パワハラ防止指針案、厚労省審議会で了承~2020年6月から適用開始~
- 2019/11/23
- 産保新聞ニュース
2019年11月20日、厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会にて「パワハラ防止指針」(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)の案が示され、了承が得られました。
パワハラ防止指針は、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)の具体的内容や、企業としての対応方法を定めるものです。
大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月から適用されます。
以下では、パワハラ防止指針を詳しく見ていきます。
職場におけるパワハラの3要素と、6類型
パワハラの3要素
パワハラ防止指針で対象となる労働者は、正規雇用者だけでなくパートタイム労働者や契約社員といったいわゆる非正規雇用者も含まれます。
ここで気になるのは派遣労働者の扱いでしょう。
派遣労働者は、派遣元、派遣先の両方でパワハラ防止指針の対象となります。
また、派遣先においては、「派遣労働者がパワハラの相談をしてきた」ことを理由として、派遣打ち切りなどを行ってはいけないと定められています。
ではパワハラとは具体的に何を指すのでしょうか。
まず、職場におけるパワハラは、次の要素すべて満たすものをいいます。
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの
① 優越的な関係を背景とした言動
「優越的な関係」とは必ず「上司から部下へ」を指すわけではありません。
たとえば、知識や経験が豊富な同僚、部下がいたとして、彼らの協力がなければ円滑な業務遂行を行えないとしたら、「優越的」には「同僚、部下」が当てはまります。
また、同僚、部下が集団となっての行為で、抵抗、拒絶できない場合も同僚です。
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの
「業務上必要かつ相当な範囲」は具体的に指し示すことが非常に難しいものです。
そのため、言動の目的、言動が行われた経緯や状況などといったさまざまな要素を総合的に考慮することが求められます。
③ 労働者の就業環境が害されるもの
「労働者の就業環境が害されるもの」とは、その労働者が与えられた苦痛によって、いつもの能力が発揮できないことを指します。
この見極めを行うためには「平均的な労働者は同じ状況下での同じ言動に対して、どう感じるか」を基準とするのが適当だとされています。
職場におけるパワハラの6類型
前述①~③だけでは「これがパワハラだ」と断定するのが難しいでしょう。
そこでパワハラ防止指針では、パワハラに該当する言動を次の6類型に分けて示すとともに、各類型においてパワハラに該当しない例も紹介しています。
(1) 身体的な攻撃(暴行、傷害)
・ 足蹴にする、物を投げつけるなど
パワハラに該当しない例:誤ってぶつかった場合
(2) 精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言)
・ 相手の性的指向などに関する侮蔑を含む、人格を否定するような言動
・ 必要以上の長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
・ 他の労働者の面前での大声かつ威圧的な叱責を繰り返し行う
・ 相手の能力を否定し、罵倒する内容のメールなどを、相手を含む複数の労働者に送ること
パワハラに該当しない例:遅刻などを繰り返す、または重大な問題行動を行った労働者への強い注意
(3) 人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視)
・ 自分の意に沿わない労働者を仕事から外し、別室に隔離したり、自宅研修させる
・ 一人の労働者を集団で無視する
パワハラに該当しない例:新規採用者を研修のために、短期集中的に別室で研修教育する。諸武運を受けた労働者に対して、一時的に別室で研修を受けさせること
(4) 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
・ 業務に直接関係のない肉体労働を過酷な環境下で長時間強いる
・ 新卒採用者に対して、必要な教育を行わず、厳しい業績目標を課し、未達成のときに厳しく叱責すること
・ 私的な雑用処理を強制的に行わせること
該当しない例:育成のために現状よりも少しレベルの高い業務を任せる、繁忙期のために通常よりも一定程度多い業務を任せること
(5) 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること、仕事を与えないこと)
・ 管理職に対して退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること
・ 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと
パワハラに該当しない例:労働者の能力に応じて、業務内容、量を軽減すること
(6) 個への侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
・ 職場外で労働者を監視したり、私物を写真に撮ったりすること
・ 労働者の性的指向や性自認、病歴などの機微個人情報を勝手に他の労働者に暴露すること
パワハラに該当しない例:労働者への配慮を目的として家族にヒアリングを行うこと。労働者の了解を得て機微個人情報を必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと
企業としての対応
パワハラ防止指針では、パワハラ問題に対して企業(事業主)講ずべき措置が以下のとおり示されています
① 企業としてのパワハラ防止に向けた方針の明確化、周知・啓発:企業としてパワハラを行ってはならない旨の方針を定め、就業規則に規定するほか、社内報やパンフレットなどで絞めストともに、パワハラを行った労働者に厳正な対処を行う旨を就業規則などで定める
② 相談窓口の設置:パワハラ相談窓口の制度、および担当者を定める。
※ 外部機関への委託でも構わない
③ パワハラが発生した場合の迅速かつ適切な対応:パワハラがあったと労働者から申告があった場合には、速やかかつ正確に事実確認を行い、被害者へのハリよのための措置、行為者への措置を適切に行う。
④ プライバシーを保護するために必要な措置を講じる
⑤ パワハラの申告などをしたことを理由による不利益な取り扱いをしない旨を定め、周知・啓発
⑥ コミュニケーションの活性化や円滑化のための必要な研修などを行う
⑦ 適切な業務目標設定など、職場環境改善のための取り組みを行う
これらは、社内でのパワハラ防止対策としてはもちろんのこと、社外(取引先)からのパワハラにも対応できるように講ずべきとされています。
パワハラ防止指針適用までに何をすべきか
冒頭記したとおり、大企業では2020年6月より、パワハラ防止指針が適用となります。
つまり、それまでに体制を整備する必要があるのです。
まずは、パワハラ防止に関する社内規程などの整備を行っていきましょう。
その際には、「パワハラを行ってはいけない旨」を盛り込むと同時に、「パワハラを行った社員への対処」も具体的に盛り込みましょう。
また、相談窓口も合わせて設けてください。
相談窓口は、社内、社外のどちらでもよいとされていますが、社内の窓口の場合は、「相談しても不利益な取り扱いはしない」と明記されていても、なかなか言いづらいもの。
なるべく外部の第三者機関を利用しましょう。
パワハラが発生した企業は、企業としての評価を著しく下げる可能性があります。
会社を守るためにも、そして何よりも従業員一人ひとりを守るために、パワハラ防止には積極的に力を入れていただきたいと思います。