あなたは、自社の「公正採用選考人権啓発推進員」が誰であるかを知っていますか?
もしかしたら、「そもそも聞いたことがない」という方も多くいらっしゃるかもしれません。
従業員の数によっては選任状況報告を事業所管轄のハローワークに提出する必要がある公正採用選考人権啓発推進員。
一体何のために選任にし、どのようなことをするのかを今回は確認していきます。
公正採用選考人権啓発推進員とは
公正採用選考人権啓発推進員とは、採用選考に際し、出身地や年齢、性別、思想信条等で就職差別を行わないように、企業内で公正な採用が行われるように、制度の創設・維持を担当する人を指します。
「出身地や年齢、性別、思想信条等で就職差別を行わない」
当たり前のように思えることですが、気づかないうちに就職差別的な質問をしている場合もあります。
人権に配慮した公正な採用選考ができているか、いくつかの面接のやり取りを例に確認していきましょう。
【例1】
今日はどちらからお越しになられましたか?
川崎はご実家ですか?
一見、応募者の緊張を和らげようと面接に入る前の雑談のようにも思えるやり取りですが、就職差別につながるおそれがある質問が含まれています。
本人に責任のない事項
①「本籍・出生地」に関すること
②「家族」に関すること(職業・続柄・健康・地位・学歴・収入・資産など)
③「住宅状況」に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
④「生活環境・家庭環境など」に関すること
これらの質問は、応募者が職務を遂行するために必要な適性・能力を判断するものではありません。
そのため、これらの事項について応募用紙(エントリーシートを含む)に記載したり、面接時において尋ねることは望ましくありません。
【例2】
特に歴史が好きで、歴史小説を月に5冊ほどのペースで読んでいます
一見、応募者の話しやすい話題をふっているようにも思えるやり取りですが、こちらもやはり就職差別につながるおそれがある質問が含まれています。
本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)
⑤ 宗教に関すること
⑥ 支持政党に関すること
⑦ 人生観・生活信条などに関すること
⑧ 尊敬する人物に関すること
⑨ 思想に関すること
⑩ 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
⑪ 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
これらの質問は、日本国憲法で保障されている個人の自由権を侵すことになるとされています。
また、次の事項を実施することも就職差別につながるおそれがあるとされています。
採用選考の方法
⑫ 身元調査などの実施
⑬ 全国高等学校統一応募用紙・JIS規格の履歴書(様式例)に基づかない事項を含んだ応募書類(社用紙)の使用
⑭ 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
公正な採用選考を行う基本とは、就職の機会均等のため、求人条件に合致するすべての人が応募できるよう応募者に広く門戸を開くことや応募者が職務を遂行するために必要な適性・能力をもっているかという採用基準での選考が必要です。
推進員の選任対象となる会社と適任者は?
推進員の選任は、会社単位ではなく事業所単位で必要です。
・ 常時使用する従業員の数が50人以上である事業所
・ 常時使用する従業員の数が50人未満であっても公共職業安定所長が推進員を選任することが適当であると認める事業所
・ 職業紹介事業または労働者派遣事業を行う事業所
これらの事業所は推進員を新たに選任した時や人事異動等により推進員に変更があった場合、「公正採用選考人権啓発推進員選任状況報告」を事業所管轄のハローワークに提出する必要があります。
では、適任者は誰でしょう。
原則として人事担当責任者等、採用選考など人事管理に関する事項について相当の権限を有する方から1名を選任するのが望ましいとされています。
違反した場合には罰則が科されるおそれも
適正・能力に関係ない事項は、それを採用基準としないつもりでも、応募用紙に記載させたり面接時に尋ねたりすれば、その内容は結果として採否決定に影響を与えることとなり、就職差別につながるおそれがあります。
また、それらの事項を尋ねられたくない応募者に対して精神的な圧迫や苦痛を与えたり、そのために本人が面接で実力を発揮できなかったりする場合があり、結果としてその人を排除することにつながります。
違反した場合は、罰則が科せられる場合もありますので、エントリーシートや面接の質問内容には十分に配慮し、公正な採用選考に努めましょう。
<参考>
厚生労働省「公正な採用選考を行うために」