります。
採用面接時に、事業者としての考えを面接者に伝えることで、保健師側も企業が求める保健師像を理解できます。
加えて、面接時に保健師側のどんな働き方をしたいか希望を確認することで、採用のミスマッチを防げるのではないでしょうか。
3. 現役産業保健師が保健師求人でみるポイント
産業保健師が保健師求人をみるときにどんな点を確認しているか、「産業保健新聞」運営元のドクタートラスト所属の保健師にアンケート調査をおこないました。
■調査期間:2021年10月から11月
■調査対象:ドクタートラスト所属の産業保健師
■回答数:10名
■性別:女性
■年代:20代から40代
設問は以下3問です。
設問1 産業保健師の求人で重視するポイント
設問2 「仕事内容」の項目ではどのような点をみているか
設問3 産業保健師の就職について「意見や考え」
調査結果からは産業保健師が求人の中でどこに注目しているのかがみえてきました。
1)現役産業保健師10名のアンケート結果
設問1では産業保健師が求人で重視するポイントを尋ねたところ、以下の結果が得られました。
10名の年代や経験値もさまざまである中で、最も多かった意見は「仕事内容」でした。
「自分は事業者の中でどんな仕事をするのか?」という点は保健師に限らずどんな人でも気になるもの。
それは保健師も同様です。
また、保健師はそれぞれ自分なりの「仕事観」「看護観」をもっています。
そういった自分の価値観と仕事内容がマッチするかを確認するためにも、仕事内容はじっくり確認する人が多いのではないでしょうか。
次に多かった意見は「給与・福利厚生」「勤務時間・休暇」といった勤務条件や福利厚生が続きます。
自分の希望と合う就業環境かどうか気になる保健師が多いと言えるかもしれません。
続いて、設問2では設問1でもっとも多かった「仕事内容」を求人で確認するときの保健師の視点を尋ねたところ、以下の回答が得られました。
・ これまでの経験を活かせる内容かどうか(やったことのない業務内容であっても今までの経験を活かせて取り組めそうかどうか)
・ 保健指導やケガの処置だけでなく、一次予防的な業務がおこなえるか
・ 事業者として、産業保健をどのようなスタンスでとらえているのか
・ 基本的な法定ラインのみの健康管理を求めているのか、それとも優良法人取得などの健康経営にも力を入れているのか
・ 支店などが複数ある場合には出張があるかどうか
・ どのようなスキルを必要とするか
・ 保健師としてやりたいことと、事業者が求める内容にギャップがないか
・ 健康管理や産業保健を重要視していて、前向きでやる気のある事業者であること(法的義務をこなすためだけでないこと)
・ 過去の経験が活かせるか、産業保健に関する発信を会社自体がやっているかどうか、挑戦できる場所かどうか
・ 仕事内容が産業保健全般の内容かどうか
・ 自分のやりたい保健師としての仕事ができるかどうか
仕事内容についての回答をまとめると「自分のこれまでの経験が活かせるか」「事業者の産業保健(健康経営)に対する温度感、予防活動に積極的か」、「仕事内容と自身が保健師としてやりたいことが合致しているか」といった点をみている傾向があります。
最後の設問3では産業保健師の就職に対する意見や考えを尋ねたところ、以下の回答が得られました
・ 入社面接等で、看護職をチームメンバーとして同じ高さで求めてくれているか、一つのコマとしてとらえているのか、担当者の目線を確認することも大事
・ 産業保健師の就職では、これまでの産業保健師としての経験年数を必要としている職場が多い印象
・ 非常勤で週3日働く先を探していたときは、勤務場所(テレワークか出社か含む)などを重視していた
・ 独身の保健師は正社員で待遇がしっかりしているところを選びたいと考える人が多いと思う
・ 結婚したり子育て中だったり、状況によっては契約社員や嘱託社員で働きたい
・ 産業医と産業保健師との役割分担が重要!嘱託産業医ではまかないきれない部分を保健師ならサポートできる
・ 会社の中でどう活躍できるかを重視
・ 保健師未経験可の求人があっても、看護師として勤務しているときに保健指導経験が必須など、条件が厳しいイメージ
産業保健師は経験が求められる立場との声が複数ありました。
産業保健未経験で就職先を探す場合、応募できる事業者を探すのに苦労する例もあり、最初の経験をどう得るかが保健師側の課題かもしれません。
また正社員でバリバリ働きたいか、家庭等との両立で希望する時間だけ働きたいか、保健師の状況によって希望する働き方も異なるようです。
2)産業保健師が応募したくなる求人3つのポイント
アンケート結果より、筆者の独断で産業保健師が応募したくなる求人のポイントをまとめました。
1. 「仕事内容」の詳細が書かれており、自分のやりたいことができたり経験を活かせたりする環境がある
2. 事業者が産業保健に力を入れている、もしくは今後力を入れたいと考えている
3. 給与や福利厚生、待遇、必須条件などがはっきり書かれている
以上のポイントを押さえれば、保健師が応募したくなる求人になるでしょう。
人事担当者の方はぜひ、求人情報を公開するときに参考にしてみてくださいね!
3)事業者が産業保健師を採用するときに注意すること2つ
事業者が産業保健師を採用するときに注意することを2つあげます。
あくまで筆者の私見ですので、参考までにお読みください。
一つ目は「保健師が労働者とうまく関係性を持てる人物かどうか」です。
労働者とうまく関係性を持てる人物かどうかはとても重要です。
労働者と同じ目線に立ち気持ちに寄り添うことが看護の基本であり、それは産業でも臨床でも同じだと考えます。
また、産業で働く保健師は多種多様な労働者を理解し、信頼関係を築ける人物でなければなりません。ぜひ能力や経験だけでなく保健師の人柄もチェックしてください。
二つ目は、保健師の「事業者や労働者への姿勢、立ち位置」です。
一つ目と矛盾していると思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、多くの産業保健師は労働者だけを優先的に考えて仕事をしていません。
事業場全体のために何ができるかを考えて活動しています。
事業者の考えや立場を理解し、「一緒に事業場をよくしよう!」という気持ちがあるのかどうかも、ぜひ見極めてください。
4)さいごに
今回は、初めて産業保健師を採用したいと考えている人事担当者向けに、保健師採用のポイントについて以下の観点からまとめました。
・ 産業保健師を採用するメリット・デメリット
・ 自社にマッチする産業保健師を採用するための事業者側の準備
・ 産業保健師のアンケート調査でわかった「産業保健師が求人情報でみているポイント」
アンケート結果をみると産業保健師は「法定で義務となっている業務だけするのは物足りない」、「法定外のことも含めて活動し、事業所をよくしたい」と考える傾向が強いようです。
意欲のある保健師をいかに活用するかが重要なポイントです。
そのためには事業者側も保健師にどう関わってほしいか明確にしておく必要があります。それが保健師の人件費をデメリットにしないことにつながると考えられます。