東京都民の48.8%が花粉症*1
東京都では、最新の花粉症推定有病率や花粉症患者の予防・治療等の状況を把握し、今後の都における花粉症予防・治療対策の基礎資料とするため、「花粉症患者実態調査」を実施しています。
同調査結果によると、2006年時点でのスギ花粉症推定有病率は28.2%に過ぎませんでしたが、2016年はなんと約2倍の48.8%にまで増加。
つまり2人に1人は花粉症ということです。
一つの疾患が10年で2倍になるなんて、花粉症は国民病といっても過言ではありません。
花粉症は花粉によって生じるアレルギー疾患
花粉が鼻に入ると、くしゃみや鼻水、少し遅れて鼻づまりが起こります。
また、目に入ると、目がかゆくなり、涙が流れて充血してきます。
さらに症状が強いときは、鼻からのどに流れ、のどのかゆみや違和感を生じます。
鼻づまりによる頭痛、鼻や喉の炎症反応による微熱やだるさ、そしてそれらに起因して「睡眠」に多大な損失を与えます。
鼻づまりは眠りの質と量を低下させます。
睡眠障害、疲労、息切れ、頭痛、日中の眠気など、眠りが分断されることで、一番大切な体の回復再生時間である睡眠ゴールデンタイムを阻害します。
そして、上記症状は仕事のパフォーマンス低下の原因となり、ひいては組織全体として労働生産性の低下につながります。
花粉症による労働能率は症状のないときと比較して、約42%低下し、それによる労働損失時間は3%と報告されています。*2
組織的な視点で花粉症対策をしよう
セルフケアの視点とともに、組織的な視点も付加して、対策をみていきましょう。
① 情報の把握
花粉飛散開始時期予測と、飛散量予測を知っていれば、マスクや着衣の準備といった対策を立てることができますね。
飛散開始時期については、2018年は例年どおりとの予報が出ております。
また、花粉飛散予測は、東北から近畿、四国地方までの広い範囲で、前シーズンの飛散量を上回る見込みです。
東北から中国、四国地方にかけては前シーズン比で「非常に多い」飛散量が予測されている都道府県があるので、特に注意が必要です。
② 花粉の除去と回避
マスク、メガネですね! 防護器具はとても有効です。
マスクの使用で、鼻の中に入る花粉を3分の1に、さらには花粉専用やPM2.5専用マスクを使用することで6分の1に減らすことができます。
普通のマスクの場合は、湿ったガーゼを挟むことで除去効果を高めることができます。
また、眼球結膜に付着する花粉について、通常メガネでは3分の1に、花粉症用メガネの使用で15分の1に減らすことができます。
着衣に付く花粉量について、衣類の素材や静電気発生の程度によって変わってきますが、ニット製品だと綿製品よりも10倍付着しやすくなります。
もちろん飛散が多いときの外出を避ける、花粉症の方もそうでない方も衣服や髪の毛に付着した花粉を室内に持ち込まないようよく払ってから入室する、掃除の徹底等も大切です。
③ 治療(お薬、手術等)
花粉症の症状が出てから内服するよりも、花粉飛散開始時期からの内服により、症状を軽くできます。
2018年の東京飛散開始予測時期が2月10日前後なので、花粉症の方は、節分のころ(2月はじめ)には受診して準備を始めたいですね。
「薬の成分が脳には移行せず、体内だけで効果を示す」ように設計することに成功した抗ヒスタミン薬が開発されたことで、最近ではより眠気や便秘等の副作用が出にくく効果発現が早いものや、空腹時内服が可能なものも出てきています。(処方については、主治医が、喘息、心疾患やほかのアレルギー反応の有無、肝機能腎機能障害の有無、従事する職種(強い集中が必要なパイロットやドライバー等)によって判断します)
点眼薬、点鼻薬、漢方の小青竜湯を合わせて保険処方してもらうなど、ご自身にベストな処方を相談しましょう。
職業人は、診察通院や薬局来訪の時間確保に悩むところです。
症状を我慢してパフォーマンスが落ちることを避けるため、治療を取り入れられるように工夫してみてください。
症状が重い方は、舌下免疫療法、皮下免疫療法、レーザー治療、内視鏡下手術等、かかりつけの耳鼻咽喉科の先生と相談をしてみましょう。
④ タバコを避ける
タバコは粘膜を傷つけ、症状を悪化させるため避けましょう。
職場内分煙対策への取り組みも必須です。
そのほか、いうまでもありませんですが、規則正しい生活やバランスのとれた食事に気を付けることが重要です。
もちろんストレス疲労をためすぎないということも大切ですね。
組織として、花粉症による労働生産性の低下防止策
上記①~④の情報を、この時期の衛生委員会を通して社内に周知することが望まれます。
今回ご紹介した花粉症に限らず、先を見越すことができる生産性低下リスクへの備えが、これからの衛生管理に求められます。
たとえば、暑い時期に熱中症対策をお話しすることも大切ですし、加えて、この寒い時期に汗をかく習慣をつけることが暑熱順化を促進し、熱中症対策につながることを伝えていくことが、先を見越した予防となります。
もっと未来に目をはせると、働く人が減少していく時代を見越して、従業員が健康に長く働くことができるように、今から組織の健康施策に投資していくことが大切です。
私見ではありますが、隣の席の花粉症の方のために、花粉を持ち込まないようにしようという思いやりが、組織の活性化、ひいては労働生産性の向上につながるのかもしれませんよね。
<参考文献等>
*1 「花粉症患者実態調査報告書」(東京都福祉保健局)
*2 南由優他「スギ花粉症患者の労働生産性と症状・QOL の関連―2008年と2009年の比較 ―」481~489頁(「日本鼻科学会会誌」49巻4号、2010年)
*3 特定非営利活動法人花粉情報協会「スギ・ヒノキ花粉飛散予測セミナー」(2017年12月21日開催)