褒めて伸ばすには限界が?――「叱る」を見直す
- 2016/8/20
- メンタルヘルス
ビジネス書から子育て本まで、人を育てる際の主な考え方は「褒めて伸ばす」のようで、たくさんのHow To本が世の中に溢れています。
部下の成長を願う上司であれば、それを実践しようするでしょう。
しかし、なかなかうまくいかないと悩む…。
そう、実際の職場では、「褒めて伸ばす」という考えだけでは通用しないことを実感せざるを得ないでしょう。
事実、部下のやる気を出し、成長を促すためには、「褒める」という一側面からのアプローチでは対応できません。
やはり、もう一つのアプローチ ――「叱る」は、必要不可欠なのです。
なぜ叱れない上司が増えているのか
しかしながら、今の時代「叱れない」上司が増えているようです。
どうして叱れないのか…。
そこにはさまざまな理由があるようです。
まずは、「叱る」という行為に対する誤認識が挙げられます。
叱ることは、相手を傷つける行為で、それにより相手の自信ややる気を低下させてしまうと思っていませんか?
叱る行為は、自分の感情を前面に出す「怒る」とよく比較されますが、そもそも叱るとは、相手の誤りや改善すべき点を指摘し、意識や行動を変え、成長を促すためのものです。
起こった結果という過去にだけ焦点をあてた「怒る」行為とは別に、そもそも「叱る」のは、相手の未来を期待している行為です。
つまり、褒めると叱るは真逆の行為ではなく、表裏一体です。
どちらも、部下の今を見つめ、今後への成長を促すためのもので、相手に関心をもち、つぶさに見ていなければできません。
叱ることの本質をきちんと理解し、仕事に対して毅然たる信念を持って初めて「叱る」という行為が成り立つのです。
そのためには、日頃からどういうことで叱るかのポイントを共有し、叱る側はそこに一貫性を持たせる必要性があります。
怒るとは違い、叱る側に求められる覚悟は大きいのです。
特に、パワハラやメンタル不調という言葉が職場で溢れている今の時代に、「叱る」という行為が一定のリスクをはらんでいるのは事実です。
これも叱れない上司の増加の要因の一つでしょう。
毎年3月に発表される新入社員の特徴とタイプがあります。
ここ数年の特徴からも、上司が「叱る」のを躊躇する理由が見えてきます。
●平成28年度新入社員のタイプは「ドローン型」
姿勢を自動制御する機能が進歩したため、特別な専門家でなくても扱え、広く普及し始めたドローン。しかしながら、その飛行は風にあおられると、いささか心もとなく見える時もある。
使用者(上司や先輩)の操縦ミスや使用法の誤りによって、機体を傷つけてしまったり、紛失(早期離職)のおそれもある。
●平成27年度新入社員のタイプは「消せるボールペン型」
見かけはありきたりなボールペンだが、その機能は大きく異なっている。
見かけだけで判断して、書き直しができる機能(変化に対応できる柔軟性)を活用しなければもったいない。
ただ注意も必要。
不用意に熱を入れる(熱血指導する)と、色(個性)が消えてしまったり、使い勝手の良さから酷使しすぎると、インクが切れてしまう(離職してしまう)。
<公益財団法人日本生産性本部 調査結果より>
どう叱るかより、叱る前後が大切
時代の風潮やメディアの情報から、「相手を叱ったことでメンタル不調になったらどうしよう」「叱ったことで、会社を辞めてしまったら」「パワハラと言われたら」と、今の時代、叱ることに慎重になるのは当然ともいえます。
そんな中、「上手に叱ろう」とする人が増えてきました。
しかし、正しい叱り方や誤った叱り方など、叱り方の方法の知識習得に励んでも実際にはそのように叱れずに自信をなくし、ますます叱ることから遠ざかる人も多いようです。
一般的に、感情的に叱るのは「叱る」ことにはならないと言われますが、話す中でどうしても感情的になるのは誰にでもあること。
そういう場合は、一度本質に戻ってみてはいかがでしょうか。
叱る目的は、「上手に叱ること」でも「傷つけないこと」でもなく、「相手の成長に繋げること」です。
どう叱るかよりも、叱る前の信頼関係の構築と、叱ったあとのフォローを大切にすることで、相手の成長につなげることができます。
上司も部下も人間です。
感情的なやり取りを一切排除することはできませんし、それはそれで不自然な人間関係です。
きちんとした信頼関係が構築されていれば、多少感情的な叱り方をしたとしても問題にはなりません。
「誰に言われるか」は人の心理としてとても大切な意味をもちます。
また、なぜ叱られたのかをきちんと理解させるアフターフォローも、成長を促すには欠かせません。
叱る3つのステップ
最後に、オリンピックでのメダル請負人として有名なシンクロナイズドスイミング 井村雅代ヘッドコーチの「叱る3原則」を紹介します。
① 「相手の悪い所をはっきりと指摘する」
② 次に「直す方法を指導する」
③ 最後に「直ったかどうか、OKかNGかをきちんと伝える」
叱るという行為は、その場だけのコミュニケーションでは成り立ちません。
①の指摘の仕方よりも、①~③の流れが大切です。
どんなに時代が変わっても、職場は人の集まる場です。
取り組むべき課題は、「叱る」といった行為のみならず、今までもこれからも人間関係構築の基盤となる、あらゆるコミュニケーションに及ぶでしょう。