長く働いてもらうために!高齢社員のさらなる活躍推進に向けて

世界的に少子高齢化が進む中、日本も超高齢化社会を迎えて久しく、働き手が年々不足してきています。
現在は、定年が60歳から65歳に引き上げられ高齢者の就業率が高まっており、高齢社員の働く環境や待遇を見直していくことが重要です。
今回は2024年4月16日一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)から公表された報告書「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」(以下、報告書)について解説します。

世界的な高齢者雇用の割合と日本の雇用継続措置の内訳について

報告書内の「データから見た高齢者雇用」によると、日本における65歳以上の高齢者の就業率(2022年)は25.2%、アメリカは18.6%、イギリスは10.9%、ドイツは8.4%、フランスは3.9%となっています。
日本は国際的にも高齢者就業率が高く、高齢者の約4人に1人が働いていることがわかります。
では、日本では高年齢者の雇用を確保するためにどのような措置が行われているのでしょうか。

報告書によれば日本の65歳までの高年齢者雇用確保措置は99.9%の企業が対応済みであり、その内訳は継続雇用制度の導入が69.1%、定年の引上げは26.9%、定年制の廃止は3.9%です。
70歳までの高年齢雇用確保措置については29.7%の企業が対応済みで、68.6%の企業は未対応です。
対応済み企業における措置内容は継続雇用制度の導入が23.5%、定年の引上げは2.3%、定年制の廃止は3.9%、就業確保措置相当の措置実施は1.7%、創業支援等措置の導入は0.1%となっています。
65歳まで継続雇用制度の導入をしている企業の割合が一番多く、70歳までになると未実施の割合が目立ちますが、措置をしている中では継続雇用制度の導入が大勢を占めました。

高齢社員を雇用する際の課題

報告書によると職務・役割、賃金面では、高齢社員に配慮し、約4割の企業が、一定の年齢を超えると一律に役割や職務の範囲を縮小して高齢社員に割り当てる「役職定年制」を導入している一方で、業務量の減少や雇用保険の高年齢雇用継続給付の受給要件への適合などで、高齢社員の基本給や賞与の水準が下げられるケースは多いようです。
そのため、職務・役割と賃金水準との乖離が生じ、高齢社員のエンゲイジメントやパフォーマンスを低下させている可能性があるとされています。

また、人事評価については、高齢社員への人事評価は実施しても、基本給への反映を行った企業は5割を下回っています。本人へのフィードバックを実施していない企業も2割程度存在しており、こうした企業では、高齢社員は自分の頑張りが見えず、仕事の成果や目標の達成度合いの確認をすることができません。

マネジメント面では、個々人の事情に応じたマネジメントが約6割の企業で課題となっており、「年下上司」「年上部下」といった関係性が課題だと感じる企業は約5割です。
加齢に伴う個人間の格差をふまえ、職場環境や働き方における個別の配慮・マネジメントが課題と言えます。
年齢を重ねるにつれて、個人差はあるもののどうしても記憶力や体力の低下が起こります。また、配偶者や親の介護、持病を抱えている方も増えてくるため、こうした課題への配慮やマネジメントも必要になってくるでしょう。

また、報告書によるとスキルアップや技能などの伝承面では、高齢社員の中でスキルアップに取り組む社員は少なく、企業側も自己啓発に対する支援が不十分という面もあるため、まずは、企業側の支援策の拡充が必要とされています。
それに加え、後継者育成の面では長年培ってきた高齢社員が有する知識や技術・技能の伝承ができておらず、熟練技能が求められる業種などでは環境整備が重要です。
安全面では、高齢社員における労働災害も増加傾向にあります。
高齢社員自身の安全管理も重要ですが、企業側も高齢社員の安全・健康を確保した職場環境の整備に向けてさらなる取り組みが必要とされています。

高齢社員を雇用する上での企業側の課題解決に向けて

ここまでさまざまな課題が上がってきましたが、企業側は高齢社員の低下する体力や能力などのマイナス面のみを見て安全確保や配慮に踏み切るのではなく、心身のプラスの変化も考慮して、検討・見直しを進めていくことが大切だと言えます。
報告書内の「基本的な考え方」によると、これまで培ってきた知識や経験を活かして問題を解決する「結晶性知能」は加齢による影響を受けにくく、この能力は80歳まで上昇すると言われています。
また、ワークエンゲージメント(「活力」「熱心さ」「没頭」)は、加齢に伴って上昇する傾向にあり、61~75歳は全年代で最も高いです。

高齢社員を雇用する上での、企業側の課題解決に向けた具体的な対応として、報告書内には以下の記載があります。

職務・役割面では高齢社員の有する能力などを活かすことができる職務や役割を割り当てましょう。
賃金面では、同一労働同一賃金の観点による検討や高齢社員が担っている職務や役割、組織への貢献度と整合性のとれた賃金水準を設定することが大切です。
組織への貢献度を知るためには、働いている社員全員を対象に人事評価を実施する制度作りも大切です。高齢社員が担う仕事内容や量を人事部門が全体調整することも一案です。

また、高齢社員の能力開発・スキルアップを経済面で支援する仕組みを整備し、今まで培った知識やノウハウはマニュアル化・デジタル化して整理・保管をします。
安全面では、労働災害を防止のために、ロボットの導入や多様で柔軟な勤務制度の整備・拡充が必要だと言えます。

今後の方向性

報告書によると、今後は「定年年齢の引上げ」や「定年廃止」も視野に置きながら、人事・賃金制度の見直しや再構築を検討する企業が増加する見込みとなっています。
現状、定年を設定しつつ、定年後に適用する人事・賃金制度を別建てする層が大勢を占めます。
今後は、高齢社員の活躍推進に資するさまざまな施策を、自社にとって最適な「自社型雇用システム」確立の一環として、検討・見直していくことが求められるでしょう。

少子高齢化で働く人が年々減っている世の中で、高齢社員は貴重な労働力と言えます。
私たちも歳をとり、高齢者も増えていきます。
一度立ち止まって自社の現状と課題を見直し、高齢化社会に再度備える準備をしてはいかがでしょうか。

<参考>
一般社団法人日本経済団体連合会「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」

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藤澤 志緒里株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

大学では、精神疾患を中心に社会福祉について学び、卒業後は生命保険会社に勤務しておりました。少子高齢化が進み、働き手が必要な世の中で「健康で、楽しく元気にはたらく人を増やす」ことはとても重要だと感じています。いきいきと日々を過ごせるよう仕事だけではなく、日常生活にも役立つような情報を皆さまに共有できればと思います。

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