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つながる義務からつながらない権利へ
- 2018/12/8
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「お休み中にすみません。A工業のBさんからお電話がありまして、至急確認したいことがあるそうです。申し訳ないのですが、Bさんにお電話いただけないでしょうか」
こんなシチュエーション、身に覚えはありませんか。
業務上、なんらかの事由で休暇中の社員と連絡を取り合い、さらには業務を依頼する場面です。
「お休み中にすみません」と連絡する立場も、あるいは連絡を受ける立場も、経験者は多いと思います。
なかには、盆も正月も慶弔も関係なく、いついかなるときも社用携帯が手放せないという人もいるのではないでしょうか。
実はこれ、国によっては「つながらない権利」として法律で禁止されているのです。
つながらない権利とは
つながらない権利とは読んで字のごとくで、労働者が勤務時間外や休日に仕事上の連絡を拒否できる権利のことです。
フランスは世界に先駆け2017年に、いわゆる「つながらない権利法」が施行され、従業員50名以上の企業では、時間外メールの取扱いについての社内ルールを労使で協議することが義務づけられています。
また、イタリアでも同2017年に、「スマートワーカー」と呼ばれる、働く場所や時間を選ばない労働者を保護するための法律が成立し、「就業時間後のつながらない権利」を雇用契約に明記することが義務づけられています。
さらに、本稿執筆時点(2018年11月)では、ニューヨーク市議会で「つながらない権利」の条例案が審議されています。
条例案では従業員10名以上の企業を対象に、「時間外にはメールを返信しなくてよい」などのルールを明文化して周知する旨が盛り込まれており、返信をしなかったことによる懲罰的な扱いも禁止ししています。
さらに、違反した企業には1回ごとに罰金を科すことも検討されているようです。
休憩時間の考えを休暇にあてはめてみる
日本について考えてみると、冒頭のような状況が日常的に横行しています。
ところでここで唐突ですが、労働基準法を見てみましょう。
<労働基準法>
(休憩)
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
2 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
3 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
上記は、休暇に関する労働基準法上の規定です。
3項にあるように、休憩時間については「自由に利用させなければならない」とされています。
たとえば、休憩時間といいながらも、電話番をする、あるいは来客対応をしなくてはならないとしたら…。
これは休憩時間とはみなされません。
厚生労働省によれば、待機時間などのいわゆる手待ち時間は「休憩時間ではなく業務」という解釈を行っており、仮に手待ち時間として休憩時間が費やされてしまった場合は、別途休憩を与えることとしています。
ずっと休暇の話をしていたなかで唐突に休憩の話が始まり、びっくりした人もいるかもしれません。
何を申しあげたいかというと、休憩時間の考え方は、そのまま休暇にも当てはまるのではないか、ということです。
「連絡の可能性」がある休憩時間が業務時間であるとみなされるなら、やはり「いつなんどき連絡があるかわからない」状況は、休暇とはいえないように考えれられます。
つなげない配慮を持とう
国が旗振り役となって進められている「働き方改革」は、現在のところ「目に見える労働時間」に重きが置かれており、「つながらない権利」のような、タイムカード上にあらわれない労働には言及されていないのが現状です。
かといって、「つながらない権利」については、あえて声高に議論する必要もないと思います。
「モーレツ社員」が美徳とされ、その頃に働いておられた方は、「働き方改革」など、労働時間を減らす方向に社会的な機運が高まることは、ゆめにも思わなかったでしょう。
一方で、携帯電話やPCといった情報通信機器がなかった当時、休暇中の社員には連絡の取りようがなかったわけですが、それで会社はうまく回っていたはずです。
こうやって考えると「休暇」については、かつてに比して状況が悪化しているような気すらしてきます。
「つながらない権利」を確立するうえでは、「お休み中の人には連絡しないでおこう」という、一人ひとりの気遣いがあれば、それでなんとかなるようのではないでしょうか。
<参考>
「労働時間・休憩・休日関係」(厚生労働省)