在宅勤務の導入により柔軟な勤務体系が確立する一方で、これまでどおりの産業保健活動に取り組めず困っているという悩みをしばしば耳にします。
そのなかでも特に大きいのは「産業医面談」ではないでしょうか。
対面で実施をしようと思うと、そのためだけに対象者に出勤を促すことになり、少し本末転倒気味です。
そこで考えられるのがテレビ電話システムを活用したリモート、オンラインでの産業医面談。
すでにオンライン産業医面談を導入済みのところも多いと思いますが、実施する際の留意事項(以下、本留意事項)が厚生労働省から出ており、2020年11月には一部改正が行われています。
今回は、本留意事項についてわかりやすく解説します。
そもそも産業医面談はどうして対面?
「産業保健新聞」の読者の方は産業医面談についてよく知っている方が多いと思います。
健診結果に基づく面談、長時間労働者との面談、高ストレス者との面談など、産業医と面談する機会は多々ありますね。
しかし原点に立ち返ると、必ずしも「面談」である必要はなく、たとえば電話、あるいはメールでもいいような気がしてきませんか?
産業医面談が対面前提であるのは、「対面」でないと得られない情報があるためです。
たとえば表情、しぐさ、話し方、それに声色など。
産業医はこれらも踏まえて労働者の状況を把握しているのです。
オンライン産業医面談の準備における留意事項
前述のとおり、産業医面談が対面原則であるのは労働者の様子を把握するためです。
これを踏まえ、本留意事項では最初に産業医に提供すべき情報、オンライン面談を行ってもよい医師の条件が示されています。
1.事業者は労働者の情報を提供する
事業者側は、オンライン面談を行う医師に対して、面談対象者について以下の情報を提供する必要があります。
・ 対象者が働く事業場の事業概要(どんな事業を行っているか)、業務内容
・ 作業環境
・ 対象者の業務内容
・ 労働時間、勤怠など勤務の状況
・ 作業環境 など
これらの情報提供は、対面で行うときにも変わらず提供しているものでしょう。
2.オンラインでの面接指導は産業医が前提
また、面接指導を行う医師についても以下いずれかの条件を満たす必要があると定められています。
① 事業場の産業医
② (雇用契約を含む)契約によって過去1年以上、事業場で働く労働者の日常的な健康管理に関わっている
③ 過去1年以内に、事業場を巡視したことがある
④ 過去1年以内に、(今回の面接指導対象者に)面接指導をしたことがある
多くの場合、オンライン産業医面談は事業場の嘱託産業医が行うことになり、上記の条件のうち①を満たしています。
しかし、なかには嘱託産業医がストレスチェックの実施者や高ストレス者面談を引き受けてくれないがために、別途医師に依頼をしている事業場もあるのではないでしょうか。
その場合②~④のいずれかの条件を満たしていなくてはいけません。
これを機に、産業保健活動全般を引き受けてくれる産業医を検討するのも、一つの手かもしれません。
情報通信機器の要件やオンライン産業医面談の実施方法
ここまではオンライン産業医面談の準備段階における留意事項をご説明しました。
以下では、オンライン産業医面談を実施していくなかでの留意事項をご紹介していきます。
1.円滑かつ情報セキュリティが確保された方法
オンラインの産業医面談というと、PCでZoomやSkypeなどテレビ会議システムの利用が一般的と思います。
本留意事項においては、PC、あるいは面談に使うツールなどが以下の要件すべてを満たしていることを求めています。
① 面談者(医師)と面談対象者(労働者)が互いに表情、顔色、声、しぐさなどを確認でき、なおかつ映像と音声が安定、円滑であること
② 情報セキュリティが確保されていること
③ 複雑、難解な操作が求められず簡単に使用できる機器であること
Zoomを使用する際、メイク機能や美肌加工アプリを使用している方もいるかもしれませんね。
①にあるように顔色などを確認するうえではこれらは使うのは不適切と考えられます。
また、②については在宅勤務環境を整備するうえでも求められる要件です。
2.事前の周知は必須
オンライン産業医面談を行ううえでは、その実施方法について衛生委員会などの場で調査審議を行い、事前に労働者に周知していなくてはいけません。
毎月の議事録公開時に合わせて行いましょう。
また、対面の産業医面談でもプライバシーには十分配慮していると思いますが、この点はオンラインになっても同様です。
第三者に面接内容が知られないような環境を整備してください。
さらに、面談中には、緊急で対応しなくてはいけない場面も出てこないとは限りません。
遠隔であるからこそ、事業場や事業場の産業保健スタッフと連携できる体制づくりは一層求められます。
すでにオンラインでの産業医面談を導入している事業場でも、本留意事項に則った運用ができているか改めて確認しましょう。